未来の顧客体験を実現するCGアセットとは 

vol.88

未来の顧客体験を実現するCGアセットとは

Text by Mitsuhiro Wakayama
Photo by Yushi Kaku

企業のあらゆるコミュニケーション課題に向き合い、その解決方法を探る、アマナ主催のイベント「amana LIVE 2022 Autumn」が2022年10月27日に開催されました。7つのテーマを切り口に、先進企業の方々をゲストに迎え、マーケットの今と未来をとらえたセミナーを実施。今回は、テーマ「未来の顧客体験を実現するCGアセットとは」の回を紹介します。


新型コロナウイルスの出現から3年がたち、リアルの代替としてのオンラインコミュニケーションだけでなく、リアルとオンラインをかけあわせたハイブリッドな顧客体験が求められています。企業はオフライン/オンラインでの顧客体験をどのようにとらえ、取り入れているのでしょうか。予想される “未来の顧客体験”に向け、将来さまざまなプロジェクトへの利用を可能にするアセット(製品写真)のCG化を進めているヤマハ・マーケティング統括部の加藤剛士さんを迎え、アマナにてデジタル施策に携わる岡本崇志とともにメタバースの世界を見据えた今後の展望についてディスカッションしました。
※本イベントはアマナの『deepLIVE™️』スタジオから配信を行いました。

アセットのCG化はなぜうまくいかないのか?

岡本崇志(アマナ/以下、岡本):ヤマハは顧客の7割を海外に持つグローバル企業です。日本国内では、ものづくりに強い老舗企業というイメージが強いと思います。近年では「to C」のコミュニケーションを積極的に見直されているようですが、どのような取り組みをされたのでしょうか?

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(左から)アマナの岡本崇志、ヤマハの加藤剛士さん。

加藤剛士(ヤマハ/以下、加藤):ヤマハのイメージを調査すると「お堅い、伝統的な」という印象が強いということがわかります。商品の機能的な価値においてヤマハを信頼してくださっているお客様がたくさんいらっしゃる一方で、情緒的な価値、つまり好きなブランド、気分を上げてくれるブランドとして選んでいただけないことが課題でした。そこで2019年にブランドプロミス「Make Waves」を掲げ、現在に至っております。

岡本:ブランドプロミスの整理は、さまざまな企業にとって有用なプロセスだと思います。では、ブランドプロミスの内容について詳しく教えてください。

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加藤:音楽をやっていると心が熱くなったり、喜びや感動が波のように伝播していく瞬間に出会います。ヤマハはそんな瞬間を後押しする存在になりたい。そんな思いでこのブランドプロミスを掲げています。具体的には、ここに挙げる3つの顧客体験の創出によって、このプロミスを実現したいと考えています。

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岡本:こうした理念を社内に浸透させていくのは難しかったと思いますが、どのような工夫をされてきたのでしょうか?

加藤:「楽器やスピーカーは体験をしないと価値がわからない」と言われてきました。しかし、デジタルの時代、あるいはコロナの時代においては、店頭ではない場所でいかにリアルに近い顧客体験を創出するかが課題になります。まずはその課題を各事業部で共有するところから始めていきました。

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加藤:あるべき姿からバックキャストしながら今すべきことを考える、という姿勢を基本にしてきました。弊社の場合「デジタル体験のリアル化」をゴールに設定しまして、そこから逆算しながら考えて行った時に「そもそもアセット(製品写真)がデジタル化・CG化されていないよね」という根本的な課題に行き着いたわけです。

岡本:しかし、そこで一足飛びに「じゃあアセットをCG化しましょう」と社内でコンセンサスをとるのはなかなか難しいですよね。

加藤:その通りです。ですから、まずはスモールスタートを切るということで、特定の事業・コンテンツにおいてCG化を進めました。次にその過程と成果を抽象化して、他の部門や事業にも応用可能なマニュアルを作りました。CG活用の事例を示しつつ「CGを活用したマーケティングをするにはどうしたらいいか」「そもそも、なぜCGなのか」など各所の理解を求めていきました。

岡本:われわれアマナも「事業にCG活用をしていきたい」という企業のオファーに数多くお応えしていますが、どの企業でも最初のハードルになるのが「社内で理解を得る」ということです。社内横断で目的とスキームを共有することは、往々にして困難が伴います。今回ヤマハさんの課題に一緒に向き合っていく中で、弊社がプロダクションを通して長年蓄積してきた知見・ナレッジが企業の課題解決にも役立つことを実感しました。

加藤:実際、ものすごく頼りにしていました(笑)。弊社からの投げかけに対して、次々にソリューションを提示していただきましたね。具体的なロードマップやビジュアルが社内のコンセンサスをとるのに大いに活かされました。

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会場となった『deepLIVE™️』配信スタジオにて。加藤剛士さん。

CGアセット化からメタバースまで、大切なのは「常に立ち返る場所」

岡本:では次に、CGのアセット化を通じて企業としてどのような挑戦をおこなったのか。その点について、より具体的なお話を伺っていきたいと思います。

加藤:CG化・デジタル化によって解決したいクリエイティブの課題は3つあります。1つ目は「フルCGへの挑戦」です。これまでの“撮影 vs CG”という考え方を脱却し、時代の趨勢(すうせい)を考えてフルCG化を進めていく必要があると考えています。

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加藤:ここでご紹介するのは、ホームオーディオ製品のCGによる基本カットです。こうした基本カットの拡充を進めつつ、社内では次の挑戦も進めています。例えば、ギターの木目の再現やCADがない製品のCG化などです。じつは私自身も、CGはCADがないと作れないと思っていました。しかし、実際そうではないんですね。

2つ目は「テクノロジーへの訴求」です。画像だけではなく、ヤマハの場合は音を商売にしておりますので、音もまた「見える化」してかなくてはなりません。例えば、製品にどんなテクノロジーが使われているかという情報は伝わりにくいものです。プロダクトの分解カットなど、撮影では難しいビジュアルをCGで作り出すことで、より訴求力をもった発信が可能であると考えています。

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岡本:独自技術を使ったプロダクトの利点を効果的に訴求する上で、CG活用は非常に有効だと思いますね。

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加藤:最後に「B to Bへの挑戦」です。ここでご紹介するのは食品検査機のマーケティングに活用したCGビジュアルです。これをコミュニケーションの中核に据えて、広告活動やイベント出展を行った結果、期待を上回るお客様からの強いエンゲージメントをいただきました。事業部からは「マーケティングをやるとここまで違うんだね!」という好評をもらいました。

B to B の場合の商品購入者は施主様や工務店様ですが、そんな方々の購買決定要因は情感ではなく、明確なメリットです。ただ、メリットだから何も考えずカタログに箇条書きしていればいいかと言えばそうではありません。技術も、メリットも、見えるようにできる。それもただ見えれば良いというものではなく、かっこよく、伝わりやすく、あるいは調達担当者が上司に説明しやすくする。アマナさんとのやり取りの中で、そういう「コミュニケーションツール」を作っていこうという方向性が生まれましたね。

岡本:そうですね。重要だけどわかりにくいものをいかに可視化して、伝わりやすくするか。こうした課題に対するソリューションとして、CGは非常に効果を発揮します。ここまでコンテンツ拡充の事例をご紹介いただきましたが、その先にある「デジタル体験のリアル化」に向けて、弊社とヤマハは「ヤマハCGマンション」というプロジェクトを進めています。その経緯と目的についてお話しいただけますか?

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会場となった『deepLIVE™️』配信スタジオにて。アマナの岡本崇志。

加藤:このプロジェクトは、端的に言えば空間づくりの取り組みです。拡充したコンテンツ・CGアセットを活かして、次はそれらを空間に展開していくことを目指します。現在はフェーズ1として、空間を作り、運用しながらノウハウを蓄積していく時期になります。次のフェーズ2では、空間をバリエーション化していく。さらにフェーズ3では、顧客情報を空間にフィードバックしながら、お客様それぞれに対してカスタマイズされたバーチャルショールームを作っていきたいと考えています。

岡本:次なるD2Cマーケティングに向けて、プラットフォームづくりをしていくということですね。ところで、こういう中長期的なプロジェクトでありがちなことは「手段が目的化していく」ということです。弊社とヤマハさんの取り組みの中では、いま加藤さんが示されたマイルストーンを設定し、現状がどういうステータスで、やるべきことは何なのかが常に明確になるようにしました。この点について、加藤さんはどのようなメリットがあったとお考えですか?

加藤:それまでCGや空間を作るとなると、いわゆるライフスタイルビジュアルを作って終わりというパターンがほとんどでした。しかし、最初にマイルストーンを設定して「大きな絵」をみんなで共有しておくと「CG制作=通過点」という共通理解が可能になるわけです。いま自分たちがやっている仕事は何のためのものなのか。「それはヤマハのDXコミュニケーションの一環である」ということを意識できることは非常に重要だと思いました。

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岡本:デジタル空間を創出するということで言うと、昨今「メタバース」がバズワードになっています。企業やブランドでも「メタバースで何かやらなければならない」「でも、何をすればいいんだ?」という状況は少なからずあると思います。しかし、ここで大事なのは「その企業・ブランドが取り組むべき課題は何なのか」ということです。その課題はメタバースならではの提供価値で解決できるのか、まずは見極めることが肝要です。弊社ではそういった課題を抱える企業やブランドのサポートを積極的に行っていますし、プロジェクトのマイルストーン設定から開発・実装まで伴走しています。ヤマハさんはメタバースの活用についてどうお考えですか?

加藤:まだ先の話ではありますが、確実に準備をしておかなければいけないと思っています。メタバースはゴールを達成するための「手法」です。私たちはあくまで「楽器・スピーカーは実際に聴かなければわからない」というテーゼへの挑戦ですから。ですから、顧客体験にさらなる革新をもたらしてくれるものであるならば、メタバースへの参画もやぶさかではありません。

岡本:未来の顧客体験において、メタバースは外せない選択肢の1つです。そこに向けてもアセットのデジタル化・CG化は重要な取り組みになりますね。

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deepLIVEは、リアルタイムCGと最新鋭のバーチャル・プロダクションシステムを備えた自社スタジオの活⽤により、 企業やブランド固有のニーズに即した企画立案〜リアルとバーチャルの垣根を超え共感を生む深い(ディープな)体験構築が可能、新たな体験創出でデジタルコミュニケーションにおける様々な企業課題の解決をサポートします。

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