「HOTEL SHE,」に学ぶ、ユーザーが“自分ごと”にしたくなるInstagramのあり方

大阪と京都に拠点を構える「HOTEL SHE,」では、顧客の約半数がInstagramをきっかけに宿泊を決めています。国内外のミレニアルズから熱い視線が送られる「HOTEL SHE,」では、どのようにしてInstagramを運用しているのでしょう? Instagram編では、L&G GLOBAL BUSINESS代表の龍崎翔子さん、Instagramディレクター谷本好さんにお話を伺いました。

※「HOTEL SHE,」のブランディング・コンセプト編もチェック。

学生時代から関わるスタッフが全ホテルのアカウントを運営

Instagramがブランディングや集客に高い効果をもたらしている「HOTEL SHE,」。宿泊客の約半数がInstagramを見て訪れているといいます。「HOTEL SHE, KYOTO」や「HOTEL SHE, OSAKA」をはじめ、L&G GLOBAL BUISNESSが経営する全ホテルのInstagramをディレクションしているのが谷本好(このみ)さんです。

「大学休学中に北海道にある『HOTEL KUMOI』でインターンをしていたのですが、関西の大学に復学するタイミングと『HOTEL SHE,OSAKA』開業が重なり、今度は大阪で働くことになりました。うちの会社は男性スタッフが多く、当時ほかのスタッフの中にはInstagramユーザーがいなかったので、私がアカウントを運用するようになったんです」(谷本さん)

谷本さん。

もともと谷本さんは「HOTEL KUMOI」時代から数千人のフォロワーがいるインスタグラマー。彼女がつくる投稿のクオリティの高さに、龍崎さんも注目していたそう。

「『HOTEL SHE,』のアカウントは、ビジュアルだけでホテルの世界観が伝わるところが大きな魅力です。お客さまが体験できるホテルのサービスや商品を紹介しつつ、ホテルの本質的な魅力や世界観を発信してくれていると思います」(龍崎さん)

左:龍崎さん、右:谷本さん

ポイントは“再現可能性”のある写真

L&G GLOBAL BUSINESSが運営するInstagramは、谷本さんがすべてのアカウントをディレクションすることで全体の統一感を残しつつ、ホテルごとにトンマナを使い分けて投稿されています。

「『HOTEL SHE, KYOTO』はピンクが象徴的な色ですが、ガーリーでふわふわしたイメージではないので、Instagramで投稿する写真は“最果てのオアシス”というコンセプトからずれないよう、加工などで慎重に調整しています」(谷本さん)

 

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「当初は私が撮影もしていましたが、現在は私ともう1人のスタッフがディレクションを担当し、撮影はカメラマンにお願いしています。(龍崎)翔子さんからのリクエストは、“お客さまがギリギリ再現できる写真”。カメラで撮っていますが、過剰なボケは使わず、iPhoneで再現できる写真を心がけています。

とはいえ、フォローしてもらうためには役に立つアカウントであることも大事なので、お客さまがお手本にしたくなるような構図や物の配置、撮り方を意識していますね」(谷本さん)

 

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ホテルの人気を支えるUGCのチカラ

「HOTEL SHE,」のInstagramで特筆すべきなのは、UGC*が多いこと。ユーザーが憧れを抱きつつも再現可能性を感じる写真が、UGCの促進にもつながっています。
*User Generated Contentsの略。一般ユーザーが作成したコンテンツのこと。この場合、一般ユーザーが投稿した写真を企業がリポストすることを指す。

「企業の公式アカウントの投稿は、カメラマンやスタイリストなどプロの手で作り上げたもので構成されることも多く、自分が体験できる内容と齟齬が生まれてしまうこともあると思います。だからInstagramのユーザーは、UGCを通してリアルな情報を集めているんです。期間限定の商品や細かいサービスなど公式アカウントで十分に情報発信できないものも、UGCが充実していれば、ユーザーにその内容が伝わりますし、UGCを高頻度に生み出せることはとても大切です」(谷本さん)

「HOTEL SHE, OSAKA」では宿泊客の投稿のリポストも頻繁に行われているそう。

「プロの写真を連続して投稿すれば統一感こそ出やすいですが、それだけだとリアルと離れてしまうことがあります。そこで、見る人の共感を得るアカウントにするためにリポストを活用しています。それに、お客さまの記憶が新鮮なうちにホテルのアカウントでリポストすることで、旅から帰ったあとも『HOTEL SHE,』の体験が続き、お客さまに強い印象を残せると思うんです」(谷本さん)

 

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また、アカウントを運営するうえで気になるフォロワー数やインプレッションの数値は、さほど重要視していないといいます。

「フォロワーがたくさんいても、実際にイベントに来たり宿泊しに来てくれるとは限らないので、フォロワー数は気にはしつつも、あまりとらわれすぎないようにしています。それよりも本質的なファンを増やし、コミュニティを形成することのほうが大切です」(谷本さん)

現場スタッフがInstagramを運営する強みとは

谷本さんがホテルのフロントスタッフとして現場に立ってきた経験も、Instagramの運営にいい効果をもたらしています。

「鮮度が高いうちにリポストするには、こまめにInstagramをチェックする必要がありますが、単に見続けるのは大変。現場に立っているからこそ、アカウントを自分ごととして捉えられます

毎日更新していると内容も似てきますが、現場にいればその日の天気や出来事、イベントの盛り上がりなど、細かい情報を発信して変化がつけられます。インスタを運営していると、自然と熱量の高いファンのアカウントやお顔も覚えるものですが、フロントで実際に接すると、インスタとリアルの双方で交流ができたことで、より熱いファンになってくださる。また、サービスや商品の企画段階から参加することで、写真に撮りやすいものを充実させることもできます」(谷本さん)

ユーザーを白けさせるのは押し付け感のある「映えスポット」

ユーザーのフォトスポットになっている「HOTEL SHE,OSAKA」エントランス横のコンクリート壁。元は構造上の必要に迫られて設けた壁なのだそう。

 

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「ホテルの顔となる位置にあるので、フォトスポットとして活用しようと話し合って。お客さまのファッションを邪魔しないシンプルなデザインで、人目を気にせず写真を撮れるように設計しました」(龍崎さん)

お客さまが自分で発見したと思えるようなさりげないデザインもポイントです。

「よく“インスタ映え”という言葉が使われますが、もはやネガティブワードになりつつありますよね。揶揄を含んだ表現になってしまっているというか。“インスタ映えスポット”として提供された感じが出てしまうと、お客さまは撮る気をなくしてしまいます。だから決して“ここで撮ってね”という感じは出さないよう気をつけました」(谷本さん)

なにごともプロダクトメイキングから

「“映え”だけだと飽きられるし、そこにオーセンシティがないとユーザーには見破られてしまいます。私たちは、本質的なコンセプトとそれに基づいた商品やサービスをしっかり練って作り上げたうえで、写真に切り取りやすい設計を加えています。伝えたくなるよさがあってこそ、UGCも生まれるものです」(龍崎さん)

「フリーランスとして他企業のインスタ運営をオファーされることもありますが、商品の内容に共感できなくて断るケースも多いです。やはり自分が本当にいいと思っているものでないと、毎日いい投稿なんてできないですから」(谷本さん)

「インスタ運用のテクニックはたしかにあると思いますが、大前提となるのはプロダクトのよさ。いいPRもいいマーケティングも、いいプロダクトメイキングなくては成立しえませんよね」(龍崎さん)

今後もホテルならではの強みを活かしたさまざまな展開を

ユーザーと同じ目線で、魅力的な仕掛けをさまざま行っているL&G GLOBAL BUSINESS。今後のビジョンも気になります。

「私は“ホテルはメディアである”と考えています。周辺の街とお客さまを結ぶ『街と人』、ホテルで出会う人同士が交流する『人と人』、普段の暮らしでは体験できないことができる『文化と人』。ホテルはこれら3つを媒介できる。これからは、季節ごとのテーマに応じた商品やイベントを充実させて『文化と人』を結ぶことにいっそう力を入れていきたいです。

また、ホテル業を始めてわかったことですが、ホテルは衣食住すべてにまつわるサービスを提案できるのが強みです。お客さまが新しいライフスタイルを試着できる場としてはもちろん、広告のプラットフォームとして商品サンプルを客室に配置するなど、商品PRなどにも活用できたらと考えています」(龍崎さん)

まとめ

世界観を統一しつつ、お客さまが自分ごとにできる余白を残している「HOTEL SHE,」のInstagram。そこにはどんな世代に向けたInstagram運用でも見習うべき考え方があります。けれども、本質的な価値はプロダクトメイキングにこそある。その姿勢が何よりの企業の強みとなって、お客さまに届いているのではないでしょうか。

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テキスト:吉永美代 撮影:劉怡嘉(Kelly Liu/acube)

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