消費者の心に響くコンテキストマーケティング戦略

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消費者の心に響くコンテキストマーケティング戦略

Text by Mitsuhiro Wakayama
Photo by Sonoko Senuma

企業のあらゆるコミュニケーション課題に向き合い、その解決方法を探る、アマナ主催のイベント「amana Brand Communication Day 2023 Spring」が2023年5月24日、25日と2日間にわたり開催されました。8つのテーマを切り口に、先進企業の方々をゲストに迎えたトークセッションや講演、マーケットの今と未来をとらえたセミナーを実施。今回は、テーマ「消費者の心に響くコンテキストマーケティング戦略」の回を紹介します。


消費者の価値観が多様化するなかで、企業やブランドがターゲットにメッセージを届けていくためには、丁寧にコンテキストを紡いでいく必要があります。また、そのコンテキストのなかで、様々なステークホルダーと共創しながら新たな価値をつくっていくことも重要でしょう。
UUUMの市川義典氏をゲストに迎え、ターゲットの心を捉えるコンテキストマーケティングやブランドコミュニケーションの考え方について、アマナのプランニングディレクター・杉山諒と、さまざまなコンテンツ企画/制作を担当する青木裕美を交えて語りました。
※本イベントはアマナの『deepLIVE™️』スタジオから配信を行いました。

いま、どんなクリエイターが人気なのか?

杉山諒(アマナ/以下、杉山):YouTubeやSNSのコンテンツが多様化・増加して久しい昨今ですが、いまどんなクリエイターが人気なんでしょうか?

市川義典(UUUM/以下、市川):「人気」の定義も非常に難しいところですが、この質問には一概に答えられないというのが本音です。ただ、熱量と高い専門性を持って情報発信しているクリエイターさんの人気が上がっているのは確かですね。

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UUUMの市川義典さん。

青木裕美(アマナ/以下、青木):コロナ前と後で、人気が出るクリエイターさんの種類は変わりましたか?

市川:変わったと思います。みなさんそうだと思いますが、コロナ前後でライフスタイルは大きく変わりましたよね。それにともなって新しいニーズが生まれたり、またニーズが多様化したりもしました。クリエイターの種類、人気のコンテンツにも変化があったように思います。

青木:人気のクリエイターのファンの方は、どうなんでしょうか。「好きなクリエイターにどっぷり」というタイプが多いのか、それとも「好きなクリエイターが仲良くしているクリエイターも好き」といった感じで派生的に関心を広げるタイプが多いのか。

市川:後者のほうが多い印象がありますね。10年ほど前、広告業界では口コミマーケティングとか、CGMマーケティングというワードが流行りましたが、マーケティングの本質は今も変わっていません。むしろ、情報を伝播させるコミュニケーションが加速したからこそ、現在の多様化があるとも言えるわけです。

「時短」と「ながら視聴」は同時に伸びている? コンテンツと関心の多様化

杉山:一方、人気のコンテンツというと、どんなものが挙がるでしょうか?

市川:YouTubeの人気動画ランキングを見てもわかるように、ランクインするコンテンツの質は本当にバラバラです。このウェビナーを視聴されている方々は、いまのトレンドを知りたいという方が多いと思います。しかし、かくいう私もそれが全然わからない(笑)。ついていけないんですよね。だから最近はプライドを捨てて、Z世代やα世代にトレンドについて教えてもらっていますが、すごく面白いんですよ。

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(左から)アマナの杉山諒、UUUMの市川義典さん。

市川:ある時、TikTokでバズった動画を紹介してもらったことがありました。「これ、すごくバズった期間が長かったんですよ」と言われたので「へえ、どのくらい?」と聞いたんです。そしたら「1週間です」と。1週間バズったら長い。じゃあ、普通はどうなのと聞いたら「1日、2日くらいじゃないですかね」と。若い世代にとっては、その時間感覚が「普通」なんです。また、個人が育った環境や見る態度によっても、親しむコンテンツは違うなと感じます。

コンテンツの人気を考えるとき、重要なのはジャンルだけではないと思います。昨今、耳にするタイムパフォーマンスが重視される傾向は、まだまだ続くと思いますね。40代〜50代の方々もショート動画をよく見るようになったというデータもあります。これは、時短をテーマにしたコンテンツ自体が40代〜50代に好まれている傾向とも相関しています。

青木:短い時間でインプットをしたいというニーズがある一方、長時間だけど人気を集めるコンテンツもあるんですよね?

市川:そうなんです。真逆の話になるんですけどね。モバイルデバイスではなく、テレビでNetflixやYouTubeを視聴する人も増えています。これはつまり「ながら視聴」が増えているということだと思います。テレビでながら視聴する場合は、ショートよりも長尺の方が好まれますよね。コンテンツを制作する我々も、前提とする視聴環境によって作るものを変えますし、逆にパートナーのKPIによっても最適な配信方法とコンテンツは変わってきます。

企業に望まれるコンテンツとは?

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アマナの青木裕美。

青木:最近ご相談が増えているのは「自社の発信の場がほしい」というものです。例えばYouTubeも発信の場の一つです。マーケティングにおいては、自社の発信をどれだけ近い距離で聞いてもらえるかがポイントになりつつあります。一方、場を作ったらコンテンツが必要になります。どんな情報を、どんなふうに、どのタイミングで発信するか。そういった悩みやニーズにお応えすることが増えています。

コロナ前からオウンドメディアを持って発信する企業は増えていて、こうした流れは現在まで続いています。またコロナ後は、リアルで開催されていた展示会をバーチャルにしたいというニーズも増えました。

市川:青木さんはこれからどんな場づくりやコンテンツ制作がしたいですか? こんなことできたら面白いのにな、という話でもいいんですが。

青木:リアルとバーチャルがクロスオーバーする体験は、どうやったら作れるかなと考えています。いまは両者が完全に分断された状態ですが、2つの世界にいるユーザーが混じり合う場づくりにチャレンジしたいなと。

市川:すごくよくわかりますよ。僕もそう思います。

青木:コロナも相まって、いろいろなコミュニケーション手段が増えたと思います。それに危機感や戸惑いを覚える企業が多いのもわかりますが、個人的にはそれは楽しいことだと思っていて。SNSが出始めたとき、誰もここでコミュニケーションが活発化するとは思わず、ちょっと遠巻きに見ている人がほとんどだったと思います。でも、いまではそれが当たり前になっているし、子どもたちが学校から帰ってきて、近所の公園とかではなく、ゲームのなかでコミュニケーションをとるのも普通になってきました。そう考えると、同じようにメタバースが当たり前になってもおかしくないですよね。

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アマナが制作した仮想空間「amana virtual museum」上に作品を展示したバーチャルフォトフェスティバル「PHOTO ALT(フォトオルト)」。

市川:メタバースをビジネス活用する取り組みもされていると思うんですが、手応えはどうですか?

青木:まだまだ模索中といったところですね。それらしいグラフィックを作るだけならリッチなゲームと何も変わらないので、そこにリアルな人を入れて、新しい体験を生み出していくチャレンジをしています。

これは弊社に限ったことではないと思いますが、この分野の正解にはまだ誰も辿り着けていない気がします。そこに投資しているからといってマネタイズできている企業はまだまだ少ないでしょうし、収益効果も未だ不明というのが正直なところなのではないでしょうか。とはいえ「メタバースを事業に組み込んでいきたいが、何をすればいいか」というご相談は増えています。そういった企業は10年先、30年先を見据えていますね。

市川:そうですよね。メタバースはかなり長いスパンで考えるべきものとして認識されています。逆に、2年や3年という短期で受け入れられるのはバーチャル×リアルの体験なのかなと。なので、トレンドを作りにいこうという場合は、後者を選択した方が望ましい結果が出るかもしれません。

クリエイターエコノミーを活用した新たなマーケティングの可能性

杉山:昨今話題になることが多いクリエイターエコノミーですが、今後ますます広がっていくのでしょうか?

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市川:間違いなく広がっていくでしょうね。ありとあらゆる分野で個人活動が増え、個人経済圏が広がっている状況はすでにあります。クリエイターがどんどん増え、マーケットが拡大していく中で、私たちとしてはクリエイターさんたちが活動しやすい環境づくりを進めていきたいと考えています。

杉山:クリエイターが増えていくことは、社会全体にとって良いことなんでしょうか? もちろん、一人ひとりがやりたいことを実現できる環境が整うことは歓迎すべきことだと思います。ただ一方で、そのことが社会にどんなインパクトを与えるのかは気になるところです。

市川:端的にお答えするのが、なかなか難しい質問ですね。世の中的には副業が加速していく感じがありますし、日本自体がグローバルにビジネスチャンスを増やしていかないと立ち行かない状況にあります。クリエイターが増え、コンテンツが増えていくことは、そんな状況を打破するきっかけになるかもしれない。クリエイターエコノミーがこの国を元気にする可能性を秘めているんじゃないかなと、個人的には思っています。

青木:これまで消費者と呼ばれていた人々が情報を発信し、独自にマネタイズできるようになったのが、いまの社会だと思うんですね。そうなると、いままでお金をもらう側だったブランドとファン/クリエイターの関係が変わってくると思うんですよ。つまり「そもそもブランドって、ファンとどう向き合うべきなんだっけ?」という問い直しが始まるんじゃないかと。

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青木:これは弊社の事例ではないのですが、以前「Depop」などが登場した際には、消費者自身がブランドをプロモーションするようなメディアになることで、ブランドとファンの新たな可能性を感じました。最近ではナイキの「.SWOOSH」が、いちはやくNFTやWeb3.0の流れに呼応して、ブランドとクリエイターエコノミーによる新たなブランディングの可能性が生まれているように思います。今後のアップデートが非常に気になるところです。

企業にとってクリエイターは「敵か、味方か」という点で、判断がつきかねるという人も多いと思います。クリエイターと企業の関係は、およそ3つあると思っています。一つは「企業がクリエイターを集約する」存在になるという関係。クリエイターをかかえて、彼らの事業を仲介するエージェント的な役目を担うということですね。二つ目は「企業がクリエイターと伴走する」ような、いわゆるパートナー的な関係。これは融資はもちろん、Adobeのようにクリエイターを支援するようなツールを提供なども含まれると思います。そして三つ目は「企業がクリエイターに加勢する」、たとえばディスラプターのようにクリエイターたちの既存のビジネスモデルそのものを変革するような関係です。

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杉山:では最後にまとめに代えて、今後企業のコミュニケーションにおいて何がポイントになってくるか、お二人のお考えを伺いたいと思います。

市川:まずは何にせよ、企業とクリエイターが歩み寄ることだと思います。僕がクライアントに毎回必ずお伝えしていることは「アサインしたインフルエンサーのコンテンツを少なくとも2〜3本は見ておいてください」ということです。企業がクリエイターの関心やポテンシャルを理解して、はじめて達成できる事業やKPIがあるということを知っていただきたいんですね。もちろんクリエイター側も、コラボレーションする企業が何を求め、何がしたいのかを理解する必要があります。

青木:企業がクリエイターを「情報」ではなく「人」として見ているか、そのコミュニケーションに熱量があるか。その点は非常に重要だと思いますね。今後、ブランドはクリエイターと一緒に作っていくものになるかもしれません。そうなったとき、クリエイターの思いを汲めず、彼らに振り向いてもらえないブランドではダメだということですね。逆に、クリエイターを味方にできるブランドは他にはない強みを持つことになる。

市川:企業とクリエイター、ブランドとファンが新しい関係性を構築しながら、より魅力的な価値を「共創」していけるといいですよね。

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