Creative Tech London 2026|生成AI活用の勝敗を分ける「運用力」とは

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生成AIはもはや一部の先進企業だけのものではありません。多くの企業で導入が進み、クリエイティブ制作の現場でも日常的に活用されるようになりました。一方で、導入したAIを事業成果や顧客体験の向上につなげられている企業は限られています。

クリエイティブとテクノロジーを事業実装へとつなげるためのカンファレンス「Creative Tech London 2026」で浮かび上がったのは、AIを導入した企業と、AIを戦略的に運用できる企業との間にある大きな差でした。ここでは、Creative Tech London 2026における生成AI活用の先端事例を紹介するとともに、そこから得られる知見を読者の皆さんと共有していきます。

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生成AI、没入型体験、データ、制作基盤、体験設計を企業活動の中にどう組み込むかをテーマに開催されたCreative Tech London 2026。出典:Creative Tech London 2026

Creative Tech London 2026が示した「生成AI活用」の現在地

まず、Creative Tech London 2026(以下、CTL 2026)に馴染みのない方もおられるかと思いますので、まずはCTL 2026の概要から整理します。

ロンドンで開催されたこのイベントでは、主要テーマとして、「AI and Spatial Computing(AIと空間コンピューティング)」、「Generative AI and Collaborative Design(生成AIと協働デザイン)」、「Immersive Experiences and Transmedia Storytelling(没入体験とメディア横断型のストーリーテリング)」、「Enterprise Creative Tech(企業向けのクリエイティブ技術)」の4つが掲げられました。つまり、生成AI、没入型体験、データ、制作基盤、体験設計を企業活動の中にどう組み込むかが主題となっていたのです。

これは、生成AIが単なる制作支援ツールから、ブランド体験や顧客接点を支える基盤へと位置付けられ始めていることを示しています。特に重要なのは、生成AIの価値が「制作時間の短縮」だけに限定されなくなっているという点です。

ファン体験を再定義するAIとXR

CTL 2026で特に注目されたのは、ファンエンゲージメントの変容を扱ったセッション群でした。「The Interface Is the Experience」のセッションでは、ファンエンゲージメントにおいて、コンテンツを「受け取ること」から「参加すること」への転換が起きており、AIとXRがファンの体験を根本から再定義しつつあると論じられました。会話型AIコンパニオン、パーソナライズされたメディア出力、没入型AR/VR体験がデジタルと物理の境界を溶かしながら、ブランドと顧客の接点を動的に編集していく——その変化を制作チームはどう受け止めるべきかが問われたのです。

また、「AI-Powered Experiences for Every Fan」では、コンピュータービジョン・機械学習・生成AIを組み合わせた3Dデータ駆動の体験設計と、リアルタイムのゲームインサイト提供が紹介されました。AIの役割は単なる映像加工にとどまらず、ファンが今見ているものの文脈を読み取り、その場に最適な情報と体験を組み立てるものになりつつあるのです。

Sky Sportsに見る「体験そのものを編集するAI」

このセッションでは、コムキャスト傘下の英Sky Sports Intelligenceチームによる事例として、AIを使って映像やデータをリアルタイムに解析し、ファン一人ひとりに異なる情報や体験を提供する技術が紹介されました。AIは、観客が今何を見ているのか、どのような文脈で楽しんでいるのかを読み取り、その場に合った体験を組み立てる役割を担っており、その役割が「制作工程の効率化」から「体験そのものの編集」へと広がってきていることがわかります。

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メディアグループのSkyは、生成AIが作り出すスポーツファン向けのパーソナライズされたコンテンツによって、ファンエンゲージメントを深めることを目指している。出典:Sky

Diageoに見る生成AI時代のブランド体験設計

また「The Art of Blending」のセッションでは、クリエイティビティとテクノロジーの融合によって何を生み出すことができるのかが具体的に示されました。酒造企業のDiageoは、「Project Halo」によって、すでに同社のJohnnie Walkerブランドの生成AIを活用したボトルパーソナライゼーション体験を実現しています。Project Haloは、AI活用を単発の演出にとどめず、ブランド体験の継続的な設計として位置づける事例として注目されました。DIAGEO.jpg

Diageoは、ブランドと消費者が生成AIを利用してパーソナライズされた製品を共創できるProject Haloを活用し、期間限定でJohnnie Walkerブランドのカスタムボトルをその場で作り出せる体験を提供している。出典:Diageo

「Shiny Toys」から脱却せよ──運用設計へのシフト

さらに「Stop Buying Shiny Toys」のパネルセッションでは、クリエイティブテック予算は増えているのに成果が出ない現状が率直に議論されました。この「Shiny Toys」とは目新しいAIツールなどを指し、パネラーたちは、ただ魅力的に見えるからという理由でそのようなツールを導入することの危うさを指摘し、「IT・マーケティング・クリエイティブの協働を実現する手法」や「生産性・スピード・ROIの測定方法」についての見解を交換し合ったのです。これはまさに、ツール導入ではなく運用設計に投資することの重要性を示すセッションでした。

たとえば、新しいAIツールを導入しても、承認フローが従来のままであったり、ブランド管理のルールが整っていなかったり、成果を測る指標が曖昧であったりすれば、その活用は現場の一部にとどまります。結果として、PoC的な試みやキャンペーン単位の実験的なAI利用は増えても、組織全体の生産性や顧客体験の改善にはつながりません。

CTL 2026が示した生成AI活用の現在地とは、まさにこの「ツール導入から運用設計への転換点」でした。別の言い方をすると、AIを使ったクリエイティブの焦点が「表現の新しさ」から「実装と運用の設計」へと移りつつあることを示す場だったのです。

生成AIで成果を出す企業に共通する3つの条件

CTL 2026における議論と事例からは、生成AIで成果を出している企業に共通する3つの特徴が浮かび上がります。特に重要なのは、これらの企業が必ずしも「最先端技術をいち早く試す企業」ではないという点でしょう。

共通条件①

第一に、投資対象を「ツール導入」ではなく「運用設計」に置いていることです。「Stop Buying Shiny Toys」のセッションが指摘したように、事業成果につながる生成AIの活用には、AIを使って何を作るかだけでなく、作られたコンテンツをどう管理し、誰が承認し、どのチャネルに配信し、どの指標で効果を測るかまでを設計することが不可欠です。日本企業ではAIツールの導入やPoCが先行し、運用設計が後回しになりがちですが、承認フロー・ブランド管理・法務確認・効果測定が整っていなければ、制作物の量が増えても組織全体の成果にはつながりにくいといえます。

共通条件②

第二に、クリエイティブとテクノロジーが組織的に分断されていない、ということです。
生成AIやXR、データ活用、パーソナライゼーションは、クリエイティブ部門だけでも、IT部門だけでも完結しません。顧客に届く体験を設計するには、ブランド、マーケティング、データ、システム、法務、制作、カスタマーサポートなど、複数の機能を連携させることが必要です。

CTL 2026のセッションに登場した、家電メーカーのSharkNinjaや、メディア企業のSky、Omnicom Productionsなどの海外の先進事例では、AI活用を一部の担当者のスキルに依存させるのではなく、組織横断の取り組みとして位置づけていました。たとえば、「Stop Buying Shiny Toys」セッションに登壇したOmnicom Productionsのクリエイティブ・テクノロジー・マネージャー、Faye Garland氏は、生成AIのR&D部門やベンダーとのパートナーシップ、および責任あるAI導入のための教育と実装支援を一体で進めるポジションの人物です。このような役職を置くことによって、データの分断を防いで知見を蓄積し、ブランドトーンの揺らぎを防ぎながら、生成AIの活用を進めることが可能となります。これは、AIを「個人がうまく使うツール」ではなく、「組織として使いこなす能力」として捉えていることを示すものでしょう。

クリエイティブの自由度を保ちながら、技術、データ、ガバナンスを接続する。そこに、生成AI活用を実装段階へ進めるための重要な鍵があるといえるのです。

共通条件③

第三に、KPIを制作物ではなく体験価値や事業成果に置く、ということです。生成AIの導入効果を測るとき、多くの企業は「制作時間がどれだけ短縮されたか」「何本のコンテンツを生成できたか」「外注費をどれだけ削減できたか」といった点に指標を置きがちです。これらは重要な指標ですが、それだけではAI活用の本当の成果を測りきることはできないといえます。

この点についてCTL 2026に登壇したキーパーソンたちは、AI活用の成果を、顧客エンゲージメント、ファン体験、購買行動、ブランド認知、継続利用、新たな収益機会といった指標で語りました。つまり、「AIによって何を作ったか」ではなく、「AIによって顧客との関係がどう変わったか」に価値を置いているのです。

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生成AIで成果を出すには、これら3つのポイントを押さえる必要がある。

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海外先進企業に学ぶ、データ統合と運用設計の実践例

CTL 2026で披露された海外企業の具体的な実装例は、この三つの特徴が実際にどう機能するかを示しています。その中からいくつかをピックアップしてご紹介しましょう。

プレミアリーグ×Microsoftに学ぶパーソナライゼーション基盤

イギリスのプロサッカーリーグであるプレミアリーグは、2025年7月にMicrosoftと5年間の戦略的パートナーシップを締結し、Azure AI・Microsoft Foundry・Azure Cosmos DBを活用して、ファン向けのパーソナライゼーション基盤を構築しました。この基盤では、30シーズン以上の試合データ、約30万本の記事、9,000本以上の映像をAzure AIとクラウドに統合し、「Premier League Companion」というCopilot型アシスタントをアプリとウェブに展開。ファンが関心のあるクラブ・選手・試合に応じたパーソナライズ体験を提供した結果、ファンエンゲージメントが前年比約20%向上し、シーズン初期から6,000万人がデジタルチャネルに参加しました。この事例が示すのは、データ統合と運用設計が成果に直結するという点です。

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プレミアリーグはMicrosoftと共同開発したAI利用のアプリで、ファンに対して、選手やチーム、ゲームに関するパーソナライズされた情報を提供している。

また、SkyのSports IntelligenceチームもAI活用によるリアルタイムのゲームインサイト提供を実装して成果を挙げており、プレミアリーグと同じく、スポーツ領域でのAI活用がいかに体験設計と運用にまで踏み込んでいるかを表しています。

SharkNinjaに学ぶAI活用の運用改革

掃除機などの家電製品を製造販売するSharkNinjaは、AIをコスト削減の道具としてではなく、顧客サービス・オペレーション・意思決定全体に組み込む仕組みとして展開しています。同社はAIを10の領域で実用化しており、その中心にあるのは、エージェントが通話中にリアルタイムでナレッジを参照できる仕組み、全音声・チャット対話をAIが一貫したスコアカードで100%品質評価する仕組み、顧客対話から得たフィードバックを毎日製品のクリエイティブチームに届ける仕組みなどです。同社のGlobal Consumer Experience担当ディレクターであるDamian Hall氏は「顧客の優れた体験も、そうでない体験も、すべてビジネスに還元しなければならない」と述べており、AIを一過性の施策ではなく継続的な改善基盤として位置づけています。

生成AI活用を成功に導く「制作・体験設計・運用」の3層モデル

生成AIが企業活動の中で本当に価値を発揮するためには、「制作」「体験設計」「運用」という三層で捉えることが重要です。

まず、制作層は読者の皆さんにとっても、最も分かりやすい領域でしょう。広告コピー、商品説明文、バナー画像の生成などがここに含まれます。スピードと量に大きな効果をもたらしますが、誰でも一定レベルのコンテンツを短時間で作れるようになれば、制作スピード自体は差別化要因になりにくくなります。

体験設計層では、生成AIを「顧客にどのような体験を提供するかを設計する仕組み」として捉えます。ECサイトで顧客の関心に応じて情報を変える、スポーツ観戦でファンごとに異なるリアルタイム情報を提示する、といった活用がこれにあたります。CTL 2026の「The Interface Is the Experience」セッションで描かれた世界がまさにこの点に該当するものであり、AIの価値は「制作時間の短縮」から「顧客体験の改善」へと変わることが示されました。

運用層は、最も差がつく部分です。制作・体験設計を継続的に回すには、承認フロー、ブランド管理、法務確認、データ管理、効果測定、改善サイクルが必要となります。SharkNinjaが全顧客対話をAIで品質評価し、その結果を製品チームに日次でフィードバックしている仕組みは、まさにこの運用層が機能している典型例といえるでしょう。

制作層から運用層へ進むほど、必要な能力も変わります。制作層ではプロンプトの工夫、体験設計層では顧客理解とUX設計、運用層では組織設計・ガバナンス・KPI管理・ワークフロー構築が重要になります。今後、企業間の差が大きく開くのは、制作層ではなく体験設計層と運用層になるでしょう。

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生成AIは、制作・体験設計・運用の三層で活用することで、最大限の成果を上げられる。

日本企業が陥りやすい3つの課題──PoC止まり・組織分断・単発施策

日本企業は、AI技術の導入そのものでは大きく遅れているとは限りません。しかし、生成AIが事業成果に直結しにくいとすれば、活用が個別の試行にとどまり、組織的な実装へ移行できていないためではないでしょうか。陥りやすい典型的な罠としては、PoC止まり、部署分断、単発施策という三つが挙げられます。

課題① PoCが目的化する

たとえば、慎重になってPoCに注力するあまり、本番運用に進む段階で話が止まる例。日本のAI関連企業クロップルの分析によると、「まずはPoCから」という判断は経営層・現場・ベンダーの全員にとって都合が良いため、PoCループが続いてしまうケースが多いとされています。その結果、PoCのゴールが技術検証に偏ってしまい、業務成果に結びついていないパターンになりがちだというのです。
また、生成AIによる回答の正答率が99%でも「100%でなければ導入できない」と判断される事例のように、過度な完璧主義が実装の壁になってしまう場合もあります。本来、PoCは実装に進むための検証であるはずですが、運用設計が伴わなければ単なる実験の記録で終わる可能性が高いのです。

課題② 組織の分断がAI活用を阻む

部署分断では、全社方針や共通ルールがないまま生成AIの個別利用が広がり、重複投資やブランド表現のばらつき、法務・セキュリティの後追い確認などの問題が生じがちになります。人材派遣会社のパソナのDXコラムが指摘するように、組織のサイロ化が、情報共有を妨げ、データ活用を滞らせ、意思決定を遅らせるのです。AI活用の知見が組織として蓄積されなければ、大きな力にはなりづらいといえるでしょう。

課題③ 単発施策で終わるAI活用

単発施策は、生成AI利用のイベントやキャンペーンで盛り上がっても、得られたデータが次の施策に活かされない状態です。生成AIやXRは話題性のあるキャンペーンと相性がよい技術ですが、来場者の行動・反応を分析し、CRMや商品開発・次回キャンペーンに接続する仕組みがなければ、AI活用が一過性の話題づくりで終わっても致し方ありません。

AI活用を事業成果につなげる「AI Creative Architecture」という考え方

クリエイティブ領域においてこれらの課題を解決するには、たとえばアマナが提供する「AI Creative Architecture」のようなシステマチックな仕組みが求められます。これは、ブランド構築から制作・運用までのプロセスに生成AIを組み込み、“ブランドらしい”表現を継続的に生み出せる制作環境を構築するための枠組みです。このような枠組みが求められる背景として、たとえば次のような点が挙げられます。
第一に、生成AIによって制作量が急増するなかで、ブランドの一貫性を保つ仕組みが不可欠になること。
第二に、クリエイティブ制作と評価のプロセスを接続し、ブランド基準に基づいた改善を継続できること。
第三に、著作権・個人情報・ブランド毀損リスクへのガバナンスを、後付けの制約ではなく業務プロセスに自然に組み込むこと。
第四に、企業内の担当者と外部パートナーが連携しながら、AI導入設計や運用体制を継続的に改善していくこと。
第五に、有効な生成手順や運用ルールを組織内で共有し、継続的に改善できる体制を整えること。

生成AIを戦略的に運用する企業は、それを顧客理解・ブランド体験・業務プロセス・データ活用・ガバナンスをつなぐ基盤として位置づけています。同様に日本企業が目指すべきなのも、生成AIを事業・ブランド・顧客体験・業務プロセスの中に取り込み、継続的に運用できる体制を作ることです。そのうえで現場が安心して生成AIを試し、業務を改善できる環境を整えることが重要であり、それが、安全かつ効果的にAIを使いこなすための基礎となります。

まとめ

最後に改めて強調したいのは、生成AIの普及によって、「制作する力」そのものは急速にコモディティ化していくということです。今後問われるのは、AIで何を作れるかではありません。AIを活用してどのような顧客体験を設計し、それを継続的に改善できるかです。Creative Tech London 2026が示したのは、クリエイティブの競争力が「表現力」だけでなく「運用力」によって決まる時代の到来でした。生成AIを導入する企業から、生成AIを戦略的に運用できる企業へ。その転換こそが、これからのブランド競争力を左右する重要な分岐点になるでしょう。

文:大谷和利


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