本記事は企業の広告・ブランド担当者に役立つ本から、気になる一節を数回に分けてご紹介する連載です。読みながら、その本の“考え方”に少しずつ触れていただけます。
ブランド運用や広報、コンテンツ企画の現場では、答えが一つではないテーマを会議で扱う場面が増えています。にもかかわらず、短時間で結論を出すことや、わかりやすく整理することばかりが優先されると、必要な論点が置き去りになりがちです。本書では、そうした会議がなぜ量産されるのかを整理しながら、正解のない課題に向き合うための会議のあり方を問い直します。第2回では、成果を阻む会議の構造を見直します。
〜本コンテンツは、書籍『クリエイティブファシリテーション』(AKI[野口正明]著・日本能率協会マネジメントセンター刊)から一部を抜粋・編集したものです(この記事は第2回/全3回)。
No.3:価値ある会議は、“結論を急ぐ場”ではなく“問いを深める場”である(7月15日公開予定)
会議の効率化に取り組んでも、なぜか忙しさが解消されない――。この現象の背後には、会議の「量」ではなく「質」に関わる根本的な問題が潜んでいます。
多くの組織では、効率化によって空いた時間がより多くのタスクで埋め尽くされ、決定の高速化がかえって思考の余白を奪っています。つまり、問題は会議の回数や時間ではなく、その会議が本当に価値を生み出しているかどうかなのです。
なお、本書における「価値」とは、これまでになかった新しい可能性や解決策を生み出すことであり、「顧客体験の革新」「ビジネスチャンスの創出」「チームの成長」などを指します。まずは、あなたが参加している会議が価値ある時間なのかを診断してみましょう。
あなたが参加している会議が、本当に価値を生み出しているのか、それとも単なる時間泥棒になっているのか見極めるために、以下のチェックリストを用意しました。いくつ当てはまるでしょうか?
6〜7つ該当:重症
その会議は完全に時間泥棒と化しています。参加者の創造性を活かせず、組織のリソースを深刻に浪費しており、早急な改革が必要です。
4〜5つ該当:要注意
表面目的には会議の体裁を保っていますが、実質的な価値創造には程遠い状態です。このまま放置するとさらに悪化する可能性が高いでしょう。
2〜3つ該当:改善の余地あり
基本的な会議の機能は果たしていますが、創造性を解き放つための改善の余地があります。
0〜1つ該当:良好
その会議は比較的健全に機能していると言えるでしょう。もちろん、さらなる創造性の発揮に向けた発展の可能性もあります。
なぜこれほどまでに非生産的で意味のない会議が、日本中の組織で量産され続けているのでしょうか?
まず、私たちが向き合わなければならない現実があります。それは、現代社会において企業や組織が直面する問題の性質が、根本的に変化しているということです。
令和3年度「創造的思考及び創造的態度に関する調査研究報告書(※1)」を参考に、現代社会における取り組むべき問題を大きく3つのタイプに分類してみましょう。
1.「単純な問題」(Simple Problem)議題の定義も解決方法も明確にわかっている問題です。例えば、設備の故障修理、定型的な業務プロセスの改善、明確な基準に基づく評価作業などがこれに該当します。
2.「複雑な問題」(Complex Problem)複雑だが最適解を時間とともに明らかにできる問題です。例えば、社内システムの統合、新オフィス移転計画、顧客体験を広げるサービス企画などが該当します。
3.「厄介な問題」(Wicked Problem)何がどうなれば解決なのかもわからない問題です。例えば、地方創生と東京一極集中、企業のパーパス再定義と社会的価値創造、AI時代における人材戦略などが該当します。
1.の「単純な問題」や2.の「複雑な問題」には、正解や最適解が存在します。そのため、情報整理型のファシリテーション手法が有効に機能してきました。情報整理、意見集約、合意形成といった技術を用いることで、効率的に解決策を導き出すことができたのです。「単純な問題」では、専門知識を持つ人が解決策を提示し、その実行計画を立てれば済むことが多く、また「複雑な問題」では、様々な要素を分析し、最適解を導くためのプロセスがある程度確立されています。
これまでの企業活動の多くは、このような正解のある問題が中心でした。だからこそ、「わかりやすくまとめる」「効率的に結論を出す」という会議スタイルが機能していたのです。
しかし、VUCAと呼ばれる現代社会では、「単純な問題」や構造化できる「複雑な問題」は減少しつつあり、代わって正解のない3.「厄介な問題」が急速に増大しています。
例えばあなたが、全社横断プロジェクトで「2030年の当社のあるべき姿」を検討するファシリテーターを任されたとします。会議を進行したものの、本質的な議論にならず、部門間の対立が深まるばかり、といったことはよく起こります。「そもそも我々は何のために存在するのか」「社会にどのような価値を提供すべきか」という根本的な問いに直面し、定量的な分析や合理的な検討だけでは前に進めないことに気づくかもしれません。
こうした、現代の「厄介な問題」には以下のような特徴があります。
明確な定義や境界が定まらない:問題自体が何かを定義することが難しく、どこからどこまでが問題なのかの境界も曖昧です。
利害関係者が多く、価値観の対立がある:様々なステークホルダーが関与し、それぞれが異なる価値観や目標を持っているため、何をもって解決とするかの合意が見えません。
他の問題と複雑に絡み合っている:1つの問題が他の多くの問題と相互に連動しており、単独で解決することが不可能です。
企業のパーパス再定義、新たな事業ドメインの開拓、組織文化の変革、サステナビリティ戦略の策定といった現代企業が直面する重要課題は、正解のない「厄介な問題」ばかりです。これらには、技術的な解決策だけではなく、価値観や存在意義に関わる深い対話が必要となります。
ここに、現代の会議が機能しない根本的な理由があります。取り組むべき問題の性質は正解のある問題から正解のない問題へと劇的に変化したのに、会議変革は時間短縮やツール導入などの効率化に集中し、根本的なアプローチは従来のままなのです。
正解のない問題に対して、正解のある問題に適した手法を適用しても、うまくいくはずがありません。それどころか、無理やり答えを出そうとすることで、問題をさらに複雑化させてしまうこともあります。
ところが、実際には、多くの人は依然として効率的に会議を終わらせたいといった欲求から抜け出せません。もう少し分解すると、「よくわからないことをわかりやすくまとめたい」「複雑なものを単純にしたい」「わからないことを早く解決したい」という欲求です。
この一見、合理的に見える欲求こそが「厄介な問題」に向き合う際には最大の障害となります。正解のない問題を、無理やり正解のある問題に変換しようとすることで、本質的な価値創造の機会を失ってしまうのです。
例えば、「若手社員のモチベーション低下」という課題について話し合う会議があったとします。本来であれば、現代の若手社員の価値観の変化、組織文化とのギャップ、働き方に対する期待の違いといった複雑な要因を丁寧に探る必要があります。
しかし、多くの場合「研修を増やしましょう」「1on1の実施を徹底しましょう」などといった既存の枠組み内での解決策が提案され、根本的な問題の探究は避けられてしまいます。
この「わかりやすくまとめたい」という欲求は、具体的に以下の5つの罠を生み出します。
1.結論先取りの罠:「複雑な検討を避けるため、最初から落とし所を用意する」
参加者が無意識に「この会議は最初から結論が決まっているだろう」と感じ、それに沿うように発言してしまう状態です。表面目的には自由な意見交換の場に見えても、実際には既定路線に合わせた発言が増え、重要な懸念や異なる視点は出にくくなります。その結果、本質的な議論が行われず、形式的な合意形成に終始してしまう傾向があります。
2.責任回避の罠:「誰か個人の主張より、誰もが納得する一般論でまとめたい」
具体的で切実な問題について話し合うべき場面で、「お客様第一」「品質向上」「効率化」といった誰も反対できない一般論でまとめようとする傾向です。これらの一般論は確かに正しいのですが、抽象的すぎて具体的な行動指針にはなりません。また、一般論であるがゆえに、誰も個人的な責任を感じることなく、結果として実行力のない結論になってしまいます。
3.各論主義の罠:「自分の専門分野は語るが、全体最適は考えない」
各参加者が自分の担当領域や専門分野については詳しく語るものの、それらを統合して全体最適を図ろうという意識が欠ける傾向にあります。営業は売上の話、開発は技術の話、経理はコストの話をそれぞれ展開しますが、それらをどう組み合わせて組織全体の価値を最大化するかという視点が抜け落ちてしまいます。結果として、部分的には正しくても全体として方向性の見えない話し合いになってしまいます。
4.同調圧力の罠:「対立を避けて、とりあえず穏便にまとめたい」
参加者は無意識に異なる意見や対立する視点を早く収束させ、場の和を保とうとする傾向があります。異なる考えがあっても、反論や深掘りを避け、互いに調和を優先する発言が増えてしまいます。その結果、対立の背後にある重要な論点や潜在的な課題は十分に議論されず、形だけの合意で会議が終わってしまうことになります。
5.対症療法の罠:「根本原因を探るのは複雑で面倒だから、目先の解決策でまとめよう」
本来であれば時間をかけて根本原因を探り、構造的な解決策を検討すべき問題に対して、とりあえず目先の症状を和らげる対症療法的な解決策で済まそうとする傾向です。「まずは現状の改善から」「できることから始めましょう」といった一見建設的に聞こえる提案で、本質的な問題解決を先送りにしてしまいます。
これら5つの罠は相互に作用し合い、組織に深刻な悪循環をもたらします。
表面的な合意や一般論的な結論ばかりが生まれるため、実際の問題は解決されません。そうすると、同じような会議を何度も開催する必要が生じます。しかし、根本的なアプローチを変えない限り、何度会議を開いても進展は見られません。
さらに悪いことに、このような会議を重ねるうちに、参加者は「どうせ意味のない会議だ」という諦めの気持ちを抱くようになります。優秀な人ほど会議への参加意欲を失い、本当に価値のある議論をする機会が失われてしまいます。
※1:経済産業省(2022)令和3年度産業経済研究委託事業(創造的思考及び創造的態度に関する調査研究)報告書.2022.3.31
(この記事は第2回/全3回)
No.3:価値ある会議は、“結論を急ぐ場”ではなく“問いを深める場”である(7月15日公開予定)
▼書籍紹介
会議が増え、効率化しても忙しさが解消されない。その背景には、会議の「量」ではなく「質」の問題がある――本書はそんな問題意識から、正解のない課題に向き合い、新しい価値を生むための会議の設計法を提示する一冊。著者が提唱する「クリエイティブファシリテーション」は、“わからなさ”を排除せず、対話と議論を通じて価値創造へつなげる実践的アプローチです。現場で使える28のパターンを通じて、会議を単なる調整の場から、価値創造の場へ変える視点が学べます。
▼書籍情報
書名:クリエイティブファシリテーション
著者:AKI(野口正明)
出版社:日本能率協会マネジメントセンター
発売日:2025年11月28日
https://amzn.asia/d/08R3vqri
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