ブランドストーリーを活かした最新キャンペーン事例8選~AI、アバター、SNSを駆使して顧客を魅了する方法::STYLUS Trend Topics③

Ada daSilva

この連載では、世界中のマーケット潮流をリサーチ、レポートするイノベーションアドバイザリー「STYLUS」の日本法人でカントリーマネージャーを務める秋元陸さんに、同社のグローバルレポートに基づき、企業の広報・マーケティング担当者が知っておくべきトレンド情報を解説していただきます。第3回となる今回は、いまグローバルで注目を集めるブランドキャンペーン事例をまとめて紹介します。

事例①:オレオの革新的なブランド訴求キャンペーン

最近のブランドキャンペーン事例の中でも特に注目したのは、ココアクッキーの「オレオ」によるキャンペーン、「OREO CODES」です。このキャンペーンでは、デジタル技術を駆使して、消費者の日々の購買行動に溶け込む形でブランド訴求が行われました。

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https://www.oreocodes.com/より

具体的には、市販の牛乳パッケージに印刷されたバーコードを活用するもので、消費者がオレオの提供するスキャンアプリを使ってバーコードを読み取ると、さまざまなディスカウントクーポンなどの特典が受けられるというものです。

オレオブランドが長年訴求してきた、「牛乳と一緒に食べると美味しい」というメッセージを、より多くの消費者に伝えるべく実施されたこのキャンペーン。牛乳を購入した消費者に、そのお供としてオレオをおすすめするという戦略です。

このキャンペーンは、複数の牛乳メーカーと連携して行われました。消費者が商品のバーコードをスキャンすると、提携先メーカーに連携されたデータベースと照合が行われ、一致した場合に特典を提供するというシステムだと予想されます。デジタル技術を駆使しつつ、ブランドの核となるメッセージをしっかりと伝えることに成功した事例といえるでしょう。

事例②:老舗ビールメーカーの、AIを駆使したユニークな試み

ベルギーの老舗ビールメーカー「ステラアルトワ」が、最新のAI技術を応用してキャンペーンを行った例もあります。具体的には、数々の名画に登場するビールの画像を集め、それらが「うちのブランドのビールである」と判定できる確率をAIが計算。描かれたビールの色や土地、ビアマグの形などから判定させ、そのデータを元にして、ブランドクリエイティブを制作したのです。

背景には、このビールメーカーが1300年代からビールを製造している超老舗ブランドだという事実があります。彼らは、その深い歴史と伝統を現代の消費者に伝えてブランドの存在感を示すため、このキャンペーンを実施したわけです。

名画の中のビールが「うちのブランドのビール」であるというメッセージは、歴史の中でもブランドが人々に愛されてきたことを物語ります。このキャンペーンは、伝統と最新技術を融合して、新たなブランド価値の訴求方法を実現したといえるでしょう。

事例③:セリーナ・ウィリアムズをアバター化したナイキ

ナイキは、テニスプレーヤーのセリーナ・ウィリアムズの公式メインスポンサーとして、デビュー戦のころから活動をサポートしてきました。

同社は、彼女の試合の映像や画像を数多く保有しており、AIにそれらを解析させることで「セリーナ・ウィリアムズ・アバター」を作成。そして、彼女の動きや反応を分析したデータを、テニスのトレーニングやプレイヤー育成に活用するというプログラムを開発しました。

スポンサーを続けてきたからこそ蓄積できた膨大なデータを、最新のAI技術と掛け合わせて生まれたこの取り組みは、スポーツとテクノロジーの融合を進めるナイキが、アスリートたちのパフォーマンス向上を支援する姿勢を示すものとなっています。

事例④:真の美しさを応援するダヴの挑戦

SNSの画像投稿において、最近は美しさや完璧さを追求するためのフィルター使用が一般的となっています。この風潮に対して、ビューティーケア製品のメーカーであるダヴは「#turnyourback」(後ろを向いて)というキャンペーンを展開しました。

その核心は、真の美しさや自己肯定感を、フィルターを通さずに伝えることにあります。具体的には、SNSの投稿者が顔を出さずに、後頭部を写して歩き去るというシンプルな動画を、#turnyourbackというハッシュタグをつけて投稿するというもの。

背景には、コロナ禍で「Bold Glamour」といった外見を過剰に美化する高度なフィルターがTikTokで人気を集めたという流れもありました。「Bold Glamour」は、顔の前に手をかざして撮影しても消えないほどフィルター機能が優秀で話題になりましたが、それで「いいね」をたくさんもらっても、そのことが自分にとって本当に嬉しいのかという声が挙がったり、逆に自分に自信を持てなくなることもあったわけです。

そういった風潮に対して、ダヴは「こうしたフィルターが本当に必要なのか?」という疑問を呈し、SNS上での自己表現に新たな視点を提供。女性の美に対する考え方や価値観に焦点を当て、真の美しさとは何かという問いを投げかけたこのキャンペーンは、ハリウッドセレブや多くの一般ユーザーからも支持され、大きな話題を呼びました。

事例⑤:サステナビリティとストーリーを融合したイケア「ライフコレクション」

近年、サステナビリティや環境への配慮が重要視される中、イケアは「ライフコレクション」という新しいキャンペーンをスタートさせました。このキャンペーンの中心には、セカンドハンド(中古)市場の活性化と、家具や商品にまつわるストーリーの共有があります。具体的には、イケアが以前販売した商品を顧客から買い取り、それらの商品に関連するストーリーや背景を共有するという取り組みです。

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https://www.ikea.com/no/no/より

たとえば、「ずっと一緒に時を過ごしてきた椅子や机だけれども、使っていた家族が亡くなったので家の中にあると見るのも辛い」とか、「会社が倒産してオフィス家具が不要になった」、あるいは「シンプルにデザインが気に入らなかった」など、商品を手放す際にはさまざまな理由があります。顧客から買い取る際に手放す理由を聞き、ストーリーと合わせてその商品のセカンドハンドを展開していこうという試みなのです。そういうことをイケアがやっているという点において、話題になりました。

事例⑥:絶滅動物のDNAから蘇ったマンモスミート

ブランドキャンペーンには「話題になれば勝ち」といった側面もあり、評価が難しいのですが、「ヴォウ」というバイオサイエンス企業が広告代理店やクリエイティブエージェンシーと組んで行った「マンモスミート」というキャンペーンは面白い取り組みでした。

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https://www.mammothmeatball.com/より

これは、「絶滅したマンモスのDNAから、バイオ技術を使ってミートボールを作る」というもの。食用として人に提供することは想定されておらず、将来的に畜産などの分野に応用できる可能性があるというレベルですが、オルタナティブミートや培養肉など、持続可能な食材の開発が活発に行われる中で、こうした絶滅動物のDNAを利用した食材開発が、新たな食の未来を示唆する可能性もあります。そのためのテクノロジーが、すでに存在していることをアピールする取り組みでした。

事例⑦:シャルルドゴール空港によるダウン症啓蒙の取り組み

フランスの玄関口ともいえるシャルル・ド・ゴール空港では、ダウン症啓蒙のために1週間限定の特別な取り組みが行われました。

この取り組みの背景には、フランス大統領としても知られるシャルル・ド・ゴールの家族にまつわるストーリーがあります。彼にはアンヌというダウン症の娘がいて、彼女に深い愛情を注ぎ育て上げたと言われています。

そのことにちなんで、シャルル・ド・ゴール空港は、1週間限りで「アンヌ・ド・ゴール空港」へと名称を変更する取り組みを実施。各航空会社の電光掲示板なども、この特別な名称に一時的に変更され、ダウン症に対する啓蒙やチャリティー活動に貢献しました。

この大規模な取り組みは、空港だけでなく、自治体、政府ほか多数の団体、そして航空会社などの協力があって実現したのですが、その甲斐あって社会的にも大きな注目を集め、意義あるキャンペーンとして評価されました。

事例⑧:自殺者の問題にスポットをあてた「ラストフォト」

2023年のカンヌライオンズで紹介されて話題を呼んだのが、「ラストフォト」という、自殺者をテーマにした衝撃的な写真や映像の展示会です。ここに展示された写真や映像は、彼らが自ら命を絶つ前の日常の中で撮影されたもので、普段の笑顔や日常の様子が記録されています。

この取り組みは、NPOのCALMとITVが主催したものです。カンヌ以前にロンドンでも開催されたこの展示会の目的は、日常の中でどのような表情や姿を見せていたのか、そしてその背後に隠された心の葛藤や痛みを社会に伝えることでした。これによって、見えない心の傷や悩みを持つ人々に対する理解やサポートの重要性を訴えたのです。

ロンドン会場には7日間で50万人以上が来場し、Web広告では1600万以上のインプレッションを記録するなど、大きな反響を呼びました。社会問題としての自殺の認識を高め、その予防や支援の重要性を訴える強力なメッセージとなったのです。


最近話題になるキャンペーンに共通するのは、そのブランドが発信するからこそ意味があるメッセージを、テクノロジーを駆使した斬新な顧客体験に落とし込み、深くブランド体験をさせているということ。そのメッセージが、ブランドとしての社会課題への向き合い方を表していれば、より大きな話題を呼ぶ傾向にあります。今回紹介した取り組みには、2023年のカンヌライオンズで注目されたものも含まれますが、何らかの賞の受賞有無に関わらず、ここ1年で話題を集めたキャンペーンに共通する傾向と言ってよいでしょう。

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文:大谷和利
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