正しい知識、持っていますか? 著作権トラブルを避けるためのヒケツ

vol.121

正しい知識、持っていますか? 著作権トラブルを避けるためのヒケツ

Text by Mitsuhiro Wakayama
Photo by Takuya Igarashi

企業自ら情報発信するのが当たり前の時代。ステークホルダーとの距離が縮まり、より多く、より深い情報を速やかに届けられるようになった一方、コンテンツ量の増加に伴い、権利に関するトラブルが発生するリスクも急増しています。誰もが気軽に発信できるいま、ひとたび問題が発覚すればたちまち炎上し、企業ブランドに及ぼす影響は計り知れません。コンプライアンスの観点からも、発信メディアに関わるすべての社員に、正しい知識と遵法意識を根付かせていくことが重要です。

本ウェビナーでは、アマナが企業向けに有料で提供している「amana著作権勉強会」の内容の一部を特別にご紹介。企業として知っておくべき基礎知識と情報発信する際のさまざまな注意点をクリエイティブライツセクションの野口貴裕、佐々木孝行が解説していきます。

picture of Takahiro Noguchi

アマナの野口貴裕。

野口貴裕(アマナ/以下、野口):昨今、企業のみなさまは独自に情報発信する機会が増えていると思います。SNSなどを通じて多くの情報発信ができるようになった一方で、発信コンテンツの増加にともなう権利トラブルのリスクも急増しています。今日のネット社会では一度のトラブルがすぐに拡散・炎上し、企業の社会的信用を失墜させることにも繋がりかねません。情報発信というと、その影響力や正確性ばかりが意識されがちですが、権利という観点からもしっかりとした判断が必要になってきます。

みなさんが情報発信する内容=コンテンツは「写真・映像」と「テキスト」の二つに大別することができると思いますが、それぞれに気をつけるべきポイントがあります。このウェビナーでは、実際に起きたトラブル事例を交えて、この二つのコンテンツをより安全に活用するための知識や、トラブルを回避するためのノウハウをお伝えしたいと思います。

definition of contents

野口:レクチャーを務める佐々木は、⻑年にわたりアマナのストックフォト流通ビジネスの商品開発責任者を担当してきました。著名写真家やクリエイターとの契約締結を数多く⼿掛ける⼀⽅で、制作現場で発⽣した様々な著作権トラブルの解決を指揮してきた経験があります。また、安全な写真の利⽤啓蒙を⽬的とした著作権セミナーの講演や業界シンポジウムのパネラーも数多く務めています。

佐々木孝行(アマナ/以下、佐々木):ここからお話しする内容は、アマナが開催している「amana著作権勉強会」の部分ダイジェストになります。

野口:それでは、まずは著作権の基本的なポイントについて解説してもらいます。

著作権の構造とビジネス契約

佐々木:他人の著作物をビジネス利用するうえで、著作権の構造を理解することは大変重要です。著作権には「著作者人格権」と「著作財産権」の二つのカテゴリがあり、それぞれが複数の権利の集合体です。

Sasaki Talking

アマナの佐々木孝行。

佐々木:例えば、企業が広告ビジュアルの制作を外部のデザイナーに委託したとします。制作の対価としてギャランティーを支払うわけですが、これは著作財産権の譲渡を受けた対価と考えることができます。著作財産権は譲渡可能な権利ですが、一方の著作者人格権は法的に譲渡ができません。制作者であるデザイナーがずっと保持し続ける権利になります。

ここで、著作者人格権の中身を見てみましょう。公表権、氏名表示権、同一性保持権の三つで構成されていますが、文字通り不特定多数に公表する権利、作家名を表記する権利、無断で修正や加工をさせない権利です。制作者からこの権利を行使されてしまっては、依頼主である企業が制作物を自由に使うことができません。

これを防ぐためには、発注先と明確なビジネス契約を締結する必要があります。つまり、「発注した制作物については著作者人格権を行使しない」ことを約束するということです。外部に制作を依頼する際、契約書にこのような内容が盛り込まれているか必ずチェックをしてください。

explanation of image usage

加えて、制作物が使用できる期間や範囲についても書面で明確化しておくと良いでしょう。また、これはありがちなのですが「発注を担当した社員が異動になり、後任者に合意内容が引き継がれていない」という事態がしばしば起こります。依頼先と交わした書面やメール文章などのエビデンスを、きちんと部署内で共有保管することも重要です。

素材のライセンスを正しく理解する

佐々木:提供会社から写真や動画素材を購入する際、気をつけたいのは「ライセンスの種類」です。いわゆるストック素材には「ライツマネージド(RM)」と「ロイヤリティフリー(RF)」と呼ばれる二種類のライセンスがあり、それぞれのライセンスには利用規約で定められた使用上のルールがあります。

RMについてとくに留意すべきことは、使用できる「期間」が制限されるという点です。また期間のほか、用途や地域などの使用条件をあらかじめ申告し、その範囲内での使用が義務付けられます。すでに購入した素材の中にRMライセンスが含まれていないか、使用期間や範囲を超えてしまっていないか、あらためて確認してみてください。

一方のRFライセンス素材は、販売商品化などの特殊な用途を除けば、原則的に使用期間や使用範囲の制限がありません。自由度が高いため、どんな使い方をしても問題がないと思っている方が大変多いと思います。RFライセンスでも規約で定められた禁止事項がありますからご注意ください。RM、RF共通の禁止事項としてとくにご注意いただきたいのは、「センシティブ使用」と呼ばれる使い方です。

センシティブ使用とは、主に人物写真において写っているモデルさんが不快に感じる可能性がある使用方法です。具体的には差別的なテーマや暴力、犯罪をイメージさせる使い方。加齢や病気、薬に関わる内容も含まれます。これらを想起させる使用方法は規約上の禁止行為となりますので十分ご注意ください。

また、利用規約には提供会社側の「免責事項」もしっかりと記載されています。代表的なものとして、「作品タイトルや検索キーワード(タグ)の正確性を保証しない」という内容です。これにまつわる事故事例を一件ご紹介しましょう。

ある出版社が雑誌で「南天の実」の特集を組んだ際、その表紙に南天によく似た「ピラカンサ」という植物の画像を使用してしまいました。なぜなら、作品タイトルと検索キーワードが「南天」となっていたからです。しかし、先ほどお話しした通り、利用規約では「正確性を保証しない」ことになっていますから、提供会社側に賠償を求めることはできません。写っている被写体が意図した内容と相違ないかどうか、使用者側でチェックする必要があるのです。

ネット上の記事、無断借用はどこまで許されるのか?

佐々木:企業のオウンドメディア制作などで、他人が書いた文章の一部をコピペしたり、他の企業のホームページ画像の一部をスクショして使用する場合があると思います。

他人の著作物を無断でコピペ・スクショして使用し、WEBなどで公開することは著作権の侵害とみなされます。しかし、他人の著作物の複製使用が例外的に認められる場合もあります。それが「引用」です。引用の要件を満たす条件として大きく5つのポイントがあると言われています。この場合、著作者への許諾は必要ありません。

Quotation conditions

無断で他人の著作物を利用したり、あるいは模倣したりする行為は明らかな著作権侵害です。みなさんは日々の業務の中で制作物を発注する立場にあると思います。しかし外注先のデザイナーや編集者が発注した制作物で著作権侵害または素材の利用規約に違反して訴訟に発展してしまった場合、発注者としての管理責任を問われてしまう場合があります。制作に関わるメンバー全員が、しっかりとした著作権リテラシーを持つことが重要なのです。

Accident liability

肖像権にはどこまで配慮すればいい?

佐々木:我が国においては肖像権に関する明文化規定がありません。したがってグレーゾーンも多く、トラブルが後を絶ちません。企業コミュニケーションにおいても肖像権への配慮は大変重要であることは言うまでもありません。例えば、たくさんの来場者を募る新商品の発表イベントを想定してみましょう。会場風景を撮影した写真を自社のSNSにアップする場合、そこに写っているご本人の許諾なしに公表すれば、クレームのリスクも考えられます。当日スナップ撮影が行われることや、後日WEB上で公開されることを来場者に事前告知しておくことも、トラブルの未然防止につながるでしょう。

肖像権侵害が法的に認定される条件の一つとして、相手に実質的な損害を与えたかどうかが大きなポイントとなります。したがって、無断で他人の肖像をWEBに掲載する行為が、即座に肖像権の侵害とはなりにくいですが、大きなトラブルとなる危険性がありますから引き続き注意していきましょう。

Cases that are unlikely to be considered as violation of portrait rights

その写り込みは本当に許される?

佐々木:写真や動画の撮影をともなうコンテンツ制作の現場では、さまざまなモノが画像に映り込みます。まず一つはポスターや写真など他人の著作物の映り込みです。著作権法第30条の2では、撮影にあたり分離が困難と客観的に認められる軽微な映り込みについては、基本的に著作権侵害とならない旨が提示されています。しかしながら、大きく目立つかたちで広告ビジュアルなどに使用した場合は、「他人の著作物の無断利用」となる可能性が高くなりますので、十分に注意をしてください。

また、ロケ撮影などで建物が写り込む場合があります。著作権法第46条では、屋外に恒常的に設置されている建築物の自由な撮影や使用を認めています。ただし、特定の建物をメインで撮影する場合や、有名な建物が大きく写り込む場合は、事前にその建物の管理者側に連絡を入れ、撮影と使用、両方の許可を取ることをお勧めします。

Typical examples of complaints regarding the use of photographs

佐々木:撮影小道具としてパソコンや家電、家具など、第三者がデザインしたプロダクトの写り込みを心配される方も多いと思います。大量生産された工業製品については「応用美術」に分類されるため、多くの場合は著作権保護の対象にはなっていません。しかし、有名ブランドのロゴマークやキャラクター商品などが大きく映り込んでしまうと、「フリーライド」による権利侵害と見なされますのでご注意を。

free ride

トラブルの未然防止、著作権へのリテラシーを高めよう

野口:佐々木さん、ありがとうございました。日々の業務で遭遇しがちな事例を挙げつつ、著作権侵害のポイントをわかりやすく解説していただきました。今回お話しした内容は「amana 著作権勉強会」という有料セミナーの部分ダイジェストになります。「著作権についてもっと詳しく知りたい」「社内のリテラシー向上に役立てたい」というご要望があれば、ぜひお気軽に弊社までお問い合わせください。

アマナの著作権勉強会は、ビジュアル制作に長年携わってきた知見をもとに、著作権関連の知識をセミナーとしてパッケージ化したものです。すでに多くの企業の人材育成にご活用いただいており、具体的かつ実践的な事例に即しているため「わかりやすい」「タメになる」という好評をいただいています。リアル/オンライン、いずれの開催も可能ですので、ぜひご活用いただければと思います。

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