「自分らしく」を追求する、これからのスキンケアとヘアケア。健やかさを求める潮流を解説:STYLUS Trend Topics⑧

Beauty Trends

この連載では、世界中のマーケット潮流をリサーチ・レポートするイノベーションアドバイザリー「STYLUS」の日本法人でカントリーマネジャーを務める秋元陸さんに、同社のグローバルレポートに基づき、企業の広報・マーケティング担当者が知っておくべきトレンド情報を解説していただきます。

第8回のテーマは、2024年から2026年にかけてのビューティートレンドのトピックから、スキンケアとヘアケアの話題についてピックアップしました。

専門家の監修とオーガニックブームの継続

まずはスキンケアの動きについて解説していきます。この領域はビューティー業界の市場の45%を占める、影響力の大きな分野です。注目を集めているのは、肌の健康を保つという製品。ピンク色の中身がSNSで「映える」ことで話題にもなったThe Ordinaryや、MoralOf Other Worldsといったブランドは、有害物質や紫外線、大気汚染から守るというコンセプトが主流になっている印象があります。

The Ordinary
The Ordinaryのサイトより。

また、コロナ禍以降、ソーシャルメディア上で起こっているムーブメントが、科学者などの専門家に対する信頼感の高まりです。Dr. David JackDr. Whitney Bowe BeautyTRNR SkinRoutine+AesturaSepia Skincareといったブランドは、すべて製品開発に皮膚科の医師が関わっていたり、それに類する認証を受けていたりします。

Dr. David Jack
Dr. David Jackのサイトより。

近年では「クリーンビューティー」という概念が登場し、価格ではなく自分の肌質に合っているかを基準に製品を選びたいというマーケットのニーズが強くなったことで、専門家に対する期待値や信頼感が年々高まっています。単に優れた素材を使っているだけでなく、有識者のお墨付きをもらったもの、有識者から発信されている製品の評判がいいのは、こうした需要に沿っているからだと考えられます。

そして今も、専門的な施術やケアができるスパのような施設の人気は非常に高いのですが、逆にリモートワークなどの普及によって自宅で過ごす時間や、自分に投資できる時間が増えたために、自宅でハイクオリティなケアをしたいというニーズも高まってきています。もちろん、プロの施術を体験したいという方もいますが、自分が自宅で使うビューティープロダクトにも、より付加価値が高く、また手間をかけてでも効果や効能があるものを選びたいという傾向は、1つのトレンドと言えます。

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大人のニキビケアとエイジング対策

昔からあるニキビケアは若い世代向けのジャンルですが、最近になって、大人向けのプロダクト展開をする企業が増えてきました。たとえば、CurelはZ世代の若者向けのマーケティングコミュニケーションに力を入れていますが、Glitch Skinは大人ニキビを対象にして、老廃物の排出を促しつつニキビ跡をケアするという、2つの機能をアピールしています。大人の肌質に合わせたニキビケアのプロダクトも、1つのトレンドになっているのです。

また既存ブランドが新しいケアの提案として、エイジングケアと絡めて「ロンジェビティ(長寿・長命)」というキーワードを使い始めています。マーケティング観点から考えるとわかりやすいですが、今、主に先進国では中高年の人たちの人口比率が高いですね。ビューティーの領域のブランドは、若年層の指示を得たい一方で、いわゆる団塊世代や団塊ジュニア世代にあたる人たちの割合が市場では大きく、購買力も比較的高めなので、そうした中高年の人たちをターゲットにしていくことも定石的な戦略と言われています。

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当たり前のことですが、人々は年齢を重ねていきます。それに対して、これまでは「いつまでも若々しく」とか「いつまでも20代、30代の肌で」といったコミュニケーションのメッセージが主流でした。しかし、気持ちのうえではお金と手間をかけて、20代、30代の肌を目指したいという心持ちはあるかもしれませんが、60代や70代の人向けにそういうコミュニケーションを続けていては、受け手も伝える側も違和感を感じるようになってきたと言えます。そこで、「ロンジェビティ」という言葉を使ってコミュニケーションを再構築しようとしているのではないかと、STYLUSでは分析しました。「健康的に年齢を重ねていく」、あるいは「美しく健やかに歳を重ねる」といったメッセージを伝えたいということです。

パフォーマンスビューティーとα世代への注目

フィットネスやジムで汗を流す人が増えたことで、アクティブなライフスタイルに特化したブランドやスキンケア用品のことは、「パフォーマンスビューティー」呼ばれています。たとえば、lululemonというヨガウェアのブランドはスキンケア用品も提供しているのですが、これは運動した後の肌がターゲット。汗をかいた肌は通常の肌とはコンディションが違いますし、水泳をすれば肌がずっと高濃度の塩素にさらされて非常に乾燥しやすくなっていたり、屋外で長時間走れば日焼けのダメージも大きくなったりと、スポーツをすることによって肌にストレスがかかります。そこに特化したスキンケア製品が出てきているということです。

Lululemon
Lululemonプレスリリースより。

ほかにも、2010年代以降に生まれたα世代の子どもたちは、SNSなどの影響で、ラグジュアリーブランドやスキンケア、セルフケアに関する将来に向けた投資に意欲的です。そのため、この世代が対象のスキンケア製品のマーケットもかなり拡大してきました。

この領域では、リップケアなどいろいろなジャンルのアイテムが登場してきたうえ、成分としても、ヒアルロン酸やコラーゲン、ペプチド、セラミド、アルテアという植物の根から抽出されるマシュマロエキスといった、スタンダードなものから新しいものまでさまざまなものがあります。このあたりを掘り下げていくことで、現在のマーケットに合うスキンケアのニーズにリーチできるのではないかと思われます。

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日常使いで大きな成長が期待されるヘアケア市場

では、ヘアケアの話題に移りましょう。ヘアケアの領域は、マーケットとしても拡大していて、今後も大きな成長が見込まれています。

たとえばシャンプーですが、国や生活習慣による違いはあっても、ほぼ毎日使われるものですね。そして、人口が増えれば、その分、需要も増加します。つまり、人口増加の傾向がある限り、マーケット全体も大きくなる領域です。日常的に使われることが当たり前の製品でもあるので、高価格帯など新ジャンルの開拓が、この先も需要の拡大に寄与すると考えられます。

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新ジャンルにはどのようなものがあるかというと、更年期に差し掛かった女性はホルモンバランスが変化して、抜け毛や、髪の毛が細くなってボリューム感がなくなるといった悩みを抱えがちです。そのため、Floraというブランドは、髪や地肌になじむ美容液を発売。また、O&MAct + Acreも、髪の悩みを持つ女性の処方箋的な位置付けの製品を扱っています。頭皮は肌の一部でもあり、スキンケアのように頭皮ケアも必要だとして、頭皮のための美容液といった製品が広がりを見せているのです。

Act + Acre
Act + Acreのサイトより。

ほかに、TikTokなどでバズっているハッシュタグに「Hair Cycling(ヘアサイクリング)」というものがあって、皮膚の新陳代謝のことを「肌のターンオーバー」と呼んでいますが、髪の毛が同様に何日間かで生え変わるサイクルのことを指しています。これを前提に、毎日同じルーティーンで髪を洗い、トリートメントを塗り、スカルプ(頭皮)ケアをするだけではなく、ヘアサイクリングに合わせて髪に栄養素を補給したり頭皮を清潔にするなどの適切なケアを行うほうが良いのではないか、という考えが注目されています。薄毛対策のカテゴリーでは、頭の生え際に貼るパッチも出てきています。頭皮や毛根に直接栄養素を供給することで薄毛のケアをするという発想ですね。

髪のハリやコシを保つための製品もあって、本来は足や首や顔に押し当ててリンパを流すためのグアシャ(カッサ)というヘラのようなマッサージ器を頭皮に使うLanshinの製品なども見逃せません。

Lanshin
Lanshinのサイトより。

いかに、髪や頭皮に負担をかけないようにケアをするか

髪のボリューム感をアップさせるためには、ヘアスタイルの面からのアプローチもあります。そのためのスタイリングツールやブラシなどに人気がある一方、Act + Acreのように、ひたすら頭皮や髪に良いという点だけを追求したヘアブラシもあり、ドライヤーの際に髪につけるスタイリング剤の負担をやわらげる効果が期待できます。さらに、ドライヤーの熱で髪が乾燥してしまうため、L’Oréal ParisのWONDER WATERというコンディショナーには、髪に潤いと艶を与えたり熱から守るヒアルロン酸などの成分が配合されていたりしますが、こういう製品もトレンドになりつつあると言えるでしょう。

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最後に、ヘアアイロンやヘアドライヤーのカテゴリーですが、さまざまな特徴を打ち出して他者との差別化を図ろうとしています。たとえば、あくまでも強力なセット力であるとか、髪に優しく潤いを与えるものとか、小型で省エネ・ハイパワーなのに従来品より消費電力が少ない、といった付加価値の提供がなされていることです。おそらく向こう2年間くらいは、いろいろなメーカーの参入によって、ヘアケア領域の進化はますます興味深いものになるのではないかと注目しています。

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文:大谷和利
編集:大橋智子
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ロンドンを拠点に活動するSTYLUSは、様々な業界のトレンドを分析し、未来の変化を予測するイノベーションアドバイザリーサービスです。
独自のアプローチで、データと経験を基にしたインサイトを提供し、企業がイノベーションを推進し、市場の変動に対応できるよう支援しています。

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