AIのリテラシーも良いけど、「着眼点設計」のリテラシーは大丈夫か?【POLA春節事例に学ぶプランニング思考】

EVOKE

「生成AIさえあれば、誰でも簡単に理想のビジュアルが作れる」――そんな期待とは裏腹に、ブランドの文脈を捉えた「ならでは」のクリエイティブを生み出す難しさに直面しているディレクターやマーケターの方も多いのではないでしょうか。

本記事では、アマナのクリエイティブチーム「EVOKE」のディレクターが、生成AI時代にこそ本当に求められる「着眼点設計」の重要性について解説します。POLA様の春節クリエイティブ事例を交えながら、圧倒的な合理性と新鮮感を両立させるプランニング思考のヒントをお届けします。


生成AI抜きでは、もはやビジュアル制作について語れない時代になりました。

しかし、私たちディレクターが夢に描いたような「ビーチリゾートにいながらEnterキーを押すだけで仕事を全うできる世界」には、まだ至っていません。むしろ、空前の責任と高いクリエイティブハードルの洗礼を受けているのが現状です。

その原因は、「クリエイティブストーリーの舵を取る」という前提のもと、野心的で、疑い深く、そして粘り強くAIと付き合う必要があるからです。幸い、AIは度重なる修正(出し戻し)にも音を上げることはありませんし、コミュニケーションのコツを掴めば、なかなか優秀なクリエイターになってくれます。だからこそ、これまでやりたくてもできなかったクリエイティブを実現することができるはずです。――「思考の下準備」ができている人にとっては。

生成AI時代のビジュアル制作に必要な「プランニング思考」

アマナのクリエイティブチーム「EVOKE」では、単なるデザインやビジュアルの美しさだけでなく、ブランドや商品の文脈を落とし込み、企画性の高さをもって「ならでは」のクリエイティブを提案することを強みとしています。

そこでプランナー出身の私が、ビジュアル案を構築する際に気づいたのが、プランニングでよく使う「型(思考プロセス)」の有効性です。これは、5W1HやPEST分析のような聞き慣れた型ではなく、他と差がつくコンセプトを発想する際に用いる手法の話になります。

漠然と画像検索サイトを眺めたり、解像度の低いプロンプトを入力して奇跡的に良いアイデアが降りてくるのを期待したりするべきではありません。ネタの拡張と収束を繰り返し、「合理性(既存の価値)」と「新鮮感(新しい価値)」のバランスをとることが、案件を進める上で非常に大切だということを強調しておきます。

コンセプトの良し悪しを決める「合理性と新鮮感のバランス」

コンセプトの良し悪しを決める「合理性と新鮮感のバランス」

POLAの事例から学ぶ:合理性と新鮮感を両立させるコンセプト設計

2026年の春節に向けて、POLA様がアジア中華圏で展開するクリエイティブを例にご説明しましょう。 私たちがビジュアルを企画する際、「干支の馬」「春節のめでたい雰囲気」、そして「POLAらしさ」を絶妙なバランスで構築する必要がありました。どれかが行きすぎても他の要素を損ないかねない状況において、馬の見せ方(コンセプト)がキーとなることは容易に想像できるかと思います。

POLA 2027 春節キービジュアル

POLA 2027 春節キービジュアル

POLA 2026 春節キービジュアル

【思考の拡張】複数のレンズでアイデアの可能性を可視化する

そこで、一度「馬」というモチーフを(物理的ではなく概念的に)バラバラに分解し、見るレンズを切り替えながら「ありきたりな表現」からの脱却を図りました。体のパーツ、置かれた環境、あるいは歴史的なストーリー(典故)など、馬という存在をうまく伝えつつ、春節感やPOLAのブランドらしさも表現できる「記号」を探したのです。このレンズの切り替えは、思考の「拡張」において不可欠なプロセスです。

レンズを切り替えて、モチーフの可能性と文脈を可視化する。

レンズを切り替えて、モチーフの可能性と文脈を可視化する。

さらに、現地の文化的コンテキストを考慮した上で、「普通にありそう」か「逸脱しすぎている」かを判断する感覚は経験によるものが大きいですが、その感覚を活かして、発展性の低いアイデアを早い段階で取り除くことも重要です。この「収束」のプロセスも、プランナーやディレクターの腕の見せ所となります。

【思考の結合】表現の「ずらし」で独自の世界観を生み出す

馬のマスキュリン(力強い)な部分がPOLAのブランドイメージと衝突しないよう、たくさんのレンズを切り替えた結果、「メリーゴーランド」という新しい展開の可能性を見つけました。しかし、一般的に認知されているメリーゴーランドのままでは、春節感もブランドらしさもうまく表現できません。

そこで鍵となるのが、アイデアの組み合わせによる「再拡張」です。これこそが、アイデアの原石に磨きをかけるポイントになります。常識的なメリーゴーランドの印象から、構成要素と表現の「ずらし」を行うことで、唯一無二の世界観を目指していきました。

狙う印象から逆算して、表現の組み合わせをスタディーする。

狙う印象から逆算して、表現の組み合わせをスタディーする。

メリーゴーランドという新たな切り口から入ってもアイデアが独走しないよう、素材感・色合い・照明にまでこだわったCG表現を通し、ブランドの上品さと春節のワクワク感のバランスをとりました。結果として、独自の世界観で新年を祝うビジュアルを完成させることができたのです。

生み出す喜びは人間のもの。AIを喜びの増幅器にしよう

生成AIの登場により、素材感やスタイルの違いといった検証を短時間で可視化できるようになりました。しかし、AIは情報の整理は得意でも、ビジネスにおける「仮説の構築」まで完全に任せられるものではありません。

AIが導き出す平均的な審美眼に囚われず、的を射たバリエーションを提示して建設的な議論を起こすために、この「着眼点設計」の重要性がますます高まっています。思考の下準備をしっかりと行うことで、ブランドを置き去りにすることなく、クリエイティブを大きく飛躍させることができるのです。

文・図版:徐維廷(アマナ)

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amana inc.のクリエイティブチームEVOKE。
クリエイティブコラボレーションを通じて、目指す未来を描き出す。
最近は、AIを活用したクリエイティビティの拡張に力を入れている。

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