世界三大広告賞のひとつに数えられ、世界有数の国際広告賞であるClio Awards(クリオ賞)は、1959年に創設され、革新的でクリエイティブな広告表現を称える歴史あるアワードです。
毎年世界中の広告会社やブランドから多数のエントリーが寄せられ、テレビCM、デジタル、アウトドア、デザイン、PRなど幅広いカテゴリーで卓越した作品が表彰されます。Clio Awards 2025でも各部門で先進的なキャンペーンが多数選出されており、その中にはBtoB領域の大胆なアイデアやAI技術を駆使した広告、ブランド価値を高めるブランディング施策が目立ちました。本記事では、Clio Awards 2025の主要な受賞作品を「BtoB」「AI」「ブランディング」の観点から紹介し、そこに見る最新トレンドを分析します。
出典:Spreadbeats、@spotifyads
音楽ストリーミングサービスSpotifyが広告主向けに展開したユニークなBtoBキャンペーン。広告業界のメディアプランナーは普段、出稿計画用のスプレッドシートを使いますが、その無機質なExcelファイル自体をミュージックビデオ化してしまったのが「Spreadbeats」です。Spotifyは媒体資料としてメディアバイヤーにExcelファイルを送り、開くと中で音楽とレトロなドット絵風ビジュアルが大音量で再生される仕掛けを実現しました。単調な表計算シートから突然始まる演出に驚きと話題性を生み、「Spotifyは音声広告だけでなく動画広告でも勝負できる」ことを強烈に印象付けたのです。この作品はクリエイティブの斬新さが評価され、Clio Awards 2025において複数部門のグランプリに輝きました(同年のClioにて最多タイの4部門グランプリを獲得)。
出典:Siemens Healthineers Magnetic Stories、@LLLLITL
医療機器メーカーのシーメンスヘルシニアーズ(Siemens Healthineers)がMRI検査の患者体験向上を目的に展開したキャンペーンです。MRI装置の大きな駆動音に怯える小児患者たちの不安を和らげるため、検査音を録音して物語仕立てのオーディオブックに変換する試みです。たとえば「ガタンゴトン」という騒音は列車の走行音に、生々しい低音は宇宙船やロボットの効果音に置き換えられ、楽しい登場キャラクターが語りかける物語と同期した音声がMRI検査中に流れます。子どもたちはイヤホンから聞こえるお話に夢中になり、検査への恐怖心が薄れるだけでなく協力的な姿勢も引き出されました。医療現場の課題解決にクリエイティブとテクノロジーで挑んだこの施策は高く評価され、Branded Entertainment & Content部門のグランプリに選出されています。
出典:Think Name Project ‘SATO 2531’/@Campaign Brief
日本発の社会啓発キャンペーンとして注目を集めたのが、電通デジタルによる「SATO 2531」です。これは選択的夫婦別姓の必要性を訴えるために企画されたプロジェクトで、「このままでは2531年には日本人全員の名字が『佐藤』になる」というショッキングな予測データを提示しました。日本では夫婦が同姓にする法律の下、結婚のたびにどちらか一方の名字が消えていきます。その減少傾向を東北大学の経済学者がシミュレーションした結果、500年後の日本では名字の多様性が失われ極端に偏ってしまうという未来図が示されたのです。このデータを活用し、2024年4月1日のエイプリルフールには「全国民が佐藤さんになる未来」を描いた特設サイトや動画を公開して大きな話題を呼びました。ユーモアを交えつつ社会問題提起につなげた点が評価され、Clio Awards 2025ではデータ活用部門およびPR部門の2部門でグランプリを受賞しています。
出典:PODS and Tombras: World’s Smartest Billboard with Google Cloud AI/@Google Cloud
米国の引越し・ストレージサービスPODSは、自社のトラック用コンテナを活用した移動式のデジタルボードでユニークな屋外広告キャンペーンを展開しました。「世界で最も賢いビルボード」と称されたこの試みでは、Googleの最新AI「Gemini」を導入し、トラックに積んだ巨大コンテナのデジタル画面に場所・時間・天気・交通情報・地域ニュースなどに応じてリアルタイムに変化する広告メッセージを表示しました。ニューヨーク市内のあらゆるエリアを走行しながら、その瞬間その場所に最適化されたコピーを即座に生成・表示する様子はまさに「動くAI広告」です。例えば雨天時には「雨の日の引越しもPODSなら安心」のような訴求が現れ、大学キャンパス付近では学生向けの引越し需要を喚起するメッセージに切り替わります。結果としてキャンペーン期間中、該当地域のウェブサイト訪問数が60%増、見積もり依頼件数が33%増といった顕著な成果を上げました。本施策は、Clio Awards 2025に新設された「AIスペシャルティ賞」(Google協賛の特別賞)の初代受賞作にも選ばれ、AIによるクリエイティブの可能性を示す事例として注目されています。
出典:CeraVe – Michael CeraVe/@LLLLITL
スキンケアブランドのCeraVe(セラヴィー)は、ハリウッド俳優マイケル・セラを起用した遊び心あふれるキャンペーン「Michael CeraVe」を展開しました。製品名と俳優名の偶然の一致に着目し、「CeraVeは実はマイケル・セラが開発者なのでは?」という冗談めいた設定をSNS上であえて噂として拡散させたのです。キャンペーン開始からスーパーボウル当日までの3週間、マイケル・セラ本人が登場する偽のCM映像や皮膚科医との掛け合い動画をTikTokやInstagramで次々発信し、ネット上で「Michael CeraVeの真相」について大きな話題を醸成しました。そして迎えた2024年2月のスーパーボウル中継、CeraVeは実際に30秒間のCM枠を購入。そこではマイケル・セラが「自分こそがCeraVe開発の仕掛人だ!」と意気込むものの、最後には本物の開発陣である皮膚科医チームにあっさり否定されるコミカルなオチが放映され、SNS上でも大きな反響を呼びました。SNSとテレビを連動させた統合型の仕掛けでブランド認知を高めた本施策は、Clio Awards 2025においてFilm部門とInfluencer活用部門の2冠に輝いています。加えて広告業界では「スーパーボウル広告の最高賞(Super Clio)」にも選出されるなど、マーケティング手法の新機軸として高い評価を得ました。
本キャンペーンは、アマナインサイトでも以前取り上げています。以下の記事もあわせてご覧ください。
消費者の記憶に残り続ける、予想外のコラボレーションで2024年に話題を呼んだ6ブランド
上記の受賞事例から浮かび上がる2025年の広告クリエイティブの潮流として、特に「BtoB領域の台頭」、「生成AIなど新技術の本格活用」、そして「ブランド体験・ブランディングの重視」という三つのキーワードが挙げられます。
1. BtoB企業による高度なクリエイティブの台頭
近年、BtoB企業が大胆で洗練されたクリエイティブ戦略で話題をさらうケースが増えています。従来は地味になりがちだったBtoB向けの宣伝でも一般消費者の目を引くような斬新なアイデアを投入し、バズを起こしてブランド価値を高める手法が定着しつつあります。専門的なサービスやメディア枠の訴求であっても、人々の心を動かすストーリーやエンターテインメント性を持たせることで「退屈なBtoB広告」に留まらないインパクトを生み出しています。BtoB企業でも最終顧客は人間である以上、近年の傾向としてBtoCと遜色ないクリエイティブで訴求する重要性が再認識されていると言えます。
2. 生成AIの活用とデータドリブンなアプローチの本格化
生成AIやビッグデータ解析を駆使した広告手法が、2025年、いよいよ本格的に花開いています。AIによるパーソナライズや自動生成コンテンツを巧みに取り入れ、「一人ひとり・一瞬一瞬にフィットする広告体験」の提供が加速しており、もはや実験段階を超えて実務レベルで効果を証明するフェーズに入っています。またSATO 2531のように統計シミュレーションをプロモーションの核に据えるケースも登場し、データをストーリーの源泉としてクリエイティブに昇華させる手法も注目されています。2025年のClio受賞作は、AIとデータ活用が広告クリエイティブの新たな地平を切り拓いていることを示しました。
3. 体験型広告とブランドの価値観発信の重視
今年は特に体験型の広告手法やブランドの価値観・社会的メッセージ発信が際立った年でもあります。単に商品やサービスの機能を伝えるのではなく、ブランドが大切にする世界観や価値観をユーザーとの接点で直接体験させることが現代広告の重要なトレンドとなっています。特に若い世代の消費者はブランドの姿勢や社会的意義に敏感であるため、企業側もブランドのパーパス(存在意義)を創造的に表現し共感を得るアプローチに力を入れていると言えるでしょう。
2025年のClio Awards受賞作品に見るトレンドは、BtoB企業からBtoCブランドまであらゆる企業のマーケティング担当者にとって示唆に富むものです。自社の宣伝・PR・ブランディング施策にも、これら最先端のエッセンスを取り入れてみたいと感じられたのではないでしょうか。しかし、実際にこのような“心を動かすクリエイティブ”を形にするには、高度な戦略立案と表現力、そして最新テクノロジーへの知見が必要です。
アマナでは、企業のブランド価値を最大化するためのブランディング支援サービスと、多様な映像コンテンツをワンストップで制作するムービー制作サービスを提供しています。前者では市場調査やワークショップを通じたブランド戦略設計からビジュアル開発まで一貫してサポートし、論理と創造性を両立させたブランディングを実現します。
後者では長年の撮影・制作ノウハウを活かし、TVCMからWeb動画、企業VPまで高品質な映像制作に対応します。社内外のトップクリエイターがチームを組み、企画・撮影・編集・CG制作までトータルで行うことでスピードとクオリティを両立させます。
広告・宣伝担当者の皆様が直面する課題解決に向けて、ぜひ私たちアマナのクリエイティブサービスをご活用ください。
アマナのサービス:
プランニング&デザイン -ブランディング
ビジュアル/TVCM -ムービー撮影
文:小林拓美
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