シズル感は、ビジュアルコミュニケーションにおいて瞬時に心を掴む要素として不可欠です。これまでの記事でシズルの基礎を学んだ皆さんへ、今回はフォトディレクションについて紹介します。シズルディレクター兼フォトグラファーの大手仁志が、30年の経験を基に、より魅力的なビジュアルを作り上げる撮影方法を解説します。
vol.1:シズルで企業の課題解決!シズルのすべてをお伝えするシズルチャンネル
vol.2:シズル撮影で瞬殺!ビジュアルで心をつかむプロの秘訣
vol.3: シズル感で魅力倍増!プロが教える撮影テクニック
vol.4:写真が語る“らしさ”とは――伝わるビジュアルをつくる、フォトディレクションの力
広告やパッケージで商品を魅力的に伝えるために欠かせないのが、湯気や照り、立ちのぼる香りまでを感じさせる「シズル表現」。しかし、表現が際立つほど、常につきまとうのが“優良誤認”のリスクです。つまり、実物よりもよく見えすぎて、消費者に誤解を与えてしまうおそれがあるということ。
だからこそ求められるのが、「リアル」と「魅力」のちょうどいいバランスを見極める“さじ加減”。それを可能にするのが、現場経験に裏打ちされた判断力をもつフォトグラファーの存在です。
今回は、広告撮影の現場で30年にわたり第一線で活躍する、シズルディレクター兼フォトグラファー・大手仁志が、その絶妙な“間”のつくり方について語ります。
「優良誤認」という言葉自体はよく知られるようになりましたが、その境界線は時代とともに常に揺れ動いています。
かつては商品のボリューム感を演出するために、実際より具材を多く見せたり、ドライ素材の代わりに生素材を使うこともありました。しかし、それは決して“ごまかす”ためではなく、「商品の魅力を伝えるため」に工夫されてきたことでした。
つまり、商品の「ありのまま」を表現するだけでは十分に伝わらない。だからこそ、当時は広告の現場では“伝えるための演出”が求められてきたのです。
現在の広告制作現場において「優良誤認」を引き起こしやすい要因は、大きく以下の6つが考えられます。
特に消費者の期待を意識しすぎるがゆえに、本来の仕様や量を超えたイメージを与えてしまうケースが多いように感じます。
では、優良誤認を避けつつ、商品の魅力を最大限に引き出すにはどうしたらいいのでしょうか?
実際に撮影現場で重要だと考えるのは「さじ加減」です。たとえば、具材が5個入っているカレーを撮影するとします。5個すべてを見せてしまうと、実際の量を超えて多く見えてしまい、逆に“盛っている”印象を与えることも。
そこで撮影現場で実践しているのが、“70%”の見せ方。3つはしっかり見せ、あとの2つは少し隠す。このわずかな調整こそが、リアリティと魅力のちょうど中間をとる、フォトグラファーの経験値に基づいた判断です。
このバランス感覚がなければ、「ただリアル」か、あるいは「ただ派手」なだけの写真になってしまい、見る人の共感や信頼にはつながりません。
「リアル」「70%」「100%」の3種比較:左は実際の商品をそのまま出したリアルな状態。右は具材を100%見せたもの。そして真ん中は70%の見せ方で盛り付けたもの。同じ商品でも比較するとバランスの良さが明確に見えてきます。
消費者は、広告写真を“夢”の入り口として見ています。しかしその夢が「裏切られた」と感じられた瞬間、ブランドへの信頼は大きく損なわれてしまいます。
10個入っている具材を10個そのまま見せても、“本当にこんなに入っているの?”という不信感にもつながり兼ねない。
だからこそ、正確な数を見せるだけでは不十分。「どう見えるか」「どう感じるか」という消費者側の感覚をイメージすることが、いまのシズル表現には求められているのです。
「盛りすぎる」のは簡単。でも、「ちょうどよく伝える」には緻密な判断が求められます。そのために必要なのが、“撮影設計”です。ここでは、実際の現場で使われている代表的な設計を2つご紹介します。
同じ量の料理でも、器の大きさを変えるだけで見た目の印象は大きく変わります。小ぶりな器に盛ることで、自然なボリューム感を演出することができます。
あえて全体を見せず、一部分だけを大胆に切り取って見せる。そうすることで、見る人の想像力を引き出しながら、誇張になりすぎないバランスの取れた表現が可能になります。
シズル表現の本質は、「おいしそうに見せること」であって、「事実を歪めること」ではありません。
どこまで見せるか、どこで抑えるか——。その判断ができるフォトグラファーの存在こそが、ブランドの信頼を支える要です。
見る人の期待と、実際の商品のギャップを埋めるために。「伝える」と「盛りすぎる」の境界線を丁寧に見極める目が、これからの広告表現には欠かせません。
文・撮影:大手仁志 (アマナ)
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