BtoB企業が知っておきたい、メタバース時代における3DCG活用法【後編】

メタバースにおいて、インタラクティブで豊かなコミュニケーションを実現するカギを握る、3DCGデータ。あらゆるデータを3DCGデータアセットとして社内で整理しておくことで、実は業務効率化や社内のナレッジ継承にも役立てることができます。BtoB企業こそ学んでおきたい、3DCGデータの効果的かつ効率的な活用法について、アマナでビジュアルコンサルティングチームを率いる堀口高士が、注目事例を交えて解説します。(前編はこちら

事例 ③:3Dデータ最適化による、効率的なコンテンツマネジメント

デジタル上でのビジネス活動が増えたことで、顧客とのタッチポイントが多様化しています。それに比例してコンテンツ量も拡大し続け、管理が大変だという課題をよく耳にしますが、その課題の解決にも3Dデータによる情報整理が役立ちます。

製造業ではPIM(Product Information Management)という考え方が普及し始めていますが、これがコンテンツ活用を前提に最適化されていると、企業のあらゆるコミュニケーション資産(製品情報などの機能的資産や、ブランドの持つ世界観などの情緒的資産)をどんなメディアにもスムーズに活用していくことができます。

例えば、商品企画やモックアップ制作など製品開発に使用される3D-CADデータを、プロモーション用のビジュアル制作に活用・流用していく手法も主流になりつつあります。

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PIMを活用しさまざまなメディアに対応可能な3DCGコンテンツ

今後バーチャル空間での体験機会が広がっていくことを考えると、例えば現実世界において、会社のエントランスや展示会でのブースデザインといったところで顧客が触れる世界観や情緒的価値を、デジタルデータで表現するといったシーンも出てくるでしょう。バーチャル空間においても、その企業の“らしさ”や世界観に一貫性を持たせつつ、しっかりコンテンツを管理していく必要があります。

プラットフォームに依存せざるを得ない状況では、様々な制限の中で意図せぬ表現になってしまうケースも想定されますが、それがブランド毀損につながってしまうのは避けたいところです。そのためには、今まで現実世界で蓄積されてきた様々な企業のコミュニケーション資産を棚卸し、どんなメディアに展開してもブレない、その企業やブランドの“らしさ”を確立しておく必要があるでしょう。

メタバースというと、VRヘッドセットやスマートグラスといったデバイスのイメージが先行し、「ユーザー側の環境が整わないと、良い体験は提供できないのではないか」と懸念している方もいらっしゃるかもしれません。そういう方には、ぜひ新しい技術にも目を向けていただきたい。例えば、「サーバーサイドレンダリング」は、クラウド上で描かれたCGをインターネットを通じてストリーミングできる技術ですが、手持ちのマシンのスペックに依存することなく高精細なCGをリアルタイムに表示することができます。

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建築業界や自動車業界などでも今後活用が期待されており、建物や部屋の内部をユーザーが自宅からWebブラウザでリアルタイムに閲覧できたり、自動車メーカーにおいては車体の形状や色、内装のデザインを複数拠点で同時に開発できるなど、リアルタイムでのコンテンツ体験に革命を起こす可能性のある技術として注目されています。

事例④:サステナブルな企業活動を推進する3D技術

企業の長期的な発展や成長を考えるうえで、ESG(Environment,Society,Governance)の観点は欠かせない時代です。製品を製造する過程における無駄の削減や、環境に配慮した素材の見直し、働く人の労働環境整備など、バリューチェーンの再構築は、DXと合わせてどの企業も取り組んでいる事でしょう。このような持続可能な企業活動を推進していく上で、3D技術を効果的に活用している事例があります。

3Dソフトウェアのパイオニアであるダッソー・システムズは、製品開発のための研究過程において、対象の製品をバーチャルツイン化してクラウド上に再現するソリューションを提供しています。製品がクラウド上に再現されていることで、研究者は研究室以外でも業務を進められるようになり、コロナ禍のような非常事態でも働く人の安全性を確保することができます。

(Dassault Systèmes 公式 Youtubeチャンネルより)

これを導入すると、例えば消費財メーカーが新たな容器デザインや素材を検討する際、バーチャルツインで再現した3D製品をもとに、容器のプラスチック削減のための検証を行うことができたり、軽量化による輸送コストの削減と強度のバランスを見るためのシミュレーションを行うことができます。メーカーがバリューチェーンにおける様々な課題解決に取り組むための過程に、3D技術が生きているのです。

広告業界においても、車のCM制作などは、ほとんどの企業がCGを活用した映像表現を取り入れています。製品サイクルが早まり、製品開発とプロモーションが並行していくため、撮影までに製品のモックが間に合わないといったケースも多くあります。そこで、製品開発で使用する3D-CADデータをプロモーションに活用可能な3DCGモデルデータに変換し、リアルな車を再現しているのです。これにより、プロモーションのリリースを早められるだけでなく、撮影にかかる人件費や撮影用のモックを作る資源の削減にもなり、あらゆる点においてサステナブルな企業活動につながっています。

さらに、その3DCGモデルデータは、ユーザーが製品の色や素材などをシミュレーションする際のコンテンツ(コンフィグレーターなど)にも応用することができます。アマナでも「デジタルヒューマン」の開発を進めていますが、バーチャル背景やデジタルヒューマンを自由に組み合わせて、製品にまつわる全てのコミュニケーションコンテンツをバーチャルで完結させられるようになる時代も、そう遠くはないでしょう。ビジュアル制作の全工程をCG空間で進行できれば、いつでも、世界中どこからでも制作に参画できるため、グローバルかつ24時間フルタイムでの制作活動が可能になります。

事例 ⑤:3Dスキャンにより、社内の技術やナレッジをスムーズに継承

少子高齢化に歯止めがかからず、労働人口減少が懸念される日本において、海外のリソース活用や連携は今後ますます重要になっていくでしょう。それに伴い、今まで属人的に受け継がれてきた知識や技術などの暗黙知を形式知化しておかなければ、人ごと海外に流出し国内にナレッジが溜まらないという残念な事態が起こっている、と一時期ニュースでよく耳にしました。

このような事態を回避するためにも、製品の3D化と製造にまつわる情報のデジタル化による、暗黙知のデータ化は急務です。それにより、技術の継承やナレッジの共有などもスムーズになり、結果的にDXも推進されていくはずです。

NHKの「熟練の技、デジタルで」という特集(※)で取材されていた、ある金属加工会社の社長のコメントが印象的です。熟練技術者が作ったものに限りなく近い形を再現するデジタル設計図の導入において、「(デジタルで)保存しておくことができるので、それをもとに若い人が作ってみようとトライすれば、ものづくりや、匠の技をデジタルネイティブ世代に伝承していけると思う」とお話されていました。

※2022年11月15日放送 NHK『おはBiz 5分でわかる経済トレンド』より

これは、規模の大小を問わず日本のBtoBのものづくり企業全てに共通している課題ではないでしょうか。

デジタルネイティブ世代への継承はもちろんのこと、今後メタバースにおける双方向コミュニケーションの技術がさらに進化していけば、遠隔地においても複雑で情報量の多い製品情報もリアルタイムで詳細まで確認することができるようになるでしょう。さらに、セキュリティ技術やデジタルデータ保護の技術も進化していけば、大事な資産を守りながら、国や言語の異なる遠隔地においても開発や製造が可能になり、それは深刻な人材不足を解消できる一手になっていきます。そうした時代に備えて、3Dを活用してナレッジも含めた様々な情報をデータ化し、DXに取り組んでいくことは、先々に大きなアドバンテージになっていくことでしょう。

日々進化する技術を、最大限に生かすために

前編・後編にわたり、いくつかの事例を紹介しながら、3D技術によるコミュニケーション変革が進む現状を見てきました。これらの事例を通して伝えたいこととしては、今ある技術の分析から未来に起こるであろう世界を想像しながら、あるべき姿を妄想し、そのあるべき姿=Visionに近づくために今何をすべきなのか、少しずつでも実行に移していくべき、ということです。

何を目的にすべきか明確にしないまま取り組みを始めても、技術は生きません。とりあえずメタバースに取り組みたいが何をして良いかわからず、やってみたが実績があがらず、自信を喪失して取り組まなくなった5年後にメタバースが当たり前になっていた、という状況だけは避けたいところです。手遅れにならないためにも、目的を明確にし、今できることを実践していきましょう。

様々な技術の進化と融合は、日々私たちのコミュニケーションのかたちを変えています。スマートコンタクトなどXRデバイスの進化や、ハプティクスなどの触覚技術、味覚や嗅覚など視聴覚情報にとどまらない五感の伝送技術の発達によって、バーチャル体験は今後ますます豊かなものになっていくでしょう。

これはBtoCのような直接カスタマーと触れる企業だけではなく、BtoB企業のような専門性の高い技術や事業を持っている企業こそ取り入れるべきだと思いますし、この領域が活性化することで、日本のものづくりも、より価値の高いものになっていくと信じています。

文:堀口高士(amana)
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※こちらの記事は、日本BtoB広告協会発行の『BtoBコミュニケーション』2023年3月号に堀口が寄稿した内容をもとに、一部編集を加えて掲載しています。

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