最近、コネクテッドTV(インターネット回線に接続されたテレビ)やFire TV Stick、Chromecast等を用いて、テレビ画面で動画コンテンツを観る方が増えています。動画コンテンツに流れる映像広告、すなわちコネクテッドTV(以下CTV)広告は、デジタルマーケティングの最前線で急速に進化を続けています。
CTVは、従来のテレビ広告のクオリティとデジタル広告の精度を融合させた新しい広告形態です。この特性は、ブランディングに革命をもたらす可能性を秘めています。
本記事では、最新の調査結果と実際の事例から、ブランド構築における「CTV広告の最前線」をご紹介します。
2024年にREVISIO株式会社と株式会社クロス・マーケティングが実施した全国大規模アンケートと実測データに基づく「コネクテッドTV白書」の内容から、CTVに関する基礎データをご紹介します。
調査結果によると、CTV利用世帯では、YouTubeの視聴時間が日本テレビに次ぐ第2位となっており、1日あたり53.4分もの視聴時間を記録しています。さらに、Amazon Prime VideoやTVerなどの動画配信サービスも、地上波テレビ局に迫る視聴時間を獲得しています。すなわち、CTV利用世帯では、テレビ画面上で放送局以外の動画サービス視聴が激増していることを示しています。
特筆すべきは、CTVの利用率が年代による大きな差がない点です。本調査の実測データによると、従来のマーケティングターゲットの中心であったMF1(20歳~34歳の男女)と、シニア世代を含む個人全体のどちらも、8割強が地上波とCTVの両方を視聴しています。これは「CTVは若年層のもの」という従来のイメージを覆すものであり、CTV広告が若年層に留まらず幅広い年齢層にアプローチできる魅力的な広告手法であることを示唆しています。
さらにこの調査では、CTV広告が精密で高いターゲティング能力を発揮していることが明らかになりました。調査に協力した一般家庭のテレビにセンサーを設置して、見ている人物や画面に対する「注視度」を測定したところ、地上波のテレビCMと比較して動画サービス内の広告に対する注視度が高いことが判明し、特にU-NEXTやTVerなどは地上波テレビよりも高い注視度を記録しています。この結果はCTVのパーソナライズド広告としての強みが、注視度という指標により再確認されたと言えます。
もうひとつの興味深い結果として、誰かと一緒に見る「共視聴」については意識と実態で違いがあることが挙げられます。アンケートによると、「地上波を2人以上で見る」と答えた人が多かったのに対し、テレビに設置したセンサーを利用した2人以上が注視した時間の実測データではU-NEXTやTVerが首位となりました。共視聴中は会話が発生するなどして注視度が低い傾向も本調査で明らかにされていますが、「誰と一緒に見るか」という新たなターゲティングの視点を示唆していることには変わりありません。
これらの基礎データの数々は、CTV広告の新たな可能性を示唆していると言えるでしょう。
出典:「コネクテッドTV白書2024」RIVISIO、クロス・マーケティング
今後は、CTVを通じて得られるデータの活用がさらに進むことが予想されます。例えば、博報堂グループ企業の株式会社Hakuhodo DY ONEが提供する『AudienceOneR』は、テレビ視聴の匿名ログデータとサイト閲覧などのオンライン行動データを統合し、テレビとデジタルメディアを横断した視聴・閲覧傾向の分析と、広告配信の効率的なターゲティングを実現。広告主は、潜在顧客のニーズをより深く理解した上で、ターゲット毎に効果的な広告を設計することが出来るようになりました。
また、動画配信サービス側の広告出稿の仕組みも進化を続けています。TVerは従来のフルマネージドプランに加えて、セルフサーブ型の広告配信機能を展開。広告会社が広告の入稿から配信、レポーティングまで実施できるプランを用意することで、より安価な広告出稿が可能となりました。さらに、2024年のアップデートにより、シンプルなインターフェイスで「テレビ視聴傾向」「世帯年収」「子どもの有無」など、きめ細やかなターゲティングが可能となり、利用する広告会社の数は拡大中。CTV広告出稿のハードルを下げることに成功しています。
テレビとデジタルメディアを統合したデータ分析や広告出稿のプロセスがより手軽になったことで、CTV広告はプロモーションの選択肢としてさらに身近な存在になったと言えるでしょう。
出典:
まずは概要を知りたい!テレビ視聴ログデータのマーケティング施策における活用
TVer広告、セルフサーブ機能が拡充 配信シミュレーション機能も近日公開 〜TVer Biz Conference 2024レポート<その4>
2024年4月25日に開催された「TVer Biz Conference 2024」では、アサヒビールの「アサヒ生ビール 通称マルエフ」を題材にしたトークセッション「クリエイティブ視点で考える動画広告コミュニケーション戦略」が注目を集めました。「マルエフ」は28年ぶりに缶で復活し、「日本に、ぬくもりを。」をブランドパーパスに掲げたビールです。竹内まりやの「元気を出して」をテーマソングに、芳根京子さんと松下洸平さんが視聴者に優しく語りかけるTVer上の広告が大きな反響を呼び、発売から3日で一時休売となるほどの売上増加を記録しました。
「ぬくもりや癒やし」を感じられる構成はもちろん、現地ロケにこだわった地域バージョンを流したり、「阪神タイガース日本一」「いい夫婦の日」といった時事トピックをピンポイントで取り込んだ点もポイントです。アサヒビールの担当者は、「TVerはデジタル時代における最適化とテレビのメディアパワーを兼ね備えた媒体」と評価しており、TVer広告が持つ「新しいマス」としてのポテンシャルを示す成功例です。
出典:
“新しいマス”として期待のTVer、クリエイティブ視点で考える動画広告コミュニケーション戦略とは?〜TVer Biz Conference 2024<その3>
続いて、セブン銀行の事例をご紹介します。2024年10月、セブン銀行はTVer内で配信されたTBS日曜劇場『海に眠るダイヤモンド』の広告枠で、連続ミニチュアドラマCM『第0会議室』を配信しました。これは、セブン銀行のATM開発プロジェクトを題材にした作品で、コンビニにATMを設置することが一般的ではなかった1990年代に「コンビニに最適化されたATM」をゼロから作る様子をドラマ化したものです。課題の大きさに対して、人物を相対的に小さなミニチュアで表現した“熱いミニチュアドラマCM”として注目を集めました。
TVerで放映される連続ドラマと並走する形でドラマCMを展開したことは、CTV広告活用の可能性を示唆する事例として高く評価されています。
出典:
セブン銀行、TBS『海に眠るダイヤモンド』のTVer広告枠で連続ドラマCMを放映
最後に、コンテクスチュアル(文脈)広告のグローバルリーダーであるGumGum社とABEMAが2024年11月に共同で実施したコンテクスチュアルオーバーレイ広告の実証実験をご紹介します。コンテクスチュアル広告とは、閲覧しているWEBページのキーワードや画像をAIで解析し、その文脈にマッチする広告を配信する手法です。今回の実証実験は、この技術を「映像」に応用したもの。特定のシーンで映った場所や商品に関連する広告を映像の隅に表示する新しい広告手法として注目を集めました。
本実験は「ABEMA」の人気オリジナル恋愛リアリティショー『花束とオオカミちゃんには騙されない』において実施され、最初の広告主として総合旅行サイト「エクスペディア」が参画しました。実証実験段階ではありますが、今後のCTV広告の可能性を示唆する事例となっています。
出典:
GumGum、ABEMAと共同でコンテキストにマッチした番組シーンに配信可能な新広告手法「コンテクスチュアルオーバーレイ広告」の実証実験を実施
2024年の日本市場におけるCTV広告は急速な成長を遂げました。多くのサービスでデータ活用の整備が進み、ターゲティングの精度も向上しています。今後は、スピーディーに多様なクリエイティブ制作を可能とするAI分野との相乗効果により、CTV広告の価値はさらに高まると予想されています。
2025年現在、ブランド構築を目指すビジネスパーソンにとって、CTV広告はもはや無視できない存在となっています。精密なターゲティング、リアルタイムの効果測定、そして大画面での視聴体験を組み合わせたこの広告形態は、従来のテレビ広告とデジタル広告の長所を兼ね備え、さらに進化を続けています。
ご紹介した調査結果と成功事例が示すように、CTVは効果的なブランディングツールとしての地位を確立しつつあります。先見性と挑戦心を持つ企業は、この新たな広告チャネルへの投資を通じて、競合他社に先んじてブランド構築の機会を掴んでいます。自社ブランディングの強化を検討している方は、CTV広告の可能性を模索してみる価値があるでしょう。
アマナの関連サービス:
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文:田中良