vol.109
人の心を動かすブランド表現とは
企業のあらゆるコミュニケーション課題に向き合い、その解決方法を探る、アマナ主催のイベント「amana Brand Communication Day 2023 Spring」が2023年5月24日、25日と2日間にわたり開催されました。8つのテーマを切り口に、先進企業の方々をゲストに迎えたトークセッションや講演、マーケットの今と未来をとらえたセミナーを実施。今回は、テーマ「人の心を動かすブランド表現とは」の回を紹介します。
社会環境の変化やテクノロジーの発展により、人が「新しい何かと出会う場所」の多くはオンラインに移行してきました。それ故に、オンライン上で、ビジュアルを含めてコンテンツとしてどう表現されているかは顧客体験に大きく影響します。商品紹介・機能説明からブランドイメージに至るまで、オンライン上で伝達される情報が「いかに人の心を動かし、行動変容を促せるか」はビジュアルやコンテンツの質にかかっています。人の心を動かすビジュアル表現とはどのようなものなのか。アマナのシズルディレクター大手仁志が、人々の心に響き心を動かす「シズル表現」の考え方を、事例を交えて解説します。
植山雄大(アマナ/以下、植山):このセッションでは、人の心を動かすビジュアル表現とはなにか、「シズル表現」をキーに探求したいと思います。
大手仁志(アマナ/以下、大手):シズル(Sizzle)とは、一般的に、肉がジュージューと焼けて肉汁がしたたり落ちているような状態を表し、見る人の食欲・購買意欲を刺激する表現として使われています。魅力的な印象を与えたり、興味・関心を引く要素を表現するためのものです。アマナでは「シズル=そそる、そそられる」ものと捉えています。言い換えると「エモーショナルスイッチ」。言葉の通り、感情のスイッチをカチっと入れてくれる仕掛けです。
大手:近年、購買行動モデルは変化が激しく、細かくすると様々な要素があるのですが、ものすごくシンプルにするとこんな風にまとめられると思います。我々が得意とするシズル表現は、あらゆる購買行動のスタート地点で活用できます。
大手:今日はぜひ、感情のスイッチがカチッと入る感覚を皆さんにも体感していただこうと、サンプルを用意しました。
大手:肉厚のハンバーグのビジュアルです。今まさに食べようと半分に割ったところ。これはこれで美味しそうですが、さらに「美味しさにつながるシズル表現」を加えると次のようになります。
大手:いかがでしょうか。今回は、皆さんの感情のスイッチを入れるポイントを3つ設定しました。
「温度」「香り」「音」の表現です。
湯気やソースが焦げる表現を加えることで、肉汁が滴り焼ける音や、ソースの香り、熱々の温度などを表現しています。実際にはない五感の刺激を、見ている人の経験値から引き出し、想像させることで、「美味しそう」という感情のスイッチを入れているのです。
植山:確かに。2枚目の写真を見てはじめにイメージしたのは、ジュージューという音でした。思い出したといった感覚に近かったように思います。
五感を伴う体験は記憶として定着しやすい。また、記憶に紐付いた香りや音の刺激によってその記憶が呼び起こされやすいということも脳科学的に判明しているそうです。
大手:シズルは美味しさの表現というイメージが強いですし、グラフィック特有のものと思われがちですが、プロダクトデザインや建築物、人物でも表現できるものだと思っています。有形のものだけでなく、空間、環境、音、ライティング、香りといった無形のものでもシズル表現は可能です。
植山:人の感情のスイッチを入れられるものすべてが、シズル感につながるのですね。広告表現として非常に有効性を感じます。
植山:伝わるシズル表現をするには、どのような点に留意すればよいのでしょうか。
大手:感情のスイッチを入れるには、まず、その相手の経験や体験の記憶が必要です。そして、伝える相手は千差万別だということも忘れてはならないポイントです。
過去にこんなことがありました。
大手:これは私が撮った作品です。この写真を見て、大抵の方は梅干しの酸っぱさを思い起こしてくれましたが、外国の方からは、まったく違う反応があったのです。「きれいだね」「美味しそうだね」とは言ってくれても、本来伝えたかった酸っぱさを感じてはもらえませんでした。
しかしこれは当然の話です。一度でも梅干しを食べた経験があれば違った反応があったかもしれませんが、まったくなければ、引き出す記憶や感覚がないのですから。
大手:シズルで感情を揺さぶるには、その相手がどんな経験値を持っているのか見極めることが重要です。先ほどの梅干しのように、制作側の感覚だけで作っても、意図した通りに伝わるとは限りません。とはいえ、広告やブランドメッセージとなると1対1のコミュニケーションではないので、なかなかに難しい作業です。経験豊富な人もいれば、経験が偏っている人もいるでしょう。想定したターゲット層が持つ引き出し(経験値や体験値)を分析し、最大公約数を導き出すことが、エモーショナルスイッチを押すためのポイントです。
大手:購入のきっかけとなるようなビジュアル表現、感情のスイッチを押す仕掛けについてもう少し考えてみたいと思います。食以外のサンプルを用意しました。今回は「椅子」です。
大手:椅子ではどんなシズル表現ができるでしょうか。この椅子を購入したい、あるいは気になっているという相手の感情のスイッチをカチッと押す。そんな表現について考えてみたいと思います。
大手:例えば、こちら。この椅子を購入したい、あるいは気になっているという相手に対して、購入後の日常風景を思い描けるような写真に仕立てています。椅子が生活空間の中でどんな風に存在して見えるのか。ブランドの価値観を共有したり購買意欲を高めるのが得意なSNSのコミュニケーションなどでも使える表現です。
大手:購入後の生活を想像するという視点でもうひとつ。手の届く範囲で魅力的な暮らし方を見せた写真です。我々はこのような表現を「憧れシズル」なんて言ったりします。
シズルは見る人の記憶や経験に作用するというお話をしました。見る人の経験からあまりにも遠い世界、憧れはするけれど自分には手が届かないと思われるものでは購買行動を促すには至りません。ちょっと頑張れば手の届くセンス、ちょっと頑張ればこんな暮らし方ができるかも。そう思わせる範囲の中で商品の魅力を引き出せると効果を発揮します。
大手:最後はこちら。椅子の上に乗せたPCがクリエイティブな雰囲気を印象づける写真です。「これは自分の世界観だ」「私の雰囲気ね」と共感を得られるように、ターゲットとしている人物像が透けてみえるようなイメージ作りをしています。モノが持つシズル感を引き出す以外にも、小道具や演出を使ってシズル感を作り出すこともできるんですね。
植山:有形(モノ)・無形(コト)にかかわらず、すべてを「サービス」として捉えて、顧客と価値共創するサービスドミナントロジックというマーケティングの考え方があります。モノやコトは媒介物であり、顧客が体験することで価値が生まれるという考え方です。
相手の記憶や経験に働きかけて共感(その人にとっての価値)を生み出すというシズルの作用は、この考え方と通じるものがあります。
冒頭にお話しした通り、「人と何かが出会う場所」の多くがオンライン上のコンテンツに移行している今、ビジュアルが果たすべき役割が大きくなっています。顧客と共に価値創造するという点において、シズルは非常に有効ですね。
大手:そうですね。アマナでは「伝わる」という言葉を大切にしています。「伝わる」とは、相手の心を動かし、相手の行動を変えることだと思っています。ビジュアルで人の心を動かすには感性を可視化することが重要です。シズルは感性を可視化する方法のひとつです。ぜひ、伝わるシズルを活用してブランドの魅力を引き出し、顧客との価値共創につなげていただきたいと思います。
deepLIVE
deepLIVE
deepLIVEは、リアルタイムCGと最新鋭のバーチャル・プロダクションシステムを備えた自社スタジオの活⽤により、 企業やブランド固有のニーズに即した企画立案〜リアルとバーチャルの垣根を超え共感を生む深い(ディープな)体験構築が可能、新たな体験創出でデジタルコミュニケーションにおける様々な企業課題の解決をサポートします。