ビービット・藤井保文さんおすすめ、DXの要諦を理解するために読んでおきたい本

DXによってオフラインがオンラインに包み込まれ、産業構造すら変わってしまう――。書籍『アフターデジタル』シリーズでDXのリアルを説いてきたビービット・藤井保文さんが、DXへの理解を深める推薦本を紹介。全ビジネスパーソンがおさえておきたい2冊をあげてくれました。

※藤井保文さんインタビュー記事はこちら

アメリカで花開いたD2Cを、事例とともに紐解く

“これから挙げる2つの映画はアメリカの対照的な異なる面を描いている。”

そんな書き出しで、ハイブランド・ファッション誌『VOGUE』の世界を描いた『プラダを着た悪魔』と、Facebookの創業期を描いた『ソーシャル・ネットワーク』の2本の映画を紹介するところから始まる本書。

「D2C(Direct to Consumer)」とは、前者の高級感ある世界観やブランディングを重視しながら、後者のデータドリブンな手法を掛け合わせた新たな業態である、と鮮やかに説き明かしていきます。

D2C

D2C 「世界観」と「テクノロジー」で勝つブランド戦略』(佐々木康裕 著/NewsPicksパブリッシング)

「著者の佐々木さんはこの本の中で、DXを実践することで顧客とダイレクトにつながり、新たなユーザー体験を強みにシェアを急拡大させている米国のD2Cブランドを紹介しています。これらD2Cブランドは、モノや機能を売るのではなく、テクノロジーをうまく使いながら“世界観を売って、伸びている”それがわかりやすく解説されています」(藤井さん)

たとえば、マットレスのD2Cブランド「Casper(キャスパー)」。ニューヨークで2014年に創業したばかりの新しいメーカーながら、圧倒的なUX設計で急速に業界のシェアを獲得しています。

それまでのマットレスは、「安い、丈夫、長持ち、大きい」が訴求ポイントの基本でした。購入時の体験といえば、ムダに広い売り場で無数に並ぶ商品の中から、やっと気に入った寝心地やデザインのものを見つけ出したかと思えば、ススだらけで黒ずんだダンボールに入れられて、無愛想なドライバーに届けられる、というのが当たり前の世界。

「Casper」はここに新たな競争軸を持ち込みます。

購入はオンライン完結で、100日間返品無料。商品は、女性一人でも運べる、コンパクトでデザイン性の高いオリジナルボックスで配送。マットレスにはセンサーが組み込まれており、取得データは次世代のプロダクト開発に活かされます。

「Casper」の事業定義は、単なる「マットレスメーカー」ではなく、「眠りや“ウェルネス(身体の健康のみならず、いきいきと生活している状態)”を提供する」こと

ウェルネスをテーマにした雑誌やポッドキャスト番組などのメディアを独自で展開し、その世界観が隅々まで表現されたお昼寝スポット「The Dreamery」をニューヨークのオフィス街で提供。アプリで予約すると、スタイリッシュな個室に設置された「Casper」のマットレスの上でゆっくりと休息をとることができます。

確立された世界観を武器に、顧客と長期的な関係を築くD2Cブランドたとえ買い替えサイクルの長い商材であっても、多様な接点を複合的に組み合わせてロイヤリティを高め、LTVを上げていくのです。

「佐々木さんは友人でもあり、僕と近い見立てをされているので、話すといつもシンパシーを感じます。それにしても、映画を引き合いにした洒落た書き出しは、鮮やかすぎてちょっと嫉妬しちゃいますね(笑)」(藤井さん)

「デジタル庁」構想の元ネタになったともウワサされる一冊

成熟社会における個別化・多様化したニーズを捉え、とことんまできめ細かく対応し、優れたUXを提供する。それが企業に求められるDXの本質であり、D2Cもその脈絡の中で出てきている業態と言えます。

では、政府は、公共サービスはどうか?

井さんいわく、“『アフターデジタル』の行政版・上級者向け”の一冊がこちら。

「小さい政府」でも「大きい政府」でもない。小さいけれども、誰も排除されない、最低限のコストと人員で最大限のニーズに応えられる「小さくて大きい政府」をつくるために、デジタルテクノロジーがどのように活きてくるのか本書では、各国行政府の事例とともに、その道筋が語られています。

例えばインドでは、13億人に対して国民IDを付与し、それぞれの番号と個人とを指紋・虹彩・顔認証で紐づけるデジタルインフラがすでに整備されています。役所に行かずともオンライン上で本人確認ができ、民族や経済的レベルでも多様性に富んだ国において、それまで口座を持てず補助金が受け取れなかったような貧しい人にも確実に行政サービスが届けられるようになっているのです。

公的な書類に使用する電子署名の作成に際しては、行政府は会社や個人が銘々でつくることのできる「規格」を用意し、オープンAPIとして開放することでGtoBtoC(ガバメントからビジネスへ、そして市民へ)という極めて合理的な構造が構築されています。

本書では、インドのほか、デンマーク、フィンランドなどITガバメント先進国のキーパーソンへのインタビューも交えながら、社会を動かすOSとしての行政府をアップデートしている事例を多数紹介。

「日本を代表する編集者である若林恵さんご自身による、インタビュー形式の仮想雑談『次世代ガバメントのつくり方』は秀逸です。丹念な取材、ヒアリングを重ねて、今の行政府の問題や矛盾を照らし出しながら、これまで成しえなかったインクルージョン(多様性と平等性のある状態)を実現するITガバメントのつくり方を思考実験によって導き出している各国の事例も豊富で、僕もこれで勉強させてもらいました」(藤井さん)

本書奥付けの「協力」欄には、経済産業省・産業技術環境局の瀧島勇樹さんらが名を連ね、菅義偉首相の「デジタル庁」構想の布石となったのではないか、とも言われる注目の一冊です。

まとめ

ユーザー視点・生活者視点で、これまでの悪しき伝統を振り払い、新しい体験を設計・実装する機運が各方面から立ち上がっています。

『アフターデジタル』シリーズしかり、各書でふんだんに紹介されているケーススタディは、その試行錯誤のプロセスも含め、企業が自社のDXを検討するうえでのヒントに溢れています。

DXをより深く理解し、世界を、未来を、俯瞰的に見るきっかけとなる書籍。手にとってみてはいかがでしょう?

セレクトしてくださった藤井保文さんの『アフターデジタル』シリーズ。今回ご紹介した2冊とあわせて、4冊まとめて読むと、DXへの理解がより深まります。
アフターデジタル – オフラインのない時代に生き残る』(藤井保文、尾原和啓 著/日経BP)
アフターデジタル2 UXと自由』(藤井保文 著/日経BP)

SELECTOR

藤井 保文

1984年生まれ。東京大学大学院修了。ビービットの東アジア営業責任者として、上海・台北・東京を拠点に活動。UXの思想を哲学的に探究すると同時に、実践者として企業の経営者や政府へのアドバイザリーに取り組む。著作『アフターデジタル』シリーズは累計14万部を突破。アフターデジタル時代のUX/DXの道標を示している。AI(人工知能)やスマートシティ、メディアや文化の専門家とも意見を交わし、新しい人と社会の在り方を模索し続けている。https://www.bebit.co.jp/

 


インタビュー・文:箱田 高樹
撮影:清水 北斗(amana)
AD:片柳 満(amana DESIGN)
編集:高橋 沙織(amana)

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