vol.154
企業にとって節目の年となる周年を、1日限りの祝賀イベントで終わらせず、企業の将来を展望し社内で共有する絶好の機会と考える動きが生まれています。
今回のウェビナーでは、アマナのエグゼクティブビジネスプロデューサー 佐藤勇太とプランナー・ディレクターを務める鈴木陸が、大日本印刷株式会社(以下、DNP)情報イノベーション部で周年・企業ブランディング・アーカイブ事業を担当する木茂浩太郎さんと、周年事業のコンサルティングやアウトプットまでのディレクションを手掛ける臼井和輝さんを招き、実例を交えて周年事業の重要性と、事業を成功に導く方法を分析しました。
鈴木陸(アマナ/以下、鈴木):2019年に40周年を迎えたアマナでは、自社の40周年記念事業を実施しました。40周年記念事業は、「自分たちが何者で、どこから来て、どこへ向かうのか?」を考えるきっかけと捉え、下図の3つのプロジェクトで構成されています。
鈴木:周年事業を社員参加型にしたのは、40周年の意義を全社員が自分のこととして考えるためです。まず、種まきとして全社員を対象に、会社の仕事や自分のキャリア、日々の生活や社会への意識をアンケートしました。その結果を踏まえ、40周年事業をどのようなテーマで進めたら全社員にとって意義のある周年事業になるかということを考え、「Project 4」というコンセプトにまとめています。
周年事業の実行にあたっては、実行メンバーを社内から募りました。集まった約70名の実行メンバーは「MOVER(ムーバー)」として、単なる実行委員ではなく、社員同士がアマナの未来を語り合える場をつくるための火付け役として定義しています。
鈴木:周年イベントは、「アマフェス」と名付けました。当日は、ムーバーによる企画のプレゼンテーションや社員投票をメインに、普段の仕事では関わりが少ない社員同士が自社の将来を語り合える場を提供。最後に、アマナが写真事業からスタートした会社であることと絡めてフォトブースを設置し、参加した社員たちで撮影を楽しみました。
アマフェスでは、アマナらしく制作物にもこだわりました。たとえば、社員全員にあえてインビテーション(招待状)を配布しています。招待状は投票券とドリンク・フードチケットをセットにしたもので、イベント参加への期待感や一体感をデザインとして可視化できたと思っています。
イベントでは、ムーバーたちが発表した企画のいくつかが表彰され、中には正式にプロジェクト化されたものもあります。会社の歩みを振り返り、将来に向けたアイデアを考えていく中で、経営課題も改めて顕在化しました。
これにより、社員を主役としたイベントは1日限りのお祭りではなく、今後のアマナの発展や施策につながっていくことになりました。
鈴木:40周年事業ではもうひとつ、全社巻き込み型のムーバー施策やアマフェスと並行して、企業理念を新しく策定しました。新たな企業理念の発表のタイミングは、40周年に対する社内の関心や期待が高まった状態を狙いました。
理念開発は多様な職種のメンバーを集めてワーキンググループで1年にわたって議論を続け、役員たちにプレゼンして内容を固めています。理念体系を新しく整理した後、社員が読みこめるようにカルチャーブックを企業理念編と経営哲学編の2冊作成して配布しました。
このように、40周年をあくまでひとつのきっかけとして位置付け、社員自らが考えて、自分たちも参加し、行動に繋げられるように全ての施策と紐づけて進めました。
佐藤勇太(アマナ/以下、佐藤):鈴木からの話にあったとおり、社員を主役としたアマナでは40周年事業を実施しました。ここからはアマナの事例を元に周年事業を成功させるためのヒントを掘り下げていきます。
我々アマナでも周年事業を手がけていますが、DNPは多くの企業の周年事業の企画や運営をサポートしています。まずは、DNPの周年事業の取り組みを教えてください。
木茂浩太郎(DNP/以下、木茂):DNPは1876年に創業し、2026年に150周年を迎えます。商業印刷を中心に、企業のブランディングも行う中で、コミュニケーションデザインの一環として企業の周年事業に特化したサポートを展開しています。
50年史や100年史といった企業年史の編集を多く手掛けてきましたが、そこを起点に、企業が持つ膨大な資料や情報資産をまとめた企業アーカイブの制作なども行います。周年事業に関する全ての施策をワンストップでカバーできることが、大きな強みです。
DNPは、お客様に対してワークショップを開催し、徹底したヒアリングやインタビューを通して、周年事業の目的や進め方を考えるところから伴走します。
アマナさんの事例もそうですが、周年事業は従業員をいかに巻き込んでひとつのムーブメントにするのかが大切で、事業の内容をいきなり決めるのではなく、独自のプロセスやノウハウを提供してお客様と一緒に事業計画を進めていきます。
臼井和輝(DNP/以下、臼井):これもアマナさんの事例と同様ですが、DNPでは、周年事業を単なる施策だけでなく、ひとつの機会として考えるように提案しています。
周年事業といえば式典や年史編纂を考えがちですが、それだけではなく、普段予算がつきにくい新しい取り組みや、複数組織の協力が必要な潜在的課題を解決する機会になります。「お疲れさまでした」という会ではなく、未来に向かって自社をどう高めていくかを「語らう周年にしましょう、と伝えています。
周年事業は、従業員同士が対話する機会を設け、従業員と経営層が対話し、会社と社会が対話するように、自社をどうやって未来に残していくかを改めて考える機会だと考えています。
臼井:周年事業を「語らう周年」にすると、以下の3つのメリットが得られます。
・自社理解の向上による本業の加速に貢献
・社内の一体感醸成の起爆剤
・全社的ムーブメントに貢献
周年をきっかけに、自社の歴史や理念体系などを従業員にしっかりとインプットし、自社らしさを理解した上で事業に貢献してもらうことを狙います。周年事業の計画や施策推進には、複数の部署から従業員をアンバサダーに任命します。アンバサダーを中心に動きますが、最終的には全社を巻き込んで周年事業を理解していただくことが重要です。
DNPでは、周年事業をきっかけに会社を向上させていく「Power Anniversary」というコンセプトを掲げて、お客様の周年事業をサポートしています。
佐藤:「周年が来たから何かやろう」と周年事業自体が目的化してしまうのを防がなくてはいけない。あくまで「きっかけ」と捉えて、どのような目的を達成するのかが重要なのですね。
臼井:はい。企業の担当者は周年事業にあたって「何か施策をしなくてはいけない」と思いがちですが、施策先行だと途中で目的が分からなくなり進行が後ろ倒しになったり、ひっくり返されたりすることもあります。目的をしっかりと定めてから、そのためにどのような施策を行うのかというストーリーの設計が一番大事です。
佐藤:アマナも多くの周年事業を手掛けていますが、いかがですか。
鈴木:まさにその通りです。企業の担当者様は式典の会場選びやプログラムに意識がいってしまいがちです。周年の意義や最優先ターゲットを理解し言語化できていないと、社内で上申しても施策について質問されると拠り所がなく、経営層の判断に時間がかかることがあります。
佐藤:「Why、How、What(なぜ、どうやって、なにを行うのか)」の構造でしっかりと設計することで施策がブレずに立体的になるのですね。
佐藤:周年事業は社内や社外の全方位に向けて行うのがベストですが、予算にも制限があります。最優先するべきステークホルダーはどのあたりでしょうか。
木茂:やはり一番は従業員です。コロナ禍を経て働き方に変化が生まれた結果、社内の一体感が欠けているというのが多くの企業の共通課題です。他社で勤務経験のある人がキャリア採用で入社することもあり、異なる文化が新たに入ってくるケースも増えています。
周年事業を通して、企業理念や文化など同じ価値観を社内で固めてから、外に発信していくのが一番良い順番だと思っています。
佐藤:周年事業が会社のビジョンや行動指針を社内に浸透させる良いきっかけになる理由はどのようなものでしょうか。
鈴木:式典の日は「特別な、非日常の日」であるので、社員の意識が変わります。企業理念や会社の方向性など、当たり前のことを改めて社員に伝えるられるのが、こういった式典やイベントです。企業理念など、ぼんやりと意識していたものの解像度が上がり、共感できるレベルで向き合えるきっかけになります。
佐藤:日常的には特定の部門が社員教育や理念浸透を担当していますが、他の部門はそれぞれのミッションやタスクがあって見ている景色や考えることがバラバラになりがちです。周年を、みんなで同じ方向を見ることができる特別なモーメントと考えるのですね。
堅苦しい日常の延長線上ではなく、遊び心を交えたお祭り感も重要でしょうか。
臼井:はい。周年事業は単なる施策ではなくコミュニケーションだと考えています。従業員が参加したくなるようなコンテンツ設計や施策も重要です。
佐藤:周年事業をうまく推進するためのポイントや、課題、落とし穴などがあれば教えてください。
臼井:周年事業の目的は大きく分けると以下の5つです。
・事業基盤構築
・企業風土改革
・ビジョン・事業戦略策定
・ブランディング
・プロモーション
この5つはインナーコミュニケーションとアウターコミュニケーションに分類されますが、近年はインナーコミュニケーションに対する要望が多くなっています。
佐藤:周年事業の事前設計は最低限、どのくらい前から着手するべきなのでしょうか。
臼井:周年事業にかける期間は3年あると非常にスムーズですが、2年ほどで実施しているお客様が多いですね。計画から実施までのプロセスを8段階に別けて考えると、企業の担当者様は施策の決定や準備・実施という最終段階を見ていますが、実際は経営層の意向確認や周年事業への理解といった「背景の共有」が非常に重要です。
周年事業は5年や10年に一度なので、企業の担当者にとって初めての経験であることが多いです。そのため、DNPが外部の人間としてトップ層にヒアリングしたりワークショップを開きながら他社の事例も提供しています。
木茂:周年事業は従業員に企業理念などを認知させる「仕掛け」の部分が注目されがちですが、認知したものを当たり前化させる「仕組み」を作り上げることも重要です。式典や施策を行ったという実績を残すことにとどまらず、企業の50年後、100年後に向けて文化を作っていく。仕掛けだけじゃなく仕組みも作り、それを踏まえて進んでいくゴール設計が、周年事業の重要なポイントです。
佐藤:準備期間から周年事業を推進し続けていくために欠かせない要素は、どのようなものが考えられますか。
鈴木:本気で、本音で、ちゃんと話しているか。その結果、本質に近づけているか。「本気」「本音」「本質」の3つの「本」です。各部署から人を集めてワーキンググループを開くと、ほとんど話したことのない人たちが集まることもあります。会議以外でも、食事会やカフェトークなどを開いて地道にコミュニケーションを続けることが必要です。
佐藤:今日のお話をまとめると、以下のようなことが言えるかと思います。
周年事業を1日限りの祝賀会で終わらせず、2~3年かけて全従業員を巻き込みながら、会社の「今まで」と「これから」を見つめ直す機会とする。そして、将来につながる新しい動きを生み出す。
今回のウェビナーではインナーブランディングの話がメインではありましたが、これらの周年事業を通して、できる限りアウターブランディングへとシームレスに展開していくことも重要です。
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