vol.129
2024年CESの最新レポートと未来予測
毎年恒例の世界最大のテクノロジーイベント「CES(Consumer Electronic Show)」が、2024年1月9日から12日までアメリカ・ラスベガスで開催されました。
今回のウェビナーでは、世界中のマーケットの潮流をリサーチ・レポートするイノベーションアドバイザリー「STYLUS」の秋元陸氏が、CES2024で注目を集めた最新テクノロジーをレポート。継続的かつ多領域でCESを調査する同社ならではの俯瞰的な見方で、テクノロジーとマーケットの傾向を解説しました。
最初にCES2024のレポートを簡単に紹介します。今年の来場者は13万人を超え、4,300のブースが出展されました。その中には、スタートアップが1,400以上も含まれており、コロナ後における最高の盛り上がりとなりました。ご自身が携わっている領域や関わる業界の最新のテクノロジーに関心がある場合は、イノベーションアワードを参照することをおすすめします。CESでは、優れたイノベーションやプロダクト、サービスソリューションにベストとノミネートの各賞が贈られており、そのカテゴリは30以上あります。
次は、CES2024の傾向をまとめたトピックです。
1.ベストイノベーションアワード
2.キーノート
3.韓国勢の台頭
1.ベストイノベーションアワード
CES2024の記事をインターネットで検索すると、「AI祭り」といった表現が目立ち、確かにAIの出展が多かった印象があります。しかし、ベストイノベーションアワードを見ると、必ずしもAIを搭載しているものばかりではありません。これまでできなかったことを実現したり、環境への負荷が低減されたり、業界全体にインパクトを与える製品が選出されています。
ただし、AIに関しては、その背後にMicrosoftの存在感が見え隠れします。つまり、ChatGPTやAzureなど、さまざまな企業がMicrosoftとの提携を発表しています。
2.キーノート
キーノート(Keynote)に関しても、さまざまな企業が注目を集めました。Qualcomm、Walmart、LANCÔME、Intel、Hyundaiなどが登壇し、GAFA企業だけでなく、産業を牽引する企業がテクノロジーの研究開発や経営を取り上げ、産業適用を主眼に置く姿勢が特徴的でした。
3.韓国勢の台頭
今回のCESでは、約1/3の出展やアワードがHyundaiやSamsungなど、韓国の企業によるものでした。
一部の人々は国ごとの存在感を比較しますが、個人的にはそれよりも、どんな面白いテクノロジーが業界を変えていくのかがCESの醍醐味だと思っています。
ここからは、皆さんの日々の業務や今後の事業創出に役立ちそうな具体的なテクノロジーを紹介していきます。世の中に普及しつつある産業向けの事例が多数存在しますが、全てに触れることはできません。そこで、オートモティブ、家電、そして最後にAIという流れで、どのような進展が見られたのかを紹介します。
1.オートモティブ
・Microsoftとの提携を発表(ソニー・ホンダモビリティ/AFEELA)
・EVが働く車への参入を加速(Hyundai/Supernal)
・ドイツメーカーの機能的な未来(BOSCH/EVインフラ、Continental/顔認証セキュリティ)
最近では、車とテクノロジーの融合が進んでおり、オートモティブはCESの中でも盛り上がりや未来感が強く伝わる領域となっています。
・Microsoftとの提携を発表(ソニー・ホンダモビリティ/AFEELA)
ソニー・ホンダモビリティは、日本のマーケットで注目を集めている「AFEELA(アフィーラ)」という車を発表しました。この車は、昨年CESに初登場し、今回はいくつかの細かいアップデートを経て、2026年に市場投入される予定です。そして、ソニー・ホンダモビリティはMicrosoftとの提携を発表しました。この提携により、MicrosoftのオープンAIサービスAzureが車載ナビゲーションシステムのアシスタントとして採用され、車内でのAI活用が可能になります。
・EVが働く車への参入を加速(Hyundai/エアモビリティSupernal)
輸送や物流を支える車両がますますEVに移行し、ショベルカーやトラクターもEV化が進んでいます。その中で、来場者の注目を集めたのがHyundaiのエアモビリティ部門が展示した空飛ぶ車、Supernal(スーパーナル)。交通渋滞の解消を目指し、この夏に行われるパリオリンピックなどで実用化される可能性について議論が続いています。
・ドイツメーカーの機能的な未来(BOSCHのドライバーレスパーキングと自動充電、Continentalの顔認証セキュリティ)
業界全体で注目を浴びたテクノロジーのうち、特筆すべき2つをご紹介します。まず、BOSCHは自動車の部品などを製造するドイツの老舗メーカーで、自動運転や電気自動車といった新たな時代に対応すべく、革新的なインフラを提供する取り組みを行っています。具体的には、自動運転で駐車場に入ってきた車が、給電のために適切な位置に停車するためにロボットアームと通信を行います。その後、ロボットアームがプラグを接続して充電し、作業が完了すると再び通信をして車両を退去させ、次の車両が充電できるようにスペースを確保します。BOSCHは、AIを駆使し、機能面に焦点を当ててシンプルで使いやすいテクノロジーを提供することで、未来を切り拓いています。
また、盗難車を使った犯罪は一向に解決しない社会問題ですが、車のドアのロックと運転中のロック解除の両方に顔認証の仕組みを組み込んだセキュリティシステムを、ドイツの自動車部品メーカー・Continentalが提供しています。現存するテクノロジーを駆使して現在の社会問題に対処する取り組みとして、こうした製品が開発されていることを紹介させていただきました。
2.家電(パーソナルエレクトロニクス)
・ワイヤレス透明OLEDテレビ、折りたためる大画面テレビ(LG、C SEED)
・ジェスチャーコントロール(Lotus)
・住空間のトレンドから、テクノロジーの背景を読み解く
次は家電(パーソナルエレクトロニクス)です。CESでは家庭用の白物家電と、個人で使うパーソナルエレクトロニクスにカテゴリが分かれています。
・ワイヤレス透明OLEDテレビ、折りたためる大画面テレビ(LG、C SEED)
家電の部門では、LGの透明ディスプレイモニターがアワードを受賞しました。このテレビのモニターは向こう側が透けて見える仕組みですが、たとえば、Netflixを見るときなどは画面が黒くなるため、常に向こう側が透けているわけではありません。また、オーストリアの高級家電メーカーであるC SEEDのテレビは、ボタンを押すと自動的に折りたたまれる仕様になっています。
・ジェスチャーコントロール(Lotus)
テレビ関連では、ジェスチャーコントロールが登場しています。例えば、Apple Watch専用のアタッチメントをリストバンドに装着することで、指をピンチしたり、手を振るなどのモーションジェスチャーでデバイスをコントロールできるようになります。また、アメリカのメーカー・Lotusでは、指輪を使って家の中のデバイスのスイッチを、テレビやエアコンのリモコンのように操作することが可能になっています。
・住空間のトレンドから、テクノロジーの背景を読み解く
モニターが透明になったり、テレビが自動で折りたためるようになったとしても、それに高額な費用をかける必要があるかどうか、また指輪でデバイスを操作できるようになったとしても、既存のリモコンを使えば十分であると感じるのは、個別のテクノロジーだけで見ると確かにその通りかもしれません。しかし、我々が注目するポイントはそこではありません。
CESから少し離れますが、皆さんにご紹介したいのは、デザインウィークやカンファレンスで注目している住空間や空間デザインに関するトレンドです。1枚のイメージ画像がよく使用されますがこれには人々が1年から5年先に求めるおしゃれで快適な空間のコンセプトが反映されています。
カラーパレットについて、グレー、白、ベージュといった穏やかな色調が部屋全体の雰囲気を落ち着かせ、人々に癒しや快適さをもたらします。これに加えて、オレンジやピンク、緑などの明るい色が配置されることがありますが、これらは明るい色としてはややくすんだトーンであり、基調となる色調と調和するように配慮されています。家具も角の取れた丸みを帯び、空間全体は光とのバランスで影が多めに取り入れられることで、より柔らかな雰囲気が作り出されます。これらの要素が、将来の空間デザインのトレンドとして注目されている理由は、リモートワークなどにより家で過ごす時間が増える中で、閉塞感を軽減し長時間滞在する場所での快適さを追求する方向にシフトしているためです。
このような状況下では、リビングルームなどで目立つ存在であるテレビの存在感を抑えたいと考える人々が増えています。特に若い世代ではテレビの保有率が低下しているため、テレビは欲しいが空間を圧迫すると感じる人もいます。そのため、部屋の中でテレビの存在感を薄める取り組みや、机の上に散乱するリモコンを極力減らすことが行われています。家の中で過ごす時間が増える中で、部屋の中からノイズを排除し、他の機能を分散する傾向があるというのは、個人的にも理解できる考え方です。
3.AIの最新アイテム
・パーソナルコンピュータからパーソナルコンパニオンへ(Hewlett Packard)
・モバイルAI端末(rabbit)
・ARグラスを使う、画面のないタブレット(spacetop)
・パーソナルコンピュータからパーソナルコンパニオンへ(Hewlett Packard)
AI時代の到来を踏まえ、議論を呼びそうなセキュリティ重視のノートパソコンをHewlett Packardが発表。ユーザーの文体や口調を分析するAIアシスタントが搭載されており、ChatGPTからの形式的なスピーチ原稿にもユーザーの口調を反映させる技術が提供されています。また、このAIアシスタントは学習した情報をクラウドに接続せず、ユーザーのセキュリティを強固に守ることに重点を置いています。個人情報の保護が重要視される中、このノートパソコンはAIの学習とセキュリティの両面で注目されています。
・モバイルAI端末(rabbit)
ポケットサイズのAIアシスタントであるrabbit。音声認識デバイスは、SiriやAlexaと異なり、あらゆるアプリと接続が可能です。ユーザーが登録したアカウントを管理している前提で、「ラビット君、明日の大阪行きのJALのチケットを何時に予約して」と尋ねると、予約から決済までを処理してくれます。AIコンシェルジュとして発表され、2024年の春にローンチされますが、初期ロットは予約が完売しており、第2弾の予約を受け付ける予定です。
・ARグラスを使う、画面のないタブレット(spacetop)
現地に行った人が驚いたのが、spacetopです。これは空間コンピューティングを行っている新興企業です。キーボードとARグラスだけで、モニターは必要ありません。ARグラスを通して見ると、画面上にさまざまなウィンドウが広がり、どこにいても自分のデスクトップスペースをARデバイスで表示できるので、装置を小型化できます。これが実現すれば、個人的には働き方が劇的に変わると思います。こうした革新的な技術を目にするのもCESの魅力の一つだと思います。
AIを使ったものが増える中、AI搭載という表現をするものもありますが、自社のデータにマシンラーニングをかけて学習を積めば、よりよいサービスが提供できることもあります。AIを使っている製品が多くありますが、本質的にAIを使いこなして顧客体験の価値が上がるのかを見ていくことも重要です。それにより、AIに関する議論がさらに深化していく可能性があると考えています。
最後に、世の中のトレンドやテクノロジーの産業適用などのトピックをお伝えします。
・ライフスタイル
コロナ禍やインフレにより、人々のライフスタイルが変化しています。特に食の領域では社会的課題があり、関心は高いものの、企業のウェルビーイングの描写と生活者のニーズとの乖離が見られます。
・テクノロジーの産業適用
AIの産業適用には先行者利益やROIなどが隠れていますが、この点について議論する企業はまだ少ないようです。AIの採用においては、これらの要素を押さえて議論を深めることが重要です。
・ブランド体験
店舗体験の充実化が大きなテーマになっています。特にオンラインでのショッピングが増える中で、来店のハードルを下げる取り組みが求められています。このようなブランド体験の改善は、競争の激しい市場において重要なポイントとなります。
STYLUS
STYLUS
ロンドンを拠点に活動するSTYLUSは、様々な業界のトレンドを分析し、未来の変化を予測するイノベーションアドバイザリーサービスです。
独自のアプローチで、データと経験を基にしたインサイトを提供し、企業がイノベーションを推進し、市場の変動に対応できるよう支援しています。