VUCA時代、視座を高めるために読んでおきたい本

先行きが見通せない今の時代、企業単位だけでなく、一人ひとりがこれからのビジョンや行動指針を考え、そしてそれを人へと伝えることが必要になるでしょう。主体的に行動したい人へ向けて、今読んでおきたい本をアマナのクリエイターが紹介します。

これからの「豊かさ」はどうつくる?

今自分はどれほど主体的に、創造的に生きることができているのか——。そんなことを考えさせられたのが、50年近く前に書かれた本でありながら、現代に通ずる資本主義への問題提起がなされている『コンヴィヴィアリティのための道具』(著:イヴァン・イリイチ、翻訳:渡辺京二、渡辺梨佐/筑摩書房)です。

経済とテクノロジーの成長によって、できることが広がっているにも関わらず、閉塞感を覚え、生きづらさを感じる人が増えているのは、知らず知らず「道具」に支配されているからだとイリイチは警鐘を鳴らします本著でいう「道具」とは、文字通りの道具に加え、制度やシステム、組織、科学技術、商品など、人と世界を媒介するもののこと。道具は独自に進化していき、いつの間にか人を奴隷化してしまいます。

しかし、ここでイリイチは道具を捨てろと言っているのではありません。道具を使うことに意識的になるべきだと述べているのです。人間のための道具”として使っていくという、道具本来のあり方を「コンヴィヴィアリティ(自立共生)のための道具」と呼んでいます。

スマートフォンがなくても、Googleを使わなくても、私たちは生きていけるのか? はたまた普段どれくらいそのテクノロジーを使って生きているのか? それは本当に自分を豊かにすることへつながっているのか? まずはそうした身近なところから意識してみるといいかもしれません。

また、道具による奴隷化の背景には、資本主義があるとも指摘します。お金を生み出すために道具を進化させた結果、多くの資源が消費され、依存した側が搾取される構図が生まれました。金銭的に豊かな時代は、その事実に目を瞑り、それほど大きな問題としてとらえられていなかったかもしれません。しかし、日本が経済成長の限界に瀕する今、あらためて「豊かさ」とは何であるのかをとらえ直すタイミングなのではないでしょうか。

それでも人は、「成長したい」と願う生きもの。資本主義をなくすことも、方向転換することもすぐには難しいでしょう。私たちにできるのは、資本主義的な側面も鑑みながら、「人間本来の幸福感や生き生きとした人生はどうすれば生み出すことができるのか」を主体的に考え、実行すること。両軸のバランスを取っていく必要があります。

本当の意味で豊かになるために何をすればいいのか。いつの時代も、正しい答えはありません。まず必要なのは、自分を取り巻く状況をさまざまな視点で知っておくこと。そして「豊かさ」に関する自分の美意識や価値観を磨き、仲間と共有したり、議論したりしながら相手を受け入れ、時代とともに更新し続けること。私たちはもっと自由でいいし、自由な考えと行動の先に、それぞれにとっての豊かな人生があるのではないかと思うのです。

 

この本を紹介した人

 渡邊 慶将

  株式会社アマナ プランナー・ディレクター

Movie Director とPhotographerのマネジメントを行いながら、企業のブランディングからデジタルプロモーションまで幅広くコンテンツ制作を担当。昨今は企業の自主発信のメソッド開発やコンサルを提供している。動画のクリエイター人口が急速に増加するなか、社内外問わず若い優秀な人材が活躍できる環境の構築に向けて日々活動中。チーム賞歴として、NY Festivals: 2020 Grand Jury 選出 (福村昌平)、German Design Award コミュニケーションデザイン ビジュアル部門 WINNER、NY Festivals: 2019 撮影技術部門 編集技術部門 受賞などがある。

 

ビジネスで、私生活で、本当に伝えたいメッセージが伝わるために

仕事でも生活でも、私たちが誰かとコミュニケーションをするうえで使う“言葉”。誰もが自身の考えを気軽に発信できるようになった今、巷にあふれる言葉の数が多すぎるがゆえに、言葉を使って伝えるということが難しくなっています。

胸からジャック。 心にささる一行メッセージのつくりかた。』(眞木準/大和書房)は、伊勢丹、サントリー、全日空など多くの企業のコピーを担当し、今なおクリエイターをはじめ多くの人の心に残る言葉を残しているコピーライター・眞木準さんによる著書。企画やプランニング、営業といったビジネスの場面はもとより、誰かへの励ましや愛の告白など、メッセージを伝えるうえでの心得が綴られています。

眞木さんは、人に伝えるとき「嘘をついたり、拵えごとをしたりしても、多くはすぐに嗅ぎ分けられてしまうだろう。真実は読む人の心におのずとしみわたるものだ。これはメッセージの普遍である」といいます。人が人に伝える以上、そこに潜む嘘は次第に透けて見えてしまうもの。真実を伝えなければなりません。真実を伝えるためには、真実とは何なのか、その真実を伝えるにはどんな言葉が必要なのかを考える必要があります本著で引用されているゲーテの言葉、「人を最も感動せしむるものは、その心胸より出でたる言葉なり」。この「心胸より出でたる言葉」にたどり着くには、非常に多くの情報を取り入れなければなりません。

私自身、眞木さんと同じコピーライターですが、一つのコピーを生み出すまでには、クライアントからオリエンテーションを受けてその情報を咀嚼するだけでなく、関連するものごとについて徹底的に調べてみたり、視点を変えて考えてみたりと、さまざまなアプローチを行います。そうしたプロセスを辿っていく最中で、それまでと視点が変わったとき、一行のコピーにまとめているときに、ふと「真実はこれだったんだ」と気づくことができるのです。言葉を生み出すのは、“見つける仕事”でもあります他にも、本著では「自由律である。」「文字数の制限はない。」「一行詩である。」など、メッセージを生み出すうえでの眞木さんの考えが章ごとにまとめられ、どこから読んでも学びのある一冊となっています。

先行きが見えない今の時代、不安が大きくなってしまうこともあるでしょう。その不安を乗り越えていくためには、まず知ることが大切だと私は思います。いろんなことを知って、見方を少し変えるだけで、これからの時代を生きるヒントが見えてくるかもしれません。この本を通して眞木さんの思想を知ることは、一つのメッセージを生み出すうえで、いろいろな視点があることに気づくきっかけになるのではないでしょうか。

 

この本を紹介した人

 高橋 真哉

  株式会社アマナ コピーライター

2005年より、コピーライター西村佳也氏に師事。企業理念やブランドストーリー、キャッチフレーズをはじめ、ネーミング、読み物コンテンツなども手がける。言葉を起点としたブランディングやプランニングを得意とする。

 

撮影:小山 和淳(amanaphotography)
AD:片柳 満(amana)
文・編集:徳山 夏生(amana)

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