生成AIの活用支援からAIインテグレーション、品質管理まで、企業のAI導入を一気通貫で支援するスパイクスタジオ。組織拡大のフェーズを迎え、バラバラになりつつあったブランド世界観の再構築が急務となっていました。
その再構築を支えたのは、アマナのサービス「Great RIVER」です。Great RIVERは、クリエイティブ人材を企業へ参画させる共創型の支援サービス。今回は、そのクリエイティブパートナーとして、市東基さん(Sitoh inc. アートディレクター)がスパイクスタジオのプロジェクトに参画しました。
ロゴやブランドガイドラインの制作に加え、AIがブランド哲学を参照できるようにする「プロンプト」設計まで実施。約4カ月にわたる共創の舞台裏を、スパイクスタジオ代表取締役CEOの黒柳茂さんとSitoh inc.代表の市東さんに伺います。
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——組織拡大に伴いブランドの危機感があったとのことですが、今回なぜGreat RIVERに依頼することになったのでしょうか?
黒柳茂さん(以下、黒柳。敬称略):従業員が増える中で、営業資料や採用メッセージのデザインがバラバラになり、会社のビジョンが正しく伝わっていない状態だと感じていました。大きな問題になる前に手を打ちたいと考えたのがきっかけです。
ただ、今の時代、生成AIを使えば誰でもある程度のものは作れますよね。だからこそ、単に仕様通りに作る人ではなく、私たちの想いや思想を汲み取り、新たな価値を加えてくれるパートナーを求めていました。単なる効率化ツールとしてのAIではなく、私たちの意志を体現してくれる「人」を探していたんです。
黒柳茂|Shigeru Kuroyanagi
株式会社スパイクスタジオ 代表取締役CEO。データサイエンティストとして様々な業種の機械学習モデル構築やデータマネジメントプラットフォームの開発、データサイエンティスト及びデータエンジニアのマネジメントに従事。大企業向けのDX推進コンサルティングや、経営層から現場までのDX/生成AI人材の育成など、のべ1万人以上の講師を務める。
市東基さん(以下、市東。敬称略):私自身、「AIが進化したとき、デザイナーという仕事はどうなるのか」という問いをずっと持っていました。そんなタイミングでこのお話をいただき、数ヶ月間その問いと向き合い続けることになりました。
黒柳:アマナのGreat RIVERというスキームを通じて、市東さんにプロジェクトへ参画していただきました。市東さんの作品を拝見して感じたのは、卓越した技術以上に「人間にしかできない感性や意図」を大切にされていること。まさに、私たちが探し求めていた方だと思いました。
市東:ありがとうございます。実際にお会いしてみると、黒柳さんの頭の中にはすでに明確な思考の土台がありました。ただ、それを組織に伝達しようとすると、どうしても言葉が多岐にわたってしまいます。それらの言葉から「ブランドコア」を抽出し、一つの象徴としてまとめるのが私の役割。そのために、まずは徹底的な対話を通じて、黒柳さんの想いを深く理解することから始めました。
黒柳:私がブランドへの想いを言葉にし、それを市東さんに具体的な「形」として落とし込んでもらう役割分担でした。
市東:私が一方的に作るのではなく、黒柳さんが語りつくした言葉の中から、何が核心なのかを一緒に抽出していく。その議論のプロセスこそが、今回のプロジェクトの本質だったと感じています。
市東基|Motoi Shito
Sitoh inc. 代表取締役/アートディレクター。1981年北海道生まれ。2013年にフリーランスとして独立し、2016年にデザインコンサルティングファーム「Sitoh inc.」を設立。企業の独自性を活かしたコミュニケーション設計やブランディングを手がける。クリエイティブの世界観を通じて、企業スタンスやプロジェクトに明快な指針をもたらし、組織に新たな視点と良い循環を生み出す伴走型支援に取り組んでいる。
——デザインを決定するまでのプロセスで、特に対話を重ねた部分はどこですか?
黒柳:出発点は「デザインをどうするか」ではなく、「ブランディングのコアをどうすべきか」という議論でした。ビジョンやバリューといった既存の要素を市東さんに話し切り、そこから何を抽出するかを一緒に考えていきました。
本プロジェクト以前から存在するスパイクスタジオ社の資料より
市東:黒柳さんの思想はすでに出来上がっていたので、私の役割はいかにそれを「抽出」するかでした。誰かを紹介するときに「あの人はこういう人だ」と一言で言えるような象徴を探すため、議論を重ねていきました。
黒柳:ビジュアルに関しては市東さんにお任せしていましたが、実は一度、完成に近い案を経営陣への説明を経て白紙に戻したことがありました。
市東:そうでしたね。当初は「摩擦を解消する」というキーワードを軸に設計を進めていました。AIによって業務の摩擦を取り除くという考え方自体は間違っていなかったのですが、形にしてみると「それが本当にスパイクスタジオらしさなのか?」という違和感が出てきました。
黒柳:言葉としては正しいんですが、私たちが本当にやりたいことや、目指している状態を表しているわけではなかった。それはあくまで「手段」であるという結論に至りました。そこに気づいたのが大きな転機でした。
市東:そこで一度立ち止まって、何を成し遂げるのか、という目的のレイヤーまで掘り下げる必要があると感じました。
黒柳:それからAIに問いを立てて、自分の考えを言語化していく形で文章を整理しました。自分の中にあったものを外に出していく作業でしたね。
市東:その文章が非常に重要でした。問いと回答を繰り返す中で、人間の意思や判断軸がはっきりと浮かび上がってきた。その結果、「UNSTOPPABLE」というキーワードが、単なるスローガンではなく、ブランドの中心的な思想として定義されていきました。そこから、「ブランド思想をどう表現するか」という観点がさらに深まり、本質的なロゴやビジュアルの設計ができるようになったと感じています。
スパイクスタジオ・ブランドガイドラインより|ロゴタイプ
AIの速度と人間の意志が噛み合い価値を生み続ける「UNSTOPPABLE」な姿勢を象徴します。Sに込めた矢印は始まりと加速を示し、個の意思が集まり前進し続ける組織の力をフルネームで視覚化しています。
スパイクスタジオ・ブランドガイドラインより|ロゴマーク
黒柳:市東さんは論理的ですよね。自分の意思を出すよりも、私の中に眠っているキーワードを100%引き出して言語化してくれる。アーティスティックな仕事をされているのに、思考の進め方に、どこかAI的な構造性があって面白いと思いました。
市東:理由を説明できないものが嫌なので、すべて言語化できる状態にしておきたい。たとえば書体も「強い意志と決意がある」からボールドで力強く、でもスパイクスタジオは機械的ではなく「人間らしさ」を大切にしているため、フォルムには大きな曲線を使う。すべての選択に、対話から引き出した言葉を反映させていきました。
——ブランドガイドラインをAIに理解させる「プロンプト」化まで行われました。なぜこのプロセスが必要だったのでしょうか?
黒柳:今回のプロジェクトで特徴的だったのが、ブランドガイドラインをAIに理解させるための「プロンプト」を設計したことです。私たちとしては、ブランドを人の感覚だけに頼らず、AIを通じて一貫して再現できる状態を作りたいと考えていました。
私たちの会社では、AIを常に動かし続けることが今の時代における仕事の前提です。AIを使えていない状態は、もはや業務として成立していないのではないか、という感覚すらあります。
市東:AI活用のためのガイドライン制作は私にとっても初の試みでした。人間であれば前後関係の文脈で理解できることでも、AIにはすべて言葉で定義する必要があります。
そのため、正解だけでなく「何をしてはいけないか」という不正解を明確に明示しました。AIがブランドの軌道を大きく外れないための「ガードレール」を設計するイメージです。
黒柳:現在は、Webサイト制作や資料作成など、あらゆる場面でブランドガイドラインをAIが参照しています。つまり、AIがブランドを「知っている前提」でアウトプットを生成する状態になりつつあります。
これによって、専門知識のないメンバーでも、高い一貫性を持った制作ができるようになりました。
本プロジェクト以前から存在するスパイクスタジオ社の資料より
——ガイドラインができてから、社内での仕事の進め方やアウトプットにどんな変化がありましたか?
黒柳:プログラミングの知識がないマーケターが一人で、ブランドガイドラインをAIに読み込ませながらコーポレートサイトを制作しています。コーディングもデザインも一人でこなしていて、クオリティもかなり高い。通常であればWeb制作会社に依頼するサイトが、一人で作れてしまう。これがガイドラインとAIを組み合わせた一番の成果だと思っています。
市東:日本ではブランドガイドラインが作って終わりになってしまうことが多い。だからこそ、ガイドラインをAIに読み込ませることで、アウトプットが自然とブランドに沿ったものになっていく。これは非常に理想的な使われ方だと感じています。
——今後、このガイドラインをどのように育てていきたいですか?
黒柳:まずはガイドラインを浸透させることが目先のテーマです。ただ、全員がガイドラインを覚える必要はありません。ツールの裏側に組み込まれていて、気づかないうちにブランドに沿ったアウトプットが生まれている状態を目指しています。人が意識して守るのではなく、仕組みとして自然に動いている状態。それが実現できれば、まずは成功ですね。
市東:最初にご相談いただいたときから、「ブランドガイドラインをAIの基盤にする」という発想に、何よりワクワクしました。もちろん、デザイナーの役割が変わっていくことへの複雑な気持ちもありましたが、私の本質的な願いは、ブランドデザインにまつわるストレスや無駄を削ぎ落とすこと。それがAIによって実現できるのなら、デザイナーとして本望です。
——最後に、ブランディングに取り組もうとしている企業の方へメッセージをお願いします。
黒柳:デザインの裏側にビジョンや想いがあって初めて、ブランディングは意味を持ちます。ロゴに誇りを持ち、自分たちの言葉で「なぜこの形なのか」を語れるようになれば、それはクライアントへの説得力や会社への愛着に直結します。私たちの「一流のデザイナーと組み、それをAIが理解できる形(プロンプト)に落とし込む」というスタンスは、近い将来、スタンダードになると信じています。
市東:ロゴやデザインという「結果」以上に、議論を重ねてチームの意思を一つにまとめていく「プロセス」そのものが会社の財産になるんですよね。
黒柳:まさに。そのプロセスを通じて生まれた団結力こそがブランディングの本当の価値です。現場に落とし込んだときにどこまで機能するか、私たちはまだ挑戦の途中ですが、この先の変化を一緒に楽しんでいけたら嬉しいです。
ブランドの思想を、人間の感性でつくり、それをAIに実装する——スパイクスタジオとGreat RIVERの共創は、新たなブランド運用のあり方を提示しました。対話を重ねたアナログなプロセスが、AIを通じてブランドの思想を組織の揺るぎない「意志」として機能させる運用モデルを生み出しています。
アマナは、クリエイティブ人材の参画を通じて組織の創造性を共に育むパートナーとして、お客様のブランド課題に寄り添い、未来を共創していきます。
クライアント/スポンサー:スパイクスタジオ
アートディレクター:市東基(Sitoh inc. )
プロデューサー:杉山諒(アマナ)
取材・文・撮影:BeeDot
アマナのサービス紹介
プランニング&デザイン|Great RIVER
アマナの Great RIVER は、企業にクリエイティブ人材が入り込み、課題の発見から構想、言語化、実行まで伴走する共創型の支援サービスです。外部の視点と専門性を取り入れながら、ブランド設計や事業構想、コミュニケーション設計を前に進めます。
社内だけでは整理しきれないテーマや、推進役が必要なプロジェクトに対して、クリエイティブ人材が伴走し、思考を実装につなげる土台をつくります。
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Great RIVERは、目標を達成するための創造的な組織を共に創り上げるサービスです。各分野のプロフェッショナルである創造性人材が企業と一体となり、社内だけでは補えない視点や専門性、新たな視点や発想を持ち込みながらプロジェクトの基盤を支えます。