まるで人間と話しているかのように、自然な会話を通してさまざまな情報を知ることができるAIサービス「ChatGPT」。急速な普及により、ビジネスシーンでも活用が模索されています。この新しいテクノロジーとどのように向き合い、どう活用していけるのか。業界や職種の異なる方々に参加いただき、実際にChatGPTを使いながら、グループワークで発想を広げるワークショップを開催しました。
「これまでのホワイトカラーの仕事のほぼすべてに影響が出る可能性が高い」
(東京大学大学院工学系研究科 人工物工学研究センター/技術経営戦略学専攻 教授 松尾 豊氏)
「キカイを使い倒しコンテンツが無限に生み出される時代に」
(慶應義塾大学SFC 環境情報学部 教授 安宅 和人氏)
これらは、自民党AIプロジェクトチームの勉強会での識者の提言です。
2022年11月にOpenAI社が無料で利用できる対話型AIサービス「ChatGPT」を公開すると、わずか1週間で100万ユーザー、2023年1月には1億ユーザーに達しました。すでに触ってみた、あるいは日々の業務に活用しているという方もいるかもしれません。株式市場ではAI関連銘柄の株価が軒並み上昇し、ChatGPTをビジネスに活用する企業や、ChatGPTを使った新サービスを発表する企業が続々と登場しています。
アマナでは、2022年10月に、画像生成AIを活用したワークショップを開催し、年明けに画像生成AIをより深堀りしたワークショップの開催を予定していました。しかしChatGPTの登場により、わずか数ヶ月で世の中の関心は急速にシフト。企画内容を変更し、今回のテーマでの開催に至りました。
冒頭、このワークショップを企画し、ファシリテーターを務めたアマナの丸岡和世より、企画の意図と概要を参加者に説明。一個人として、今のAIブームに感じていることもあわせて共有しました。
「Twitterなどを見ていると、日々ChatGPTの情報が溢れていて、追いかけるだけで精一杯。中身をしっかり見る間もなく新しい情報が流れてくるので、私自身、ちょっと怖いなと感じています。身近な人たちとChatGPTについて話す際にも、『こんなこともできるみたいだね』『あれにも使えそう』という断片的な情報の交換になりがちですよね。
社内でのAI活用について検討されている企業もあると思いますが、AI活用は業務プロセス全体に影響を与えるため、様々な立場の人が議論に参加することが求められます。
AIに興味を持っている人の中にも、情報収集に夢中な人、軽く使ってみたことがある人、誰かが知識をまとめてくれるのを待っている人、それぞれ理解度にはかなり差があります。議論するには、共通する前提知識と体験を持つことが重要。こうしたワークショップの機会を通して実際に使ってみて、話し合ってみることが大切なのではないかと考えました」(丸岡)。
あまりにも急速に普及したことで、AIサービスの“得体の知れなさ”や“掴みどころのない感覚”を感じている方は多いのではないでしょうか。だからこそ、ワークショップというかたちをとって異業種同士で集まり、隣の人がどんな使い方をしているのか手元を見ながら、活用方法について発想し合えるような機会をつくれないか。その意図を共有するところから、スタートしました。
ワーク前のインプットとして、まずChatGPTの現況について、アマナのプロトタイピングラボであるFIG LABのテクニカルディレクター・新村卓宏より解説しました。
Google Trendsで見てみると、「ChatGPT」は「メタバース」などと同じくらい話題になっていることがわかります。2022年11月頃は「メタバース」が、年明けからは「ChatGPT」が急速に盛り上がりを見せています。
AIは1960年代に第1次、1980〜90年代に第2次のブームがあり、2000年代後半から沸き起こった第3次AIブームでは 機械学習やディープラーニングによりAIは飛躍的に進化しました。AIによる画像生成もこの流れの中で生まれたものです。
第3次ブームの流れが拡大していくと思われていましたが、ChatGPTの登場により流れが変わり、AIは第4次ブームに突入したのではないかと言われています。
ChatGPTは「事前学習」「Transformer」「モデルの大規模化」から成り立っています。中でも「モデルの大規模化」によりこれからも加速度的に広がり、規模の拡大は止まらないであろうことが推測されています。一方で、ChatGPTには弱点も。学習データのバイアスや、回答の正確性、データセキュリティの問題などがあります。
2023年4月現在、無料でChatGPTを使用する場合のデフォルトのエンジンは「GPT-3.5」ですが、2023年3月に発表された新たなエンジン「GPT-4」(サブスクリプションプラン「ChatGPT Plus」で利用可能)では、学習しているパラメータ数が増えたことにより、模擬司法試験の受験者上位10%程度のスコアで合格すると言われています。また、処理能力が高まったことでより多くのテキストを入力でき、出力されるテキストの質も向上。最大の進化は、画像内容を解析できるようになった(まだ研究の段階で公開はされていない)ことだと説明しました。
AIが普及することで世の中が便利になる反面、怖さを感じる人もいるもの。その大きな理由の一つが、「自分の仕事がAIに奪われないだろうか?」というものではないでしょうか。実際、ChatGPTを開発したOpenAIとペンシルベニア大学の研究者は、「アメリカの労働力の約8割が仕事に影響を受ける」という論文を発表しています。
そこでグループワークでは、「ChatGPTの普及により、どのような新しい仕事が生まれるか」を最初のディスカッションテーマに置きました。
まずは、「AIが普及することで登場し得るサービス」について、各グループでブレストしてみます。
「どうすればAIを活用して人々のストレスを減らすことができるか」
「AIを使って人々をケアするための新しい仕事が生まれるのではないか。人に忖度しない分、AIのほうがケアに向いているかもしれない」
「AIが身近になった時、どこまでAIを信用することができるだろうか。現在でも例えば地図アプリでルート案内をしてもらう際に、『本当にこのルートが最適?どこかに誘導しようという意図が働いていない?』と感じることがある」
AIに対する個々人の感情も含め、さまざまな角度から意見が出てきます。ブレストを通じて出てきたのは、例えば以下のような新しい職業。
・相手の性格やその時の気分に合わせて、最適なテキストで会話してくれる「AIセラピスト」
・心理学の精度が上がり、言語だけでなく五感で表現することで作者の思想を誤解なく伝えることができる「ニュータイプの詩人」
・自分の写真をAIに編集してもらい、自分で理想の姿を造って美容整形の見本にする「AI美容家」
・AIを活用して挫折知らずのダイエット指導を実行する「AIZAP」
・気分や状況、場所や時間などあらゆることを考慮しながら今にピッタリの曲をセレクトしてくれる「AI DJ」
中には「100%人の手で文章を書く職業」といった希少性に着目したアイデアや、「AIを優先的に使える権利を裏で売る職業」など、AIサービスが普及することで表面化し得る懸念を指摘する声もありました。
次のセッションでは、ブレストから生まれた“新たな職業”の求人票をChatGPTに作成してもらいます。ChatGPTは同じ内容を質問するとしても、どのように質問するか、生成された文章に対してChatGPTにどうフィードバックするかで次のアウトプットが大きく変わります。ここがChatGPTの面白さであり、難しさでもあります。
ChatGPTに質問する際は、
・まず自分の中でイメージを整理すること
・長文で質問すると読み込みに時間がかかるので箇条書きにしてみる
・素案を人が作り、それをもとにChatGPTにブラッシュアップしてもらう
・職業の名前や必要な資格などを聞いてみる
こうしたポイントを踏まえながら何度もやり取りすることで、より精度の高い求人票が生成されます。また、「経営者の視点から」「投資家の視点から」など、ChatGPTに条件を与えたり、どんな人に届けたいかというペルソナを設定することで、生成される求人票の内容が変わってくることも、参加者には新鮮な驚きだったようです。
ChatGPTを活用したグループワークを通し、わずかな時間で実際に求人票の作成まで進むことができた一方、実際に求人票を作ってみて、多くの参加者が「人の心を動かすにはどうしたらいいか」「どのような社会をつくっていきたいか」という“求人する上でのスタートとゴール”は人がジャッジするべきだと感じていました。
「弊社で普段開催しているワークショップでは、参加者に『このように感じてもらいたい』というゴールを設定しているものがほとんどです。しかし今回はChatGPTという日々新しい情報が出てくるものを扱ったので、そうしたゴールを設定すること自体にあまり意味がないだろうと感じました。
昨年10月に画像生成AIのワークショップを行った時は、『こんなこともAIでできるなら、何か楽しいことが起こるかもしれない』という気持ちになっていただけたと思いますが、ChatGPTに触れると『ここまでできてしまう世の中、得体のしれないAIが浸透していく社会は逆に怖い』という意識も芽生えるかもしれません。この感覚は、他の人とも共有しておくべきではないか。そう感じたのも今回のワークショップを企画した理由のひとつです」(丸岡)。
世の中を激変させるほどのインパクトがあるテクノロジーが急速に広がっているからこそ感じる不安。まずはその感情を共有することで、どのように向き合うべきかを考えるきっかけになるはずだと考えたのです。
そしてAIが人々の生活に浸透していくのは、“アフターコロナ”“ウィズコロナ”という動きにも近く、これからは“ウィズAI”の社会が形成されていくだろうーー。ワークショップを企画する中でそのように感じたと話します。
ワークショップ後には、懇親会を開催。参加者に感想を聞きました。
「もともとデザインの仕事をしていましたが、現在は現場から一歩引いてIT関連の業務を担当しており、その中でAIに触れることが増えてきました。これからAIを当たり前に活用する時代になっていく中で、デザインにAIをどう活用していくべきかを模索しています。ChatGPTをうまく使うコツは情報としては知っているものもありましたが、ワークショップで大勢の人と体験することで、いろいろなことが腑に落ちました」
「ChatGPTは話題になってからすぐ使うようになりました。新規事業開発に関わっているので、常に新しいアイデアを頭の中で考えていますが、AIに質問してその答えを見ると、『なるほど、そういう考え方もあるのか』と驚かされたりします。今はまだちょっと答えがずれていると感じることが多いですが、今回のワークショップに参加し、『私の投げかけ方が下手だったのかもしれない』と感じたりもしました。まだAIとの上手なコミュニケーションのとり方は見えていませんが、ベストな方法が見つかると、付き合い方も変わるかもしれないですね」
「AIが普及すると、人間らしさがより求められるのではないかと感じました。AIが当たり前になる中で、『AIでいいのだけれど、ここには人間的なことを求めたい』という欲求が生まれるはずです。私が参加したグループのブレストでは、『AIが普及すると人々の生活は弥生時代に戻るのではないか』という話も出ました。AIが人々の代わりに仕事をしてくれることで空き時間が増えるので、お金を稼ぐための時間の使い方ではなく、『人としての原点回帰』というムーブメントが出てくるだろうと。たとえば米はどうやって育てるのか、藁はどうやって作るのかといったことに多くの人々が興味を持つ。テクノロジーの進化により人々が起源的なところに回帰していくという発想は面白いですね」
ワークショップにあえてゴールを設定しなかったことで、参加者がそれぞれの環境の中で見えてくる問題や可能性に気づいたのかもしれません。
今回のワークは、amana Creative Campの体験版ワークショップとして実施しました。amana Creative Campでは、参加者の方々が自身の日常業務を少し俯瞰して見ながら、新たな気づきを得られるような機会を今後も積極的につくっていきたいと考えています。
今後の開催予定は、以下イベント告知ページよりご参照ください。ご希望の方は、メールマガジンに登録いただければ、イベント開催予定をメールにてご案内させていただきます。
文:高橋満(ブリッジマン)
撮影:大久保 歩(amana)
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