vol.157
CGによる製品ビジュアルは、広告やパンフレット、Webサイト、PR動画など、あらゆる媒体で活用されています。製品のビジュアルは、ユーザーの購買意欲や企業のブランディングにも影響を与える大きな要素ですが、CGを活用することで、どのようなメリットがあるのでしょうか。
今回のウェビナーでは、アマナのCGクリエイターの田中洋平と、プロデューサーの岡村徹、渡辺智美が登壇し、CGビジュアルと写真の違いや、CGが持つ力について解説しました。
田中洋平(以下、田中):まずは、製品ビジュアルに求められるものを考えてみましょう。アマナでは、ライティングで製品の形状、色、質感や、スケール感を正確に表現することは欠かせない要素として大事にしています。これらは、実際に製品を手に取る消費者の使用イメージにリアリティを与えることができます。
私は20年ほどCG制作に携わっていますが、製品ビジュアルをCGで制作する際には、製品の形体感やスケール感を正確に伝えるために、自分(カメラ)とモチーフとの距離や、アングルなど、フォトグラファーが持つ感覚値を非常に大切にしています。
そのほか、製品ビジュアルには一貫性も求められます。一貫性のあるビジュアルを作り続けることは、製品への信頼感だけでなく、企業のブランディングにも影響するといえます。
渡辺智美(以下、渡辺):製品ビジュアルにCGを活用する上で、検討するべきことはありますか。
田中:「そもそも写真よりCGの方が良いのか」に関して、(下図の)上に並べた3点はよく聞かれる質問です。下に並べたアセット価値を高めたいなどの要望は、近年よく相談されますね。
特に「CGは写真より優れているのか」という点は、重要な検討ポイントです。ビジュアルの制作方法は、写真撮影、CG制作、近年ではAI生成などが考えられますが、私は、手法はどれでも良いと考えています。判断軸となるのは、「どの手法であれば、最も製品の情報や魅力を正確に伝えることができるのか」です。
渡辺:写真撮影にはどのような良さがありますか。
田中:写真は「瞬間を捉える」と言うように、時間性やストーリー、ドキュメンタリー性などを感じるビジュアルを生み出すことができます。スタジオ撮影であれば、製品に携わる企業やスタッフのパッション、エモーションがどことなく残るという点も、写真の良いところです。
コストのことを考えるのであれば、例えば製品のひとつの機能説明のためだけにCGをセットアップするのはコストパフォーマンスが悪いといえます。その場合は、製品カットだけなら写真にするけど、今回は製品カットもCGで、というように、全体のバジェットの中から手法を組み合わせて最適解を探すことが大事だと思っています。
渡辺:そのうえで、CGによるビジュアル制作の良さとはなんでしょうか。
田中:同じコスト、同じスケジュールであれば、客観的に見て間違いなくCGを選んだ方がいいと思える場面があります。その際に要素は3つあります。
写真よりCGが優れている点は結構多いんです。カチッとしたアングルで製品をを捉えたり、製品をディテールまでしっかりと見せたりすることは写真だと大変なこともあります。製品カットを写真で作る場合は撮影後にレタッチで整えていきますが、CGは必要な後処理を最低限に抑えられ、安定したクオリティを保証できます。
あるベテランフォトグラファーが「真っ黒な空間を現実世界では作れない」と言っていましたが、漆黒の世界で何の反射物も何の光もないCG空間の環境は、「物撮り」のライティングには最適であり、撮影よりCGに優位性があります。光のコントロールを自由にできるという制限の無さも、CGの利点ですね。
渡辺:これらのCGのメリットは、どのようなビジュアル制作に活用できますか。
田中:まずひとつ、ライティングを作り込み、そのライティングをすべてのシリーズ製品に反映することで、製品を「美しく並べる」ビジュアルに活用できます。製品の色や質感などの変更にも半永久的に対応できます。また、製品機能を説明するCGビジュアルでも、しっかり作り込むことで製品の信頼性をアピールできます。
現実世界ではありえないような空間演出もできるので、そのブランド独自の世界観の表現にも適しています。
渡辺:1つの製品CGデータを、キービジュアル制作とコンセプト動画制作など複数の用途に使用してデータ資産を最大限活用することを「ワンソースマルチユース」と呼びます。製品の形状をより詳細に伝えたり、人物と組み合わせて利用シーンを再現したり、さらにはターゲットとなるペルソナの生活空間もCGで作り上げたりと、ユーザーが実際に製品を使用しているようなリアルな空気感を生み出せます。
田中:あと、どのようなメディアにも対応できるトリミングしやすい画像を写真で撮影するには、アングルハントする時点からしっかり設計して、ひとつずつ物の位置や角度を決めて撮影に挑まなくてはいけませんが、CGであれば事前に検証して柔軟に対応できます。この点も、CGの大きな優位性といえますね。
岡村徹(以下、岡村):ここからは、もう少し具体的なお話をうかがえればと思います。CGの制作過程で、いつも気をつけていることはありますか。
田中:大きく3つあります。まず、「CADデータ=ビジュアル制作用の3DCGデータ」ではないという点です。CADデータは製品を作るためのデータなので、画像や映像制作用の3DCGに置き換えるにはデータの変換作業や、そのままでは足りない部分をモデリングする必要もあります。必ずしもCADデータをそのままビジュアライズには使えません。
ビジュアライズにおける表現や演出上の課題解決は私たちの専門領域なので意外と苦労はしませんが、CADデータとCGデータが同じだという認識の齟齬があると、案件進行上のボトルネックになることがあります。
岡村:なるほど、CADとCGの違いを理解するところからスタートできると、必要なデータについて話しやすく、スムーズに進行できますよね。
田中:次は、クオリティにこだわることです。これはコストとも関係するので「そこそこでいいよ」と言われることもあります。製品ビジュアルはユーザーの購買意欲や、信頼感につながる部分ですので、妥協しない方がいいと考えています。
そして3つ目は、「なぜCGを使いたいのか」という検討からスタートすることです。CG制作のご相談を受ける時には、ビジュアル面の話よりも、予算削減やDX促進などビジュアル制作の効率化を求める話をよく聞きます。ただ、それが最終ゴールだとしても、その目的に達するまでにどういうステップを踏んでいくかという考え方が疎かになっていることが多いので、そのフォローアップを心がけています。
岡村:私たちプロデューサーも、なぜCGを検討するのかをお客様から伺った上で、制作現場に話をつなげていくことが大事ですね。
田中:そうですね。最初の段階で「これはCGが最適なのか」という点を整理して考えることが大事だと思っています。技術的に製品のCG化が可能で、表現開発までできてしまえば、後の効率化が簡単になるのですが、はじめから効率化ありきで考えてしまうと、つまずいてしまうことが多いです。
岡村:目的からスタートしましょう、ということですね。
岡村:企業が制作パートナーを選ぶ判断軸は、表現クオリティや画質品質などでしょうか。
田中:クオリティという言葉はよく出ますが、ライティングでしっかり物を見せるとか、シズル感を加えるといった「表現のクオリティ」のほかに、「製品ビジュアルを商品として考えて、納品物の正確性や高い生産性を実現するために制作工程まで管理して作ることができるか」という制作管理上の品質があると考えています。頼みたい作業範囲を整理して、それぞれの項目でクオリティをチェックされるのが良いと思います。
岡村:一度CGを作ったなら、どう量産していくのかというアセットの最大化も考えなくてはなりません。納品物の管理が疎かだと、それができなくなりますね。
制作パートナーの選び方をまとめると以下の3点になるでしょうか。
田中:そうですね。一点物の良いビジュアルが欲しいなら、そのビジュアルにマッチしたフォトグラファーやCGアーティストをアサインするのが最適解だと思います。シリーズ商品をブランドとして継続させる意味では、翌年でも同じものが作れることが大事です。「何をしたいか」という目的から考えて、制作パートナーを選ぶといいですね。
岡村:ビジネスでは、いかに効率的に、高品質な製品ビジュアルを高速かつ大量に生産できるかが重要です。アマナでは、2024年11月に、ビジネスに寄与するCGビジュアル制作特化型の新サービス「V.I.A. PRODUCTS(ビア プロダクツ)」をリリースしました。
V.I.A. PRODUCTSの特徴は、「自動化・効率化システム」「フォトリアルな表現力」「安心のデータ管理体制」の3点です。
岡村:独自開発した「V.I.A. Tools」を活用して、CG制作に必要な作業の多くを自動化・効率化します。
V.I.A. Toolsでは、通常はCGクリエイターが各々管理するマテリアル(質感)を、ライブラリ化して標準化しています。これにより、属人化してしまっていたスキルをさまざまなクリエイターに共有でき、スピード感のある制作が可能です。
また、製品のモックアップを撮影した画像と同じライティング環境を、3DCG空間に用意して比較検証することで、マテリアルの質感や光の反射など繊細なニュアンスまで再現可能です。さらに、ヒューマンエラーを防ぐために、レンダリングしたさまざま画像を自動で組み上げる仕組みがあります。システムで自動化し、正確性も担保しています。
岡村:製品の配置やライトの当て方、カメラの設定など、CGクリエイターの横でアマナの優秀なフォトグラファーが細かくディレクションすることで、よりリアルな表現を実現します。
岡村:データ管理体制にも強みを持ちます。お客様からお預かりしたCADデータは、CG制作開始前に内容を細かくチェックし、診断レポートを提出します。制作工程に入る前に不足しているデータなどを確認できるため、手戻りなくスムーズに制作を進行することができます。
また、過去データもアーカイブ管理するため、お客様側の担当者がかわっても、これまで通りの高品質なビジュアルを維持できます。
V.I.A. PRODUCTSは、提供いただいたCADデータから最小単位の切り抜きカットを作成するベーシックプランに、お客様の目的や予算に合わせてオプションを組み合わせることも可能です。一度制作した製品CGアセットは、広告ビジュアルからWeb媒体や紙媒体、展示会、バーチャルショールームなど幅広い用途で活用いただけます。アマナではコミュニケーションのデザインから様々なコンテンツの開発までを合わせてご提供することが可能です。
また、CADデータ診断やデジタルモックアップによる品質確認の無償トライアルも行っています。ぜひお気軽にご相談ください。
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