2022年以降、私たちの間でも身近になってきた画像生成AI。技術やツールの使い勝手も日に日に向上しており、広告・マーケティング分野においても急速に導入が進み、活用する企業が増えてきています。
画像生成AIのクリエイティブへの活用は、作業の自動化・効率化による制作コストの削減やより高品質なアウトプットにつながるなど、企業やブランドにとって大きな可能性を秘めています。一方で、画像生成AIの活用の仕方によっては倫理的な側面に触れたりクオリティにばらつきが出たりと、ブランド毀損につながりかねない事象が発生する可能性も持ち合わせており、その点も考慮したうえで戦略的に取り入れることが重要です。
本記事では、画像生成AIの特性をうまく活用した広告やキャンペーンなどの取り組みを紹介します。どのように画像生成AIを活用し、効果的な展開に結びつけているのか、グローバル企業の成功事例をぜひ参考にしてみてください。
2023年3月20日、コカ・コーラは同社のブログでテキストや画像生成AIの技術を取り入れた新しいプラットフォーム「Create Real Magic」の開設を発表し、世界中のデジタルクリエイターに向けて開放しました。これは、クリエイターがコカ・コーラの象徴とも言えるボトルやロゴ、サンタクロースやシロクマなど同社の広告アーカイブに残る有名なモチーフなど、数十のブランドアセットを活用し、画像生成AIの技術を使ってアート作品を制作できるというもの。
また、クリエイターは自身が制作した作品を、ニューヨークのタイムズスクエアやロンドンのピカデリーサーカスにある同社のデジタルサイネージに掲載するチャンスを得られる、というコンテストも同時開催されました。
コカ・コーラはこのキャンペーンに先立って、欧米やアジアの4人のAIアーティストとのコラボレーションによるカスタムアートを制作し、クラウドソーシングキャンペーンを実施。さらに、選ばれた30名のクリエイターを、コカ・コーラのグローバル本社で行われた3日間のワークショッププログラム「リアル マジック クリエイティブ アカデミー」へ招待しました。本プログラムで、彼らにコカ・コーラのデザイナーたちと協業してライセンス商品やデジタルコレクタブルなどに使用できるコンテンツを制作する機会を提供するなど、大々的なキャンペーンを打ち出しました。
このキャンペーンによって、最終的には12万点を超えるオリジナルアート作品が生み出されました。
2023年11月には、「Create Real Magic」のプラットフォームを一般に公開し、クリスマス時期に合わせたキャンペーンを実施しています。同様にコカ・コーラのブランド資産にアクセスし、画像生成AIのテクノロジーを組み合わせてグリーティングカードを制作できるという、日本含む44カ国が対象のグローバル施策です。アカウントを作成した18歳以上のユーザーは誰でも無料で参加でき、生成された画像の一部はコカ・コーラの屋外広告や公式SNSアカウントでも紹介されました。
画像生成AIをいち早くマーケティング活動に取り入れたコカ・コーラ。クリエイターとの共創や、消費者との新しい接点を築くという意味でも、先進的でクリエイティブな事例です。同社は今後も画像生成AIをはじめとした新しい技術を活用して消費者とつながるブランドであることを宣言しています。
トマトケチャップで有名なハインツが実施したユーザー参加型キャンペーンも、画像生成AIを活用したユニークな事例です。「A.I. Kechup」と題したこの施策では、画像生成AIツールに「ケチャップ」と入力後、ユーザーが思い浮かべるケチャップのイメージを可視化し、広告へと展開しました。
企画の発端は、ハインツの広告を担うエージェンシーのメンバーが画像生成AIツールにケチャップに関連するプロンプトを入力したところ、ハインツのボトルそっくりの結果が頻繁に生成されたこと。AIでさえ「ケチャップと言えばハインツ」と認識していることを企画に取り入れて、消費者に各々の AI プロンプトを共有して参加してもらうよう呼びかけたのです。
最優秀作品はSNSの投稿や印刷広告などに掲載されました。募ったプロンプトから生成された画像はSNS上でもシェアされ、ハッシュタグ「#AIKetchup」も話題に。結果としてハインツのブランド力をより一層強化する施策となりました。2023年には世界三大広告賞のひとつである「クリオ賞(CLIO Awards)」も受賞するなど、画像生成AIを使った広告クリエイティブの成功事例となっています。
From “ketchup kite’ to “ketchup watering can”, you gave us some great suggestions for ketchup-based artificial intelligence images. Now you can check out more of our favorite ketchup A.I. images in a metaverse gallery at the link in bio. #AIKetchup pic.twitter.com/rKVF6WdhBx
— Heinz US (@HeinzTweets) August 8, 2022
カタール航空は、最先端の画像生成AI技術を活用し、過去に例を見ない没入型体験をすべての人に提供するという同社の取り組みを強化するため、世界初のインタラクティブな広告キャンペーン「AIアドベンチャー」を展開しました。専用サイトにアクセスして自分の顔写真をアップロードするとAIがキャラクターを生成し、同社が制作したオリジナルの短編映画に組み込んで映像化してくれるというものです。キャンペーンサイトでは10の映像シーンから選択できるようになっており、それぞれのシーンで演者の顔を自分の写真に置き換えてくれます。
短編映画は、出会い頭にぶつかってイヤリングを落とした女優と、それを拾って彼女に返そうする男性のストーリー。男性は彼女を探し求めてロンドン、ケープタウン、東京、ニューヨークなど世界中を飛び回り、ついにドーハの空港でイヤリングを返すことに成功して2人で旅に出るというストーリーをロマンチックに描いています。まるで自分がその映画の主人公になりきり、世界中を旅しているかのような特別な体験が味わえるキャンペーンです。
同社のニュースリリースによると、本キャンペーンを通して「顧客を第一に考えるという同社の姿勢を再確認する」と語っています。革新的な技術と感情的なストーリーテリングを融合させた新しい形の広告手法で顧客との関わりを深める一例となりました。
世界的なスポーツブランドのリーボックは、2024年5月9日、AI やメタバース技術の先進企業である Futureverseとの連携により、InstagramでのカスタムAIファッション体験「Reebok Impact(リーボック インパクト)」のローンチを発表しました。同社は新しいAIツールを通じて、ユーザーが写真として残している大切な瞬間を、スニーカーのデザインに反映できるツールを提供しています。
これは、自身の写真を@reebokimpactアカウントにDMするとリアルタイムチャットが開始され、AIが送られてきた画像の色やスタイルなどをインスピレーション源としてデジタルスニーカーを作成してくれるというものです。リーボックのアイコン的なモデルとも言える「ポンプ」「クラシックレザー」「クラブC」から3型を選択したり、デザインを微調整したりと、AI画像生成技術を用いて自分だけのオリジナルな1足を作成することができます。送られてきた元写真はスニーカーの靴底に埋め込み、よりスニーカーファンの心を掴む工夫が施されています。
「Reebok Impact」では、ユーザーに対して最大4つのデジタルスニーカー作品を無料で提供。それらを、Unreal Editor for Fortnite(UEFN)、Roblox と互換性のあるゲーム対応ファイルとして共有または購入することができ、さらに今後多くの仮想体験と相互利用を可能にする予定です。
最新の画像生成AI技術を一般ユーザーに届け、AIを搭載したカスタムデジタルスニーカーの作成を可能にすることで、スニーカーカルチャーの境界を広げる試みとして注目されている「Reebok Impact」。Futureverseのニュースリリースによれば、これはリーボックとの独占的パートナーシップの第一歩であり、両社は今後も人工知能、Web3、ブロックチェーンなどのテクノロジーを駆使してゲームやメタバースの体験を消費者に提供し、リーボックのエコシステム全体で製品の相互作用を拡大するとのことです。
世界中で愛されるファッション・ライフスタイル誌の『VOGUE』のイタリア版は、2023年5月号の表紙とカバーストーリーのファッション撮影に画像生成AIを活用しました。スーパーモデルのベラ・ハディッドを迎えた撮影ショットに画像生成AIツール「DALL-E」が生成した架空の背景を載せ、非現実的な背景がモデルと融合した斬新なビジュアルとなっています。
この独自の表紙制作は、フォトグラファーのカーリン・ジェイコブスとAIアーティストのチャド・ネルソンのコラボレーションによって実現しました。人間の創造力とAI技術を駆使したアプローチを通じて、最先端のファッションイメージの創造を目的としたこの試みは、結果として今までにない画期的な表現を生み出しています。
撮影の裏側や制作プロセスについて語られた記事からも、AIを用いた作業は随時調整が必要であったり、当初思い描いていたものとは異なる成果物が生まれたりと、相当の試行錯誤が重ねられたことがうかがえます。ジェイコブスはこのプロジェクトを「人間の創造性と人工画像の魅力的な相互作用」と表現しました。AIによる画像生成が将来写真やデザインの領域でどのような役割を果たせるかを示した事例となりました。
画像生成AI技術の進化に伴い、広告・マーケティング業界ではテクノロジーを用いたクリエイティブが次々と誕生しています。今回紹介した先進的な事例はいずれも、画像生成AIによってこれまでの広告手法を打ち破り、それぞれのマーケティングやブランディングに効果的な影響を与える結果となりました。画像生成AI技術の広告やマーケティングへの活用は今後もさらに加速し、クオリティも進化していくことでしょう。
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