生成AIとクリエイターの共存:プロ向けマインドセット【日光メープルシロップ制作事例】

Nikko Maple Syrup Visual Production Case Study

近年、画像生成AIの急速な発展が、クリエイティブ業界に大きな変革をもたらしています。当初の不安や戸惑いは、次第にその可能性と限界の理解へと変わってきました。本記事では、日光メープルシロップのビジュアル制作を通じて、プロのクリエイターがこの新技術とどう向き合い、共存していくべきかを探ります。

プロジェクトの背景

クリエイターである私たちは常に新しい表現を探求しています。今回は「味わいの可視化」という普遍的テーマの追求、それに加えて画像生成AIを制作プロセスに取り入れる挑戦をしました。氷屋四代目徳次郎にご協力いただき、日光メープルシロップのキービジュアルを作成しました。この取り組みは、私たちの創造力がAI技術の関わり方の可能性を引き出す機会となりました。

人間とAIが協働するプロセス

1.人間による商品理解と世界観の構築

プロジェクトは、クライアントの想いを丁寧に聞き取ることから始まります。そのうえで、メープルシロップを実際にテイスティングし、五感を通じて日光の山に自生する何種類ものカエデの樹液が合わさった味わいを理解しました。人間ならではの感性とコミュニケーションを重視し、クリエイターの実感とクライアントとの対話から得た洞察を融合させながら、味わいの世界観のアイデアを出します。

2.AI MoodBoardによるイメージの可視化

次に、クリエイターの頭の中にある世界観を、画像生成AIを使って具体的に可視化します。簡単に画像生成できてしまうからこそ、的確なイメージにたどり着くまで手を抜かずにプロンプトを調整しました。日光の自然やメープルシロップの特徴を表現したムードボードが完成し、クライアントとのイメージ共有が格段にスムーズになりました。MoodBoard, an image-generating AI that serves as a tool to extend creativity and deepen imagery.

画像生成AIを活用したMoodBoard。創造性を拡張させイメージを深化させるツールとしてのAI。

3.撮影アイデアの決定

ムードボードを基に、撮影コンセプトを検討しました。清らかな水、鮮やかな紅葉、木漏れ日に照らされ滴る樹液—これらの要素が、日光の恵みと自然由来の優しい味わいを効果的に表現すると確信しました。

 concept visual

決定した撮影アイデア

4.生成AI画像を活用したバーチャルプロダクション撮影

アイデアの実現のために、日光の山に赴き紅葉の中で商品撮影をしたいところでしたが、季節は初夏。季節外れの撮影は、広告業界でよく直面する課題です。今回、私たちはこの課題解決にもAIを活用することにしました。AIが生成した紅葉背景画像をスタジオ内に投影し、理想的な撮影環境を再現。プロのフォトグラファーの卓越したスタジオライティング技術と、AIが生成した背景画像を絶妙に組み合わせることで、季節を超えた魅力的な空間を創出しました。

Production scener

ビジュアルの制作風景。メープルのシズルにこだわりながら、クリエイターの技術と感性で表現を模索している様子。

以上のプロセスから、日光の美しい自然がギュッと詰まった優しい味わいを持つ、日光メープルシロップのビジュアルが完成しました。

Completed visual

氷屋四代目徳次郎に協力いただき制作した、日光メープルシロップビジュアル。

アートディレクター:コンスタンス・リカ(アマナ/EVOKE)撮影:長瀬威郎(UN)。

商品の背景にある本質的な思いを表現するため、生成AI画像と撮影写真を組み合わせながら、試行錯誤の末に仕上げました。

制作を通じて感じたAIとの適切な距離感

Insight 1:痒いところまでは手が届かない。

AIは驚くべき速さで70%の完成度に達しますが、残り30%の仕上げには人間の技術と感性が必要です。この最後の詰めこそが、プロの腕の見せどころです。

Insight 2:頼りすぎは思考停止に陥る。

AIの便利さに魅了されるあまり、過度に依存すると自身の判断力や創造力が低下する危険性があります。人間としての感性を大切にするところから創造性が生まれます。

Insight 3:人もAIもアップデートが必要。

自然言語処理の発展により、AIとの自然な対話が可能になりましたが、創造性においては限界があります。ある意味、人間が能力を発揮する余白があるということ。それに気づけるようになるために、人間のアップデートも必要です。

効果的な活用のためのマインドセット

1.批判的思考を保つ

AIの出力を鵜呑みにせず、常に人間の目で検証し評価することが重要です。AIの誤りや偏りを見抜く力を磨き、より質の高い成果物を生み出しましょう。

2.法的・倫理的配慮

著作権や倫理的問題はAI活用の大きな課題です。現状の法規制や議論の動向を把握し、リスクを認識した上で慎重に活用することが求められます。

✔️関連記事:生成AIを活用したクリエイティブ事例とガイドライン策定のススメ

3.人間の強みを活かす

独創性、意外性、時代感覚など、AIにない人間独自の視点を大切にします。AIの出力を基に、人間ならではの創造性を発揮し、作品に新たな価値を付加することができます。

4.継続的な学習

AI技術は日々進化しています。最新の技術動向をキャッチアップし、新しいツールや手法を自身のワークフローに柔軟に取り入れる姿勢が重要です。

AIとの共存に向けて

最後に、このプロジェクトを通じて私たちが再確認したことがあります。それは、由来のある地に足を運び、その土地の空気を肌で感じることの大切さです。日光の山々を訪れ、清らかな水の流れを目にし、木々のざわめきに耳を傾ける—この体験は、私たちの感性を揺さぶるものでした。
生成AIは確かに強力なツールですが、人間の創造性に取って代わるものではありません。AIの長所を理解し活用しつつ、人間ならではの創造力を磨くことで、両者の共存が可能となります。

例えば、AIで生成した素材を基に、人間の感性でリミックスしたり、予想外の組み合わせで新しい表現を生み出したりすることができます。また、AIの出力を批判的に検討することで、自身の創造性を刺激し、新たなアイデアの源とすることも可能です。これからのクリエイターに求められるのは、先端技術を使いこなす力と、本質を見極める目利き力の両方なのではないでしょうか。

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文:堀口高士(アマナ/EVOKE)

ビジュアル:堀口高士、コンスタンス・リカ (アマナ/EVOKE) 

撮影:長瀬威郎(UN)

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