ロケか、生成AIか、融合か――生成AI時代の映像制作における「意思決定」のルール

ロケか、生成AIか、融合か――生成AI時代の映像制作における「意思決定」のルール

かつての映像制作では、「どこで撮るか」が作品の質を左右する側面がありました。理想のロケ地を探し、機材とスタッフを現地へ運び、天候と時間に祈る。映像のクオリティは、思い通りの空間や風景をどれだけ確保できるかにかかっていたともいえます。

しかし、近年、その前提が大きく揺らいできました。LEDウォールを用いたバーチャルプロダクション(VP)や生成AIによる映像生成などによって、制作のプロセスは急速にデジタル空間の中で行われるようになり、「どこで撮るか」よりも「どう作るか」「何を信じさせるか」が問われる時代へと移行しつつあるためです。

ここでは、この変化を単なる技術トレンドではなく、広告クライアントやブランド担当者が直面する「意思決定の問題」として捉え直します。それは人目を惹く技術の新しさよりも、「自社のこの案件に、どの手法が最適か」を見極める判断軸こそが重要といえるからです。

ロケ・バーチャルプロダクション(VP)・生成AIの変遷と「融合」の本質

まず、ここ数年で連続的に拡張してきた映像制作の手法を振り返ってみましょう。

その原点はロケーション撮影です。実在する場所で、実在する被写体を、実在する光のもとで捉える。説得力という点では今でも最強の手法と考えられますが、その代償として、移動・天候・時間・人員などの物理的制約から逃れることはできません。

続いて、近年、広告・映画制作での利用が増えてきたのが、LEDウォールやリアルタイムCGを活用したバーチャルプロダクションでした。これは、カメラの動きに連動した実写やCGによる背景映像をLEDディスプレイに映し出し、その手前で被写体を撮影することで、現実には撮影が難しい場所や一瞬しか訪れることができない情景であっても、スタジオの中に再現できる手法です。実写を使う場合でも、背景をベストな条件下で撮影しておくことで、天候や時間帯に左右されずに被写体と合わせた撮影を行える点が、旧来のロケにはない大きな強みとなります。

そして、第三の選択肢として急速に存在感を増してきた手法が、生成AIです。風景や人物の描写品質はこの1、2年で劇的に向上し、今では「撮影したかのようなリアルさ」を生成できる水準にまで達しました。

しかし、重要なのは、これらが「置き換え」の関係にはないという視点でしょう。ロケがVPに、VPがAI生成に取って代わられるのではなく、実際の制作現場で起こっているのは、それぞれの強みを掛け合わせる「融合」だからです。映像制作の非物理化がもたらす本当の価値は、「現実の制約から自由になること」そのものではなく「現実の説得力を保ったまま、さらなる表現の自由度が得られること」だといえるでしょう。必要に応じてロケ、VP、AI生成の特徴やメリットを自在に組み合わせられるようになった点に、大きな意義があるのです。

ロケ、VP、生成AI、それぞれのメリット/デメリットを理解し、目的や条件に応じた「融合」を行うことが重要。

ロケ、VP、生成AI、それぞれのメリット/デメリットを理解し、目的や条件に応じた「融合」を行うことが重要。

【比較表】映像手法を選ぶ「3つの評価軸」(コスト・リアリティ・柔軟性)

では、どのようなときに、どの手法を選び、組み合わせるべきなのでしょうか? それはケース・バイ・ケースですが、案件ごとに次の3つの軸を念頭に置くと、どうすることが最適解なのかが見えてくるでしょう。

・コスト:制作にかかる総費用(ただし後述するように、その内訳の意味は変わりつつあります)。

・リアリティ:映像がどれだけ「本物らしく」見えるか。そして、どれだけ「信じるに足りる」か。

・柔軟性:修正・差し替え・展開のしやすさ。これは、一度作ったものを、どれだけ別の用途へ転用できるかを意味します。

この3軸で代表的な手法を整理すると、それぞれの特徴が浮かび上がります。

代表的な手法を整理

特に注目すべきは、生成AIの「リアリティ」欄です。ここは固定値ではなく、「誰が、どう使うか」によって大きく振れるという点に注目してください。同じ生成AIでも、制作者の技術と設計次第で、その出力結果はプロの納品物にも、破綻した試作にもなり得ます。そのため、必要に応じて適切なパートナーを選ぶことが重要になってくるといえるわけです。

意思決定の3つの軸

案件ごとにこれらの3つの軸で比較・検討することにより、映像制作手法の最適な選択が見えてくる。

映像予算の構造変化:「消費される費用」から「蓄積されるデータ資産」へ

このような映像制作手法の変化・拡張は、予算の「使いどころ」にも影響を及ぼします。

たとえば、従来のロケ撮影では、コストの多くがロケ地への移動費や機材輸送、現地での人件費、天候による予備日の確保といった、いわば「一度きりで消えていく費用」に充てられていました。

これに対して、VPや生成AIでは、コストの中心は背景データやCGアセット、3Dモデル、生成ワークフローの設計といった「データ制作費」へとシフトします。人件費の構造も、現地スタッフの稼働に関わるものから、データを設計・制御するクリエイターの専門性への投資へと比重が移ってきました。

これらの違いが生む最大の利点は、後者ではデータ資産が手元に残ることです。一度構築した背景データや製品の3Dモデルは、別のカットやキャンペーン、あるいは別の市場向けなどの展開へと繰り返し転用できます。ロケ費は撮影が終われば消えますが、データ資産は使うほどに単価が下がっていくのです。短期の制作費だけでなく、中長期のコスト最適化という側面を意思決定に組み込めるかどうかも、これからの映像制作にとって重要な視点ではないでしょうか。

ただし、注意していただきたいのは、VPや生成AIが「安く済む手法」だと誤解してしまうことです。初期のデータ構築には相応の投資が必要であり、単発・一回限りの案件であれば、従来のロケのほうが結果的に安くなる可能性もあるためです。判断のポイントは「1案件あたりのコスト」ではなく、「そのアセットを何回、いくつの媒体で、どの市場に向けて展開していけるか」という総量になります。転用・応用の回数が多いほど、データ起点の制作はコスト面で有利になるわけです。逆にいえば、転用の見込みが立たない単発案件で無理に非物理化を選ぶ必要はないともいえるでしょう。この見極めこそが、コスト軸における最初の意思決定となります。

予算構造の変化の図

映像制作手法の変化・拡張が予算の「使いどころ」にも影響を及ぼしている。

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「リアル」の再定義:写真的正確さから「知覚的に信じられる体験」へ

さて、ここで一度、「リアルとは何か?」という問いに立ち返ってみましょう。

長らく映像制作におけるリアルとは、「現実に存在するものを、ありのままに写すこと」を意味していました。しかし非物理化が進んだいま、その定義は揺らぎ始めていると考えられます。たとえば、VPの背景は実在する風景とは限りません。また、AIが生成したイメージは実際にカメラが捉えた光景ではありません。それでも、観る人の眼にそれらが本物として映り、心を動かすのであれば、それも「リアル」と呼べるのではないでしょうか?

実際に、「ジュラシック・パーク」などの映画で、実写、アニマトロニクス、CG、合成を組み合わせて、非現実の存在を、あたかもそこにあるかのように見せる映像技法が一般化して以来、リアルの評価軸は「写真的に本物か」ではなく「知覚的に信じられるか」へと移ったという捉え方があります。それは、映画理論家のスティーヴン・プリンスが1996年の論文と2012年の著書「Digital Visual Effects in Cinema」の中で述べていることで、彼はそれを「知覚的リアリズム」と呼び、「観客が日常的に経験している三次元空間の光、色、質感、動き、音などの知覚的手がかりを、映像内に構造的に再現すること」と定義しました。つまり、観る者が現実と同じ物理法則に従っていると感じられれば、その映像は(たとえ被写体が実在しなくても)信じるに足るものとして受け取られる、ということです。

また、「Realistic Visual Effects Explained for Filmmakers」という最新のVFX解説でも、『「リアルな視覚効果」とは写真的に完璧であることではなく、知覚的に信じられること(perceptually believable)を意味する』と明言されています。

その意味では、どのような手法であっても、ブランドが伝えたい世界観や商品が約束する体験を観る人の中で成立させられるかどうかが、新しいリアリティの鍵を握っているともいえるでしょう。

もちろん、それが意味するのは「正確さはどうでもよい」ということではありません。むしろその逆であり、製品そのものの形状やロゴ、素材感など、厳密に再現すべき領域は依然として存在しています。この点で、生成AIはかなりの進歩を見せていますが、依然として忠実な再現が構造的に苦手なところがあるため、「忠実に守るべき正確さ」と「自由に広げるべき世界観」を意図的に切り分けて設計できる能力が、今後、ますます重要度を増してくると考えられるのです。

「リアル」の再定義

映像における「リアル」は変化しても、観る人の心を動かす体験を作れるかどうかが重要であることに変わりはない。

生成AIの導入メリットを最大化する「3つの活用シナリオ」

それでは、生成AIがその能力を存分に発揮できる領域は、具体的にどこにあるのでしょうか?想定されるシナリオを、以下に3つ挙げてみます。

・グローバル展開:1つのブランド軸を保ちながら、市場ごとに背景・モデル・トーンを差し替えるというようなシチュエーションです。国の数だけロケを組むのは現実的ではありませんが、データを基点にすることで、地域最適化されたバリエーションをリーズナブルなコストで展開できます。

・プロトタイピング:企画段階で完成形に近いビジュアルを素早く可視化するという利用法です。本格的な制作に入る前に世界観の整合性などを関係者が確認することが可能になるため、後工程における手戻りや合意形成のための時間・コスト面でのロスを大幅に低減できるでしょう。

・大量バリエーション制作:ECの商品画像、SNS広告、A/Bテスト用クリエイティブなど、何よりも数が効く領域への適用です。AIによるビジュアルの高速・大量生成が最も効果を発揮する領域ともいえます。

ただし、ここで注意すべきなのは、生成AIは「ゼロから一発で完成品を出す道具」ではないということです。あくまでも「人の意図を、速く・広く展開する増幅装置」として利用することで、相乗効果が得られる技術であると捉えてください。

生成AIの3つのシナリオ

生成AIの特性を理解して適切に活用することで、その本領が発揮され、効果を最大化できる。

【アマナ事例】表現の正確性と自由度を両立させる「技術の融合と実装力」

先に触れたように、生成AIのリアリティは「誰が、どう使うか」に左右されます。そのため、必要に応じて適切なパートナーを選ぶことも、映像制作に関わる「意思決定」の1つとなりえます。そのような「意思決定」が必要な場合には、ぜひ、上記の3つの手法を実際に「融合」し、プロジェクトを成功させてきた実績に着目してパートナーを選択してください。

たとえばアマナが、Hyundaiの新型EV「KONA」のために行ったビジュアル制作では、バーチャルプロダクションが採用されました。一瞬の夕焼けを背景にする必要があったため、LEDディスプレイに連動映像を映し、その前で車両を撮影。さらにカメラを引いたときに見えるスタジオの床を高速道路の路面に変え、ハワイの地名に由来する車名から連想されるヤシの木を合成しています。実写の質感と、自在に作り込める背景を一つの画面で破綻なく成立させたこと。それが、手法の「融合」の成果です。

Hyundaiの自動車広告初となった、バーチャルプロダクションによる新型EV「KONA」のTVCM。@HyundaiJapan

こうした実装力を支えているのが、CG制作、バーチャルプロダクション対応、そして生成AIをブランドに最適化する専門チーム(A³|amana AI Architects)による提供価値の厚みです。「AIの進化を、美意識の進化へ」というビジョンを掲げて、技術の新しさを誇るのではなく、技術をブランドの表現基準へと翻訳する。その姿勢が、冒頭から述べてきた「意思決定」を実際の成果へと結びつけています。

まとめ

最後に改めて押さえておきたいのは、映像制作手法における選択が、ロケか、VPか、生成AIかという三者択一の問題ではなく、それらの最適な融合にあるということです。

ロケには実在の説得力があり、VPには制約からの自由があり、生成AIには創造の広がりと展開のスピードがあります。案件ごとにコスト・実現性・柔軟性の3軸の最適点を見極め、必要に応じて手法を融合させる判断の積み重ねから、必要な要件を満たすリアリティが生まれるのです。

そして、その判断を成果に変える鍵は、技術そのものではなく、技術を制御して組み合わせる「人」と「設計」にあります。最新の手法を導入することがゴールなのではありません。自社のブランドが伝えたい体験を、最も信じてもらえる形で届けること。そのための意思決定こそが、生成AI時代の映像制作に問われているのです。

文:大谷和利


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