これからのビジネスに必須な、アート的思考を養う本ベスト3

イラスト:高篠裕子(asterisk-agency) "

ビジネスパーソンの創造力を高める手段の一つとして、今や欠かせない素養と考えられているのが「アート」です。そこでアマナ・アートプロジェクトの上坂真人が、アートを学んだり、アート的思考を身につけるのにおすすめの本を連載で紹介します。

ビジネスにどう活きるか、という視点でアートを考えてみる

モノやサービスが売れない、コモディティ化の時代を生きるビジネスパーソンの創造力を高める手段の一つとして、今、アートが注目されています2017年頃から立て続けに関連本が出版され、注目を集めてきました。その中から、3つのジャンルに分けておすすめの本をピックアップしました。

紹介するのは、アマナ・アートプロジェクトの上坂真人。企業のアートリテラシーを高め、作品を買う人を増やしてマーケットの成長に寄与すべく、リサーチを重ねながらプロジェクトを推進しています。アートがこれまでにも増して注目されている背景や、ビジネスに直接生かせるヒントが詰まった本をラインナップ。ぜひご覧ください。

第1回のテーマは、アートシンキングをビジネスに取り入れる

アートシンキングとはアート的思考法のことで、ゴールから逆算して課題解決の方法を探る思考プロセスとは対称的に、アーティストが作品を生み出すときのように、常識やデータに囚われず、自身の中にある問題意識や表現したい思いに基づいて新しい価値を生み出していく思考法感性を磨き、アーティストの物事の捉え方や思考法をビジネスシーンに取り入れることで、イノベーションを生む可能性を説く3冊をご紹介します。

①なぜ、今「アート」なのか? 原点としての1冊

 

2017年、発売と共に話題を呼び、2018年のビジネス書大賞(ディスカヴァー・トゥエンティワンおよびアカデミーヒルズ六本木ライブラリーからなる実行委員会が主宰、ビジネスパーソンにとって学びや気づきのある本を毎年表彰するもの)でも準大賞を獲得した本だけに、すでにお読みになった方もいらっしゃるかもしれません。

昨今、MBAの出願者が減少傾向にある一方、グローバル企業がこぞってアートスクールや美術系大学によるエグゼクティブトレーニングに幹部を送り込んでいると言われます。日本でも、2018年10月からポーラ美術館にて「ビジネスのためのアート・ワークショップ」がスタートし、すでに半年先まで予約で埋まっている様子。作品解説を聞くのではなく、参加者同士で感じることを言い合いながら自由な発想を引き出す「対話型美術鑑賞プログラム」と呼ばれる手法は、物事の本質を捉え、統合的に考察し、感じたことを論理的に伝える能力を育みます

これまでにも増してそういった能力が要求されるようになった背景を、組織開発や人材育成を専門とする外資系コンサルタント・山口周氏の視点でロジカルに解説した、まさに原点としての一冊です。

②アートはものではない、方法である

世界のビジネスリーダーがいまアートから学んでいること』(ニール・ヒンディ著/長谷川雅彬監訳/小巻靖子訳/クロスメディア・パブリッシング

 

アートはそれ自体で存在するのではなく、生き方・考え方・やり方・実行法であると説くのは、欧州を代表するビジネススクール「IE Business School」で教鞭をとる、ニール・ヒンディ氏。ヒンディ氏は、アーティストであり起業家でもあるバックグラウンドを活かし、組織にアートシンキングを取り入れていくためのプログラムを提供しています。

ただオフィスにアートを展示するにとどまらず、アーティスト・イン・レジデンス(作品の滞在制作)や、アーティストを実際に社員として雇い、他の社員との協働の中でイノベーションを生んだ例などをあげながら、社内でアートとの接触濃度を高める環境を作り、社員に半ば強制的にアートシンキングを体験させることでイノベーションが起きやすい状況を作り出していく方法について、具体例を交えながら詳しく紹介されています。

③トレーニングで自身の感性を呼び覚ます

 

最後にご紹介するのは、アートシンキングを概念というより実践の側面から説いたこちらの本。ビジュアルで図形的に物事を捉える論理的な思考能力がビジネスにどう活きるか、とてもわかりやすく書かれています。

著者の増村岳史氏は、2018年からリクルートマネジメントスクールで「ART&LOGIC(アート・アンド・ロジック)~感性とロジックを活用した発想力強化~」と題した講座を開講。座学にとどまらず、デッサンなど体感で学ぶトレーニングも含めて、自身の感性を呼び覚ましていくプロセスが人気の講座です。

本書の中でも、デッサンとソフトウエア開発のプロセスの類似性を指摘し、デッサンの効用について、手を実際に動かすことによって身につく体感や感覚についても具体的に説明されています。巻末にはデッサンの模写ができるページもあり、観察力や空間認知能力、ものごとを多面的に捉える力がデッサンによっていかに高まっていくかを、手を動かしながら理解できる構成になっています。

アートシンキングを説く書籍が立て続けに出版されている背景には、分析・論理・理性ばかりを追い求めるサイエンス偏重型思考の弊害が散見されるようになったことが一因としてあります。3冊いずれも、どちらかに偏ることなく、アートとサイエンスをバランスさせたハイブリッド型の思考法を身に付ける重要性を教えてくれます。

 

次回は、「グローバルスタンダードな教養としてのアートを知る」と題し、アートを通して各時代の歴史や価値観、文化、経済を知り、作品を見る目を養い観察力を高めるためのおすすめ本をご紹介します。

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