シズル感は、ビジュアルコミュニケーションにおいて瞬時に心を掴む要素として不可欠です。これまでの記事でシズルの基礎を学んだ皆さんへ、今回はシズルディレクター兼フォトグラファーの大手仁志が、30年の経験を基に、より具体的なシズル撮影の技術について解説します。
これまでの記事
vol.1:シズルで企業の課題解決!シズルのすべてをお伝えするシズルチャンネル
vol.2:シズル撮影で瞬殺!ビジュアルで心をつかむプロの秘訣
vol.3:シズル感で魅力倍増!プロが教える撮影テクニック
vol.4:写真が語る“らしさ”とは――伝わるビジュアルをつくる、フォトディレクションの力
vol.5:どこまでOK? 優良誤認にならない“シズル表現”とは
湯気がふわりと立ちのぼり、麺が箸からしなやかにのびる瞬間。
思わずゴクリと喉が鳴る——そんな「伝わる麺シズル」には、緻密なテクニックと観察眼が隠されています。
麺料理とひと口に言っても、実はその表現には大きな違いがあります。
ラーメン・うどん・そば・パスタ、それぞれに“おいしさを伝えるための撮影ポイント”が存在するのです。
同じ「麺」でも、その種類によって撮影で注目すべきポイントは異なります。
まずは代表的な4種類の麺について見てみましょう。
表現ポイントは麺の状態とスープの表情。
チルド商品の場合は具材で変化を出せますが、カップ麺のように“商品のみ”で完結する撮影では、構成力と光の使い方が重要になります。スープの輝き、麺のハリ、湯気の量——細部の積み重ねが重要です。
うどんは麺の形状も様々でそれぞれに合った表現が必要。基本的には、麺のつや感とスープの透明感を両立させるのがポイントです。麺に照明をあてて光沢を引き出したり、だしの色味をコントロールするなど、シンプルな料理だからこそ繊細な表現が求められます。
ポイントは麺線の流れと、質感のリアリティです。
ざるそばでは“麺の流線美”を意識し、温かいそばでは、だしの湯気や麺の柔らかさで“ぬくもり”を表現します。
パスタはメニューによって表現が大きく異なります。
ソースの絡み方、麺の形状、具材の立体感——それぞれに最適な光と構図があります。 基本的には麺のエッジを隠し、自然な立体感を作るのが鉄則。フォークで巻いた“ひと口盛り”も定番の魅せ方です。
このように、麺の種類によって「伝わるポイント」はさまざま。
では、なかでも最も“動きのある表現”が映えるのは——そう、ラーメンです。
次の章からは、そのラーメンシズルを中心に「ライブ感のある表現」を掘り下げていきます。
きれいに盛り付けられたラーメン。
そのままでも十分おいしそうですが、さらに魅力を引き出すために“ライブ感”のある写真を目指しましょう。
麺シズルの最大の魅力は「ライブ感」にあります。
湯気が立ち上る一瞬、箸から麺が流れるライン、スープの表情——これらが“動的シズル”を生み出します。
ラーメンのビフォーアフター的な写真(右側は、レンゲに勢いよく流れ込むスープの表情が撮影できています)
また、静止画であっても「動きの予感」を感じさせることが大切。麺がゆらぐ瞬間、スープが波打つ瞬間を捉えることで、“動画的な臨場感”を1枚の写真で表現することができます。
ラーメンで【ライブ感】といえば、やはり「箸あげ」。
麺をお箸で持ち上げた瞬間は、おいしさの“期待感”を生み、食欲を刺激する表現へとつながります。
まずは具材を整えましょう。
具材の位置が整っていると、麺のラインが際立ちます。
次に、麺をお箸で絡ませて——“ちょい上げ”がポイント!
上げすぎると麺だけが目立ち、料理全体の印象が薄れてしまいます。逆に、低すぎると、動きが乏しく見えてしまう。程よく上げることで麺と器の両方が画面に収められ、全体のおいしさが伝わる構図になります。また、麺の束は“多すぎず・少なすぎず”。1〜2本だけ自然に流れるように“遊ばせる”と、立体感が生まれます。
麺を整えすぎないことも大切。
完璧に揃えた麺は“静”の印象を与えますが、少し乱れがある方が自然で“動”を感じさせる写真になります。場合によっては湯気やスープのしぶきを取り込むことで、よりライブ感のある一枚に。
ラーメン箸あげ:高い
ラーメン箸あげ:低い
ラーメン箸あげ:適正
箸あげと並ぶテクニックが、「レンゲ」を使った表現。
スープに動きをつけて“ライブ感”を出したいときは、レンゲを活用しましょう。私は「レンゲ落とし」と名付けていますが、レンゲをスープに落とし、流れ混むスープを表現することでライブ感あふれる一枚に仕上がります。
■ポイント
レンゲ落としの、ベストな角度はギリギリまでスープに水平になる角度を保つこと。
その角度から一気に角度をつけて落とすことで勢いよく流れ込むスープの表情が撮影できます。
箸あげやレンゲ落としなど、動きのある【ライブ感】を取り入れることで、“伝わるシズル表現”がぐっと引き立ちます。
ぜひ、撮影の際に試してみてください。
“伝わる麺シズル”は、偶然ではなく計算の積み重ね。
光の向き、湯気の動き、箸の角度、麺の質感。
そのすべてを丁寧に観察することが大切です。
今回のシズルチャンネルvol.6では、こうした細やかなテクニックを通して、「おいしそう」を「伝わる」表現へと昇華させるamanaの撮影テクニックを紹介しました。
見る人の食欲を喚起し、商品に“リアルな温度”を与える——
それが、プロフェッショナルが追求する麺シズルの極意です。
文・撮影:大手仁志 (アマナ)
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amana visualでは、フォトグラファー、レタッチャー、CGクリエイター、ムービーディレクターをはじめとしたビジュアル制作に携わるクリエイターのポートフォリオや、個性にフィーチャーしたコンテンツを発信中。最新事例等も更新していきます。