One Show 2025に見る「創造的なAI活用」の最前線

ワンショー2025

2025年現在、生成AIの進化は、クリエイティブの在り方そのものを変えつつあります。こうした潮流を象徴するのが、5月に開催された国際広告賞「The One Show 2025」。本年から創設されたAIパイオニア賞では、AIと人間の協働による革新的なクリエイティブが高く評価されました。

本記事では、One Show 2025を受賞した6つの事例を紹介します。それらを通じて見えてきたAIと人間の協働、ジェネレーティブAIの進化、ブランド表現の変容といったトレンドを分析し、広告・宣伝担当者にとっての示唆を考察します。

AI × クリエイティブの革新事例6選

1. Leilanni Todd(AIパイオニア賞〈個人部門〉受賞)

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出典: Leilanni Todd「FLOAM WORLD」 

ニューヨークを拠点とするクリエイティブディレクターのLeilanni Todd氏は、ジェネレーティブAIと3Dメディアの最前線で活躍する、クリエイティブAIの開拓者です。ファッション業界や広告の領域でテクノロジーとストーリーテリングを融合させる独自の手法により、Gold Pencil(AIパイオニア個人部門)を受賞しました。自身のプラットフォーム「FLOAM WORLD」を通じて、3D表現と生成AIを組み合わせたシュールで物語性のある世界観を創造しており、その作品群はVogueやWIREDなど多数のメディアで取り上げられています。審査では、新技術をクリエイティブに応用する先見性や、AIを用いてブランド体験に新たな価値を生み出す力が高く評価されました。

2. Monks.Flow(Monks)(AIパイオニア賞〈エージェンシー部門〉受賞)

出典:Monks「Monks.Flow」、@MarketingProjectC

グローバルデジタルエージェンシーMedia.Monks(現Monks)は、自社開発したAIプラットフォーム「Monks.Flow」によってAIパイオニア賞(エージェンシー部門)を受賞しました。Monks.Flowはマーケティング業務全般にAIを組み込んだ統合ソリューションであり、リサーチやコンテンツ制作、翻訳に至るまでワークフローの隅々に知能を組み込みます。例えば、生成AIを活用した画像・動画の大量生成や、データ分析によるインサイト抽出などをワンストップで行える仕組みを提供しており、企業の既存の技術基盤に組み込める柔軟性も備えています。審査では、「人とAIの協働」による生産性向上とクリエイティブ品質の両立に挑んだ点が評価されました。

3. The Coca-Cola Company(AIパイオニア賞〈ブランド部門〉受賞)

出典:The Coca-Cola Company「Brand AI Pioneer」、@MarketingProjectC 

世界的飲料メーカーであるコカ・コーラ社は、ブランドとして先進的にAIを活用していることが評価され、AIパイオニア賞(ブランド部門)を受賞しました。同社は近年、生成AIを取り入れた大胆なマーケティング施策を次々と展開しています。その代表例が、OpenAIおよびBain社と提携して開発した「Create Real Magic」プラットフォームです。これはGPT-4(OpenAIが開発した高性能な言語生成モデル) と言語画像モデルDALL-Eを組み合わせた初の試みで、世界中のデジタルアーティストがコカ・コーラの象徴的なボトルやロゴなどをキャンバスにし、AIでオリジナルアートを生成できるというものです。こうしたキャンペーンはテクノロジーと創造性の融合による新たなブランド表現を示し、AIがアートにもたらす可能性を広く伝えています。審査では、伝統あるブランドが積極的にAIを活用しブランド体験を刷新している点が評価ポイントとなりました。

4. Virgin Media O2「Daisy vs Scammers」(Branded AIキャンペーン部門 金賞)

出典:AI Scambaiters: O2 creates AI Granny to waste scammers’ time、@o2ukofficial

イギリスで横行する詐欺電話に対抗するために考案された本キャンペーンでは、“Daisy”という架空の78歳のおばあちゃんをAIで創り出しました。デイジーは優しくおしゃべり好きな高齢女性の人格を持つAIで、詐欺師にとって最悪の天敵です。なぜなら彼女は実在せず、O2が開発した高度な対詐欺AIだからです。デイジーは実在の「おばあちゃん」の声を元に合成され、人間らしい間(ま)を取りながら会話するよう調整されています。詐欺師たちは彼女を本物の高齢者だと思い込み、銀行口座やパスワードを聞き出せると期待して長時間通話を続けますが、デイジーは延々と世間話や思い出話で時間を引き延ばし、相手の貴重な時間を浪費させるのです。このアイデアは「高度なAI技術で詐欺師に一矢報いる」という痛快さと社会的意義の高さが評価されました。結果、デイジーは1,000人以上の詐欺師に最長50分間もの長電話を強いることに成功し、メディアで大々的に報道されました。被害防止に貢献しつつブランドの信頼性も高めた点で、AIの善用(AI for Good)とクリエイティブの力を示したキャンペーンと言えるでしょう。

5. Burger King「Million Dollar Whopper」(Branded AIエクスペリエンシャル部門 銅賞)

Burger King Million Dollar Whopper

出典: Burger King「Million Dollar Whopper」、2025 One Show

ファストフードチェーンのBurger Kingによる「Million Dollar Whopper」キャンペーンは、Branded AI(体験型キャンペーン部門)でBronze Pencil(銅賞)に輝いた取り組みです。Burger Kingは創業以来掲げてきた「Have It Your Way(お好みどおりに)」というスローガンを、最新テクノロジーで文字通り実現しようと試みました。その答えが、生成AIを活用した初の試みとなる顧客参加型キャンペーン「ミリオンドル・ワッパー」です。特設のモバイルアプリやウェブ上で、ユーザーはテキストで自由に食材や調理スタイルを入力すると、AIがオリジナルのワッパーの高品質な画像や短い動画を即座に生成して見せてくれます。例えば「スパイシーな焼きリンゴ入りワッパー」など奇抜な組み合わせも視覚化され、SNSで共有することも可能。キャンペーン期間中はアプリ来訪者数が1,400万に達し、2024年11月には店舗売上が記録的な伸びを示すなど、顧客エンゲージメントと売上の双方で成功を収めています。

6. Google「Infinite Wonderland」(AIクラフト〈アート&デザイン〉部門 Merit)

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出典:Google「Infinite Wonderland」

Googleが実験的プロジェクトとして手掛けた「Infinite Wonderland」は、AIクラフト(アート&デザイン部門)でMerit(佳作)を受賞しました。これは、ルイス・キャロルの名作『不思議の国のアリス』の世界を生成AIとアーティストの協働によって再解釈したアートプロジェクトです。Googleは4人のビジュアルアーティストと提携し、「AIはアーティストの創造力を拡張し得るか?」という問いに挑みました。各アーティストは自身の画風を反映するようAI画像生成モデルをファインチューニングし、物語の各シーンやキャラクターを独自のスタイルで描き出しています。公開直後からForbesやNBCニュースなど多数のメディアで取り上げられ、初週だけで20万枚以上の画像がユーザーによって生成されるなど大きな話題を呼びました。審査においては、AIをクリエイティブの新たなキャンバスとして位置付けた点やアーティストと技術の融合による表現拡張が評価されています。

「創造的なAI活用」から読み解くクリエイティブトレンド

上記6つの事例から、近年の広告・ブランド表現における創造的なAI活用のトレンドが浮かび上がってきます。それは端的に言えば、「AIと人間の協働」によるクリエイティブの革新が進み、ジェネレーティブAIの技術進歩がそれを後押しし、結果としてブランドコミュニケーションの在り方が変容しつつあるということです。

  1. 1.AIはクリエイターの新しい相棒に
    もはやAIは単なる効率化ツールではなく、クリエイティブ・パートナーとして位置付けられています。重要なのは、人間のビジョンや戦略が中心にありながらAIの力を借りる点です。例えばGoogleのプロジェクトでは、人間のアーティストが物語解釈の方向性を定め、AIがそれを数多くのビジュアルに展開しました。AIのもたらす多様なアウトプットを、人間がキュレーションし、磨き上げるプロセスは、今後の制作現場で一般化する可能性があります。これは「AI=アシスタント」から「AI=協働者」への意識変革であり、今後さらに多くの現場で人間とAIのチームによるクリエイティブが生まれていくでしょう。
  1. 2.ジェネレーティブAIの進化と大衆化
    2022年頃から急速に発展した生成AI技術は、この数年で表現力と実用性が飛躍的に向上しました。One Show 2025で複数の受賞作が生まれたこと自体、業界における生成AI活用が単なる実験段階から実戦フェーズに移行したことを物語っています。同時に、その大衆化・民主化も進んでいます。AIが誰もが使える創作ツールになりつつあり、実際には企業経営層の84%がジェネレーティブAI導入に前向きで、従業員の60%が自分専用のAIを業務で使うようになるとの予測もあります。今や生成AIは特別なものではなく、多くの人々が手にする筆やカメラのような当たり前の創作手段へと近づいています。広告業界では、この技術進化を前提にいかに独創的な体験を設計するかが問われる段階に来ているといえるでしょう。
  1. 3.ブランド表現と顧客体験の新次元
    AIの創造力を取り入れることにより、ブランドの伝え方や顧客との関わり方が大きく変わり始めています。従来、広告キャンペーンは企業が発信し消費者が受け取るものでした。しかしBurger Kingのように消費者自らがブランドのコアプロダクトをAIでカスタマイズし、物語の共作者になる試みは、ブランド体験を双方向のものに変えました。注目すべきは、こうしたAI活用型キャンペーンが高い好意的反応を得ている点です。Daisy vs Scammersは現在のAIに対する風当たりが強い風潮の中でメディア報道100%ポジティブという驚異的な評価を得ました。つまり、使い方次第でAIはブランドのポジティブな物語を形作る強力な要素となり得るのです。広告・宣伝担当者にとって、AIによって可能になったこれら新次元の表現をどう戦略に組み込み、自社ブランドならではのストーリーに昇華するかが今後の鍵を握るでしょう。

まとめ:人間×AI時代のクリエイティブ戦略を支えるパートナー

創造的なAI活用の潮流は、広告表現にこれまでにないスピードとスケール、親密さをもたらしています。しかし最先端のテクノロジーも、それをブランドの価値に結び付ける企画力とクリエイティブ力がなければ真価を発揮できません。今回紹介した事例から刺激を受け、自社でもAI時代に即したブランディングや映像表現に挑戦したいとお考えの方は、ぜひ専門パートナーの力も活用してみてはいかがでしょうか。

アマナでは戦略に基づく総合的なブランド支援を行う「ブランディング」サービスや、最先端の表現手法にも対応したハイクオリティな映像制作を提供する「ムービー制作」サービスを展開しています。ぜひブランディングの詳細やムービー制作の詳細をご覧いただき、未来志向のクリエイティブ戦略に向けたヒントとしてお役立てください。革新的な技術と普遍的な創造力を掛け合わせ、貴社のブランドストーリーを次のステージへと進化させましょう。

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文:小林拓美

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