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食品・飲料業界は、さまざまなブランドが乱立し、市場競争が激化している業界であるといえます。消費者の価値観や嗜好が多様化しているだけではなく、同種の商品を展開するブランドが多く存在する今、ターゲットに刺さるブランドとなるための戦略は欠かせません。
本記事では、食品・飲料業界のグローバルブランドによるブランディングの取り組みについて、さまざまな観点から事例を紹介。若年層向けのアプローチや、パッケージデザインの刷新、ブランドストーリーを打ち出すキャンペーンなどの事例をまとめます。
マクドナルドやケンタッキーフライドチキン(KFC)をはじめとした大手ファストフードチェーンは、Z世代など若年層の顧客を開拓するための新ブランドを展開しました。
マクドナルドは2023年12月、若年層をターゲットにした新業態「CosMc’s」の1号店を米国イリノイ州にオープンしました。この新ブランドは、1980年代後半の同社の広告に登場した宇宙人キャラクター「CosMc」に由来し、ドリンクに特化したメニューを提供。スターバックスやダンキンドーナツなどに対抗するブランドを打ち出したと注目されています 。
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CosMc’sのメニューは、特製レモネード、フラッペ、コールドブリューなど、若年層の欲求を満たす「カスタマイズ性」を重視したドリンクを豊富にそろえています。
この新業態は、オープン初日から大きな成功を収め、通常のマクドナルド店舗の2倍以上の集客を記録しました。特にZ世代を中心に若年層の支持を集めており、TikTokのインフルエンサーはCosMc’sのコンテンツを投稿し何十万もの「いいね!」を獲得。若年層向けの新たなブランド体験を提供することで、競争の激しいドリンク市場での地位確立を目指しています。
KFCが2024年12月に米国フロリダ州オーランドにオープンした新業態「Saucy」も、Z世代をターゲットとした新たなブランドです。
注目すべきは、従来のKFCブランドとは大きく異なる印象を与える大胆なデザイン。カーネル・サンダースといったKFCのキャラクターは用いず、ピンクを基調とした店舗やロゴなど、若年層向けにSNS映えを意識したデザインを採用しています。11種類のディップソースをメインメニューとして掲げる同ブランドは 、ソースの流動性やなめらかさ、型にはまらない自由さを彷彿とさせる曲線的なロゴデザインが特徴です。
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従来のKFCとは一線を画すデザインでイメージをがらりと一新した「Saucy」ですが、ロゴにさりげなく「by KFC」の文字を添えることで、世界的認知度の高いKFCのブランド力を拝借しています。
このようなZ世代をはじめとした若年層向けの新ブランド展開は、流行り廃りが一瞬で移り変わる若年層に、どこまで浸透するのか。これらの取り組みが今後成功するかどうかは未知数ですが、一時の話題を呼ぶことには成功したといえるでしょう。
KIND Snacksは、健康志向のスナック市場における競争激化を背景に、ブランド刷新を図っています。2024年7月の新たな広告キャンペーン「All Kinds of Good」では、コメディアンのエリック・ウェアハイムと岡塚敦子が胃と脳の擬人化となり、同ブランドによる健康と味覚の両立をユーモラスに表現した動画が公開されました。
KINDはこれまで、創業者ダニエル・ルベツキーのストーリーや社会貢献活動を中心にマーケティングを展開してきましたが、マース社による2020年の買収以降、その戦略を再評価。ブランドの方向性を明確化し、X世代や子を持つミレニアル世代、そして価値観を重視するZ世代の消費者に焦点を当てています。
新キャンペーンでは、ユーモアを取り入れたアプローチで、従来の機能的なメリットに偏重した健康スナック市場での差別化を図っています。このブランド刷新は、消費者の多様なニーズに応えると同時に、KINDの「リアルフード」の価値を強調しているといえるでしょう。
パッケージデザインやキャッチコピーは消費者が最初に目にするクリエイティブであり、食品・飲料のフレーバーや世界観を伝えるために重要な役割を果たします。
炭酸飲料ブランドのPoppiは、甘味、塩味、酸味、苦味、うま味といった我々が日々用いる感覚的言語をデザインやコピーで的確に表現することで、文化や地理的な境界を越えた多様な背景を持つ消費者に製品の魅力を伝えています。
甘い、酸っぱい、苦い、などの形容詞だけでなく、リンゴのシャキシャキ感やチョコレートのクリーミーさなど、誰もが経験したことのある感覚をクリエイティブに落とし込みます。すると、誰でも風味や食感が想像しやすくなり、製品をより魅力的かつ身近なものに感じることができます。たとえば、「爽やかな柑橘の刺激」と表現すれば、世界中のどこにいても馴染みのある味わいを想起させることが可能です。
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Poppiは抽象的な果物のアイコンやデジタル文化を取り入れた鮮やかなブランドアイデンティティを通じ、視覚的に強烈で親しみやすい味のイメージを消費者に与えています。
ブランド刷新をはかるためには、これまでブランドが築いてきた歴史をどの程度残すかを熟考しなければなりません。伝統を残しながらブランドに新たな命を吹き込むことは、ブランディングの成功の一助となり得ます。
1857年からイタリア・トリノで歴史を築いてきたキャンディーブランドであるパスティリエ・レオーネは、あらゆる年齢層のイタリアの消費者にとって歴史ある伝統ブランドといえます。しかし、ブランドが世界中に広がると同時に、ブランドの認知度が低いことや、パッケージデザインの一貫性がないことが成長の妨げとなっていたのです。
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2024年にパスティリエ・レオーネは、各商品のパッケージデザインを一新。ブランドが持つイタリアの伝統への敬意をパッケージに残しながら、全商品に統一性を持たせたデザインを採用しました。職人技を感じさせるイタリックなロゴデザインは、金箔押しで視覚的にも美しさを高めています。各商品のパッケージには、トリノのさまざまなスタイルの道路標識からインスピレーションを得たデザインを落とし込み、ディテールの美しさも追求しています。
コカ・コーラは、メキシコで一般的な「タコスとコカ・コーラ」の組み合わせを世界に広めるため、2024年に新たなキャンペーンを展開しました。
このキャンペーンは、フォトグラファーのFrederik Trovatten氏によるメキシコの本格的なタコススタンドのストリート写真を使用しクリエイティブを制作。モノクロのストリート写真の中で、自然に置かれたコカ・コーラのケースや看板だけを赤く強調し、「タコスがあるところに、コカ・コーラあり」というタグラインで表現しています。
大きなモノクロ写真にテキストを巧妙に組み合わせ、「コカ・コーラはタコスによく合う」ことを最大限に伝えるこのアプローチは、コカ・コーラが持つブランドロゴやカラーの認知力を活かし、控えめでありながら効果的な広告手法として評価されています。同キャンペーンはノルウェーのオスロ中央駅などで展開されました。
優れたクリエイティブは、クリエイティブそのものが持つ説得力により、人々に印象を与え、ブランディングに大きく寄与する事例だといえるでしょう。
食品・飲料業界でブランドが消費者に訴求するためには、ターゲットに合わせた的確かつ創造的なブランディング戦略が不可欠です。若年層の嗜好に寄り添った新ブランドの開拓や、ブランドストーリーの刷新、ブランドの価値を上げるパッケージデザインのリニューアルなど、本記事で取り上げた事例はいずれも、消費者の共感を得るための工夫が随所に施されています。
これらの取り組みは、単なる製品価値の提供にとどまらず、ブランドの存在意義や独自性を鮮明にするものであり、市場競争の激しい食品・飲料業界を勝ち抜くブランディング戦略の有益なインスピレーションとなるでしょう。
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