動画生成AIで表現はどう拡張する?映像ディレクター橋本伸吾が語る、AI時代の「プロの条件」

橋本伸吾

日々刻々と進化を続ける生成AIは、広告制作やブランドコミュニケーションの現場に、新たな問いを投げかけています。これまで大規模な撮影、緻密なCG、膨大な時間と予算が必要だった映像表現は、AIによってどこまで拡張できるのか。そして、誰もが映像を作れる時代に、プロのクリエイターはどのような価値を発揮できるのでしょうか。

アマナでは、AI特化型プログラム「A³ School」を始動。選抜されたアマナのトップクリエイターが3ヶ月間、既存業務を離れてAIの研鑽に没頭するという異例の体制で、クリエイター独自の審美眼と最先端AI技術を掛け合わせ、次世代の制作スタンダードを探求しています。

本記事では、A³ Schoolの講師も務める広告映像ディレクターの橋本伸吾氏をゲストに迎え、アマナでCG・レタッチに長年携わってきた中島 輝が、AI動画制作の現在地とこれからの可能性について伺いました。


物理的な制約を超え、「ありえない画」を広告表現にする

中島:橋本さんにはアマナの「A³ School」の講師としてご登壇いただき、AI動画制作の実践的な知見を共有していただきました。広告映像の第一線で活動されてきた立場から見て、生成AIと映像表現の相性をどのように感じていますか。

橋本伸吾さん(以下、橋本。敬称略) :一番大きいのは、これまでなら制作が難しかった世界を、PCひとつで実現できるようになったことです。宇宙空間、未知のモンスター、満員のスタジアム、巨大な女神が現れるような非現実的なシーン。従来であれば、大規模なロケやセット、CG制作が必要だった表現に、かなり早い段階から手が届くようになりました。

中島:撮影条件などの制約によって、企画段階で諦めざるを得なかった表現にも挑戦できるということですね。

橋本:そうです。たとえば、小規模な予算では到底難しいようなスケールの画でも、AIを使えばプロトタイプとして立ち上げることができる。もちろん、そのまま完成品になるとは限りませんが、「このブランドなら、ここまで想像を広げられる」という提案の幅は確実に広がります。AI動画の魅力は早く作れることだけではありません。物理的な制約を取り払い、ブランドの世界観を拡張できることにあると思います。

橋本伸吾・はしもとしんご

橋本伸吾(はしもと しんご)
広告映像ディレクター。博報堂プロダクツを経て独立し、ユーモアとシズル感のある映像表現で多数の広告を手掛ける。2023年末から生成AIを用いた動画制作を本格化させ、2025年にはAI動画制作会社「GEN CRAFT」の創立メンバーとしても活動。

動画生成AIが得意な表現、まだ人間に委ねるべき表現

中島:一方で、AI動画には得意不得意もあります。橋本さんは、どのように見極めていますか。

橋本:短尺でインパクトがあり、ユーモアや誇張を含む表現はAIと相性がいいですね。広告のように、短い時間で強い印象を残す必要がある映像には向いていると思います。逆に、長尺の人間ドラマや、視線、間、ため息のような繊細な感情の機微は、まだ難しい。じっと見ているからこそ伝わる人間の微細な動きは、今のAIだけでは十分に再現しきれない部分があります。

中島:AIでできることが増えるほど、どこに使うべきかを判断する力が重要になりますね。

橋本:まさにそこです。AIなら何でもできる、という捉え方は危険です。大切なのは、AIに向いている表現と、人間の演技や撮影の力を生かすべき表現を見極めること。広告制作では、最終的にブランドの価値やメッセージが伝わるかどうかが重要ですから、技術の新しさだけで判断してはいけないと思います。

「職人不在」の制作現場で、プロは何を見るのか

中島:アマナの制作現場では、長年、大規模なスタジオで多くのスタッフと力を合わせて動画のシズルショットやビジュアルを作り上げてきました。その過程を知る身としては、今やデスクトップでコンテンツを生成してしまうAI制作の状況に、正直なところ「脳がついていかない」ような戸惑いを感じる瞬間もあります。

橋本:痛いほどわかります。AIでの映像制作は、言ってしまえば「職人不在」の映像制作です。AIの制作現場には、これまで頼りにしていたフォトグラファー、美術デザイナー、ヘアメイク、スタイリスト、CGアーティストといったプロフェッショナルたちが誰もいません。フォトグラファーがレンズ選びやライティングの微妙なグラデーションの階調にこだわるような、あの美しいクラフトのプロセスをすっ飛ばして動画が完成してしまうことに対して、私自身も一人の映像制作者として、非常に強いモヤモヤを抱えています。

中島:その葛藤と、どう向き合っているのでしょうか。

橋本:本当は優秀なフォトグラファーにじっくり撮ってもらい、みんなでモニターを見ながら「このアングル最高だね」と語り合う現場の方が楽しいに決まっています。しかし、時代が変わってしまった以上、それを嘆いていても仕方がないんですよね。これまで長年培ってきた経験を、次はAIという新しいツールの中で活かしていくしかありません。職人が不在だからこそ、出来上がった映像や画像を「今まで以上に厳しく視る」必要があります。

中島 輝(なかしま てる)

中島 輝(なかしま てる)
フィルム時代からデジタルへの移行期を制作現場で経験し、アマナにてCG制作やレタッチに携わる。長年の現場経験を活かし、現在は社内のAI推進担当として実務への生成AI導入や制作環境の構築に取り組んでいる。 

実写とAIのハイブリッドが、映像に「人間の気配」を宿す

中島:完全にAIだけで完結させるのではなく、実写と組み合わせる手法にも可能性を感じているそうですね。

橋本:はい。特に注目しているのは、実写をモーションリファレンスとして使う方法です。AIでアニメーションを作る際、プロンプトだけで動かすのではなく、まず役者さんに実際に演じてもらう。その表情、瞬き、体の重心、感情の揺れをAIに反映させることで、映像に人間らしい厚みが出ます。

中島:人間の身体性を、AI表現に持ち込むわけですね。

橋本:そうです。AIは強力ですが、人間の演技が持つ偶然性や温度までは簡単に生み出せません。だからこそ、実写とAIを対立させるのではなく、どう掛け合わせるかが重要になります。AIを使うことで撮影が不要になるのではなく、撮影の意味が変わる。そこに、新しい制作の可能性があると思います。

プロンプトは「演出」である。言語化に生きるディレクターの経験

中島:AIに意図を伝えるには、言語化の力も欠かせません。橋本さんは、プロンプトワークをどのように捉えていますか。

橋本:プロンプトは、かなり演出に近い感覚です。以前ならスタッフに「あとはいい感じでやっといて」と伝えていた部分も、AIには通用しません。どんな光で、どんな距離感で、どんな感情を持ったショットなのか。頭の中にある映像を、できるだけ具体的に言葉にしなければならない。

中島:広告映像のディレクターとして培ってきた経験が、そこに生きているのでしょうか。

橋本:あると思います。限られた撮影時間の中で、クライアントの意図を汲み取り、スタッフや出演者に的確に伝える。その能力がディレクターには求められます。新しい企画を通すには、なぜその表現が良いのかを説明することも必要です。AIに対するプロンプトも同じで、曖昧なイメージを整理し、論理と言葉で方向づける力が求められます。

映像の民主化がもたらす「ディストピア」とクラフトの責任

中島:AIの進化スピードは凄まじく、先日話題になった動画生成モデルがわずか半年でサービス終了し、また新たな技術が台頭してくるような状況です。誰もが簡単にハイクオリティな映像を作れる時代になりつつあります。

橋本:率直に申し上げて、私はこの現状に対して、映像文化が本当に好きな人たちにとってはある種の「ディストピア」になるのではないかという恐れを抱いています。

中島:ディストピア、ですか。

橋本:はい。映像の民主化が進むことで、誰もが手軽に動画を作れるようになります。しかしそれは同時に、世の中に出回る映像コンテンツの全体的なクオリティや、視聴者の映像リテラシーが下がってしまう危険性を孕んでいます。過去のクラシックな名作映画に触れたり、現場での泥臭い経験を積んだりすることなく、AIを使って「パッと見いい感じ」の動画を作っただけで「AIクリエイター」を名乗る人たちが増えてくるでしょう。アナログレコードが一部の愛好家のものになったように、映画などの質の高い映像文化が追いやられてしまうのではないかと危惧しています。

中島:アマナのように、長年クリエイティビティの質にこだわってきた組織としても、そこは非常に危惧するポイントです。手軽さゆえに、本質的なクラフトの価値が軽視されてしまうのではないかと。

橋本:まさにそこです。最近のAI映画祭などを見ていても、「AIを使ってここまで映像が作れた!」という技術的な目新しさばかりが評価され、本来であれば厳しく指摘されるべきクラフトとしての弱さが「大目に見られている」ことに違和感を覚えます。映像制作の劇的な民主化により、素晴らしくも恐ろしい時代が到来するかもしれません。

中島:だからこそ、我々のようなプロフェッショナルが責任を持ち、テクノロジーに溺れることなく、質の高いものを作り続けなければならないのですね。

橋本:もちろん、若い世代が新しい感性で、クラシカルな文法も踏まえながら素晴らしいAI動画を生み出す可能性も大いにあります。誰もが技術を持てるようになったからこそ、最後は純粋な「クリエイティビティの勝負」になります。より深い思考とアイデアを持つクリエイターが生き残っていくのは自明の理です。

橋本伸吾・中島輝

アマナ×AI動画制作の可能性——クラフトを手放さず、表現を拡張する

中島:今日のお話から、AI動画制作にはワクワクする可能性と、慎重に向き合うべき課題の両方があることを改めて感じました。

橋本:私の中にも、常にワクワクとモヤモヤが同居しています。でも、その両方がある状態こそ健全なのだと思います。何も考えずに飛びつくのでも、拒絶するのでもなく、葛藤しながら使い倒す。そうすることでしか、新しい表現は見えてこないのではないでしょうか。

中島:アマナには、写真、映像、CG、レタッチ、デザインなど、長年にわたって培ってきたクラフトと審美眼があります。生成AIを単なる効率化ツールとしてではなく、クリエイターの想像力を拡張するパートナーとして活用することで、企業やブランドの「らしさ」をより強く、より豊かに可視化できるはずです。

AIが表現の前提を変えつつある今、求められているのは、技術を使うことそのものではありません。何を伝えるべきかを見極め、どのような表現ならブランドの価値を高められるのかを考え抜くことが重要ですね。

アマナとしても、創業から培ってきたビジュアル制作の深い知見とクラフトマンシップを決して手放すことなく、生成AIをクリエイターの想像力を無限に拡張するためのパートナーとして、積極的に活用・推進していきたいと改めて強く感じました。企業ブランドの価値を最大化する新たな表現を、これからも探求していければと思います。

【Special Gallery】 橋本伸吾氏のAIパーソナルワーク

インタビューの締めくくりとして、橋本氏が生成AIを駆使して制作した、パーソナルワークを解説付きでご紹介します。

作品01:『TOKYO LIMINAL』

TYO presents “TOKYO STORIES,” an AI film project.

【作品解説】 古代の妖怪が今も潜む“見えない東京”を舞台にした、AI短編映画。インタビュー形式で妖怪たちの視点をたどりながら、変貌する川や揺らぐアイデンティティ、通知に支配される未来、失われた夜、引いては高さと支配に執着する都市社会を見つめます。本作は現代を直接批判するのではなく、民間伝承を通して、私たちの社会が他者の視点から見たときにいかに奇妙で異様に映るのかを静かに探ります。

作品02:『UNWATCHABLE』

【作品解説】 「目も当てられない(めもあてられない)」ーー。状態があまりにもひどく、まともに見ていることができないさま。 愚かな人間たちを見て、猫は思う。「まったく、目も当てられないな。」 

過去の生成AIクリエイターインタビュー記事はこちら
第一回:AIクリエイターTakkaが語る、「10」の知見を「100」に変える生成AIの使い方

取材・文:中島 輝(アマナ)
編集・撮影:計盛祐子(アマナ)


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