日本企業のAI活用はどこへ向かうべきか──欧州の最新トレンドに見る「人間中心」への転換

日本企業のAI活用はどこへ向かうべきか──欧州の最新トレンドに見る「人間中心」への転換

音楽・映画・テクノロジーが交差する世界最大級のカンファレンス&フェスティバル「SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)」。その欧州版として、2026年6月1日から6日にかけてロンドンで開催された「SXSW London 2026」に、海外視察研修の機会を得たアマナの2名が足を運びました。

ディレクター/プロンプト・アーキテクトとしてAIを活用したクリエイティブ制作に取り組むコンスタンス・リカと、3DCG、グラフィック、シズル動画を中心とした広告ビジュアル制作のプロデューサーを務める関口拓真。立場の異なる2人が現地で目にしたのは、最新ツールの見本市ではなく、「AI時代に人間はどうあるべきか」を問い続ける議論の数々でした。AI、クリエイティブ、ブランド、体験ーー2人の視点から、AI時代におけるクリエイティブの次の兆しをレポートします。

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最先端は「AIツール」ではなく「発想」にあった

ーー視察の前、それぞれどんなテーマに注目していましたか。

コンスタンス・リカ(以下、コンスタンス):私は、生成AIをブランドに最適化するアマナのサービス「A³(amana AI Architects)」で、プロンプトアーキテクトとして仕事をしていることもあり、まずは、生成AIと「つくる人」の関係、そして作家性がどう再定義されているのかに注目していました。

もうひとつはブランドの動きです。いまはAIで誰もがいろいろなものをつくれて、量産できる時代です。その中でブランドを際立たせるために、「伝える」ために何をやろうとしているのか。大きくはこの2つに注目していました。

関口拓真(以下、関口):SXSWの本家であるアメリカ・オースティンのイベントについては話を聞く機会があったのですが、ロンドンは2025年に初開催されたばかりということもあって、参考となる情報は多くありません。逆に「SXSWとはそもそもどういうものなのか」という漠然とした興味から入りました。

事前にコンスタンスさんとミーティングをして注目セッションを整理する中で、私は自動車関連に興味を持ちました。プリンシパルスポンサーに自動運転開発企業が入っていたり、F1チームのCEOが登壇したりすることが分かっていたので、その辺りを中心に見ようと考えていました。

ーー実際に現地へ行って、「最先端」を感じる部分はありましたか。

コンスタンス:正直に言うと、「このツールが最先端」「このやり方が最先端」というものは、あまり見られませんでした。新しいツールや機能の出展はもちろんありましたが、新しいからといって、それが最先端なのか。本当の最先端とは、技術的な新しさではなく「常識の一歩先にある発想」ではないかと思っていて。その意味では、今回いちばん先を行く発想をしていたのは、登壇している人たちだったかもしれません。

関口:確かに、ツールの利便性をアピールするというより、発想の話が中心でしたね。それと、会場にいた人たちの空気です。日本でよく感じる「AI疲れ」のようなものがなく、みんな率先して触ってみよう、まず体験してみようという好奇心を感じました。

コンスタンス:登壇者だけでなく、会場で隣に座った方たちと雑談をしても、考え方がすでに「どう使うか、使うべきか」が中心だと感じましたね。

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「人間こそが最良のセンサー」である

ーーでは、注目していたというF1関連のセッションから聞かせてください。実際に見て、いかがでしたか。

関口:「Beyond the Logo」というセッションで、Oracle Red Bull RacingのCEO兼チーム代表であるローラン・メキース(Laurent Mekies)氏が登壇しました。モデレーターは、もともと同チームのピットクルーとして世界のレースに帯同していたカラム・ニコラス(Calum Nicholas)氏。エンジンテクニシャンであり、タイヤ交換を担うなどフィジカルでも仕事をしてきた方です。

F1はデータとAIとリアルタイムの意思決定が、結果を直接左右する世界です。ただ、セッションの内容をすごく簡単に言うと、「結局は、人」だということでした。データをどう扱うか、AIをどう使うかを決められるのは、人しかいない、と。

印象的だったエピソードがあります。F1ワールドチャンピオンを4度獲得しているマックス・フェルスタッペン選手の話です。F1マシンには数百というセンサーがついているのですが、あるテストの際、フェルスタッペン選手がピットに車を戻して降りたとき、「ステアリングがおかしい」とぼそっと言ったと。センサーは何のエラーも検知していなかったのに、後日ファクトリーでの分解検査で、実際にステアリングの異常につながる原因が見つかったそうです。数百のセンサーよりも、人間こそが最良のセンサーだった、という話です。

限られた時間とコストの中でAIをどう駆使するかを考えるのは、あくまで人間です。機械に頼りきるのではなく、人がAIの適切な活用を考え、審美眼を高めていく。これはクリエイティブの世界にも、そのまま通じる話だと感じました。

Oracle Red Bull RacingのCEO兼チーム代表であるローラン・メキース(Laurent Mekies)氏が登壇したセッション

Oracle Red Bull RacingのCEO兼チーム代表であるローラン・メキース(Laurent Mekies)氏が登壇したセッション

「伝える」から「体感できる」ブランドへ

ーーコンスタンスさんが印象に残ったセッションにも、共通するものがありましたか。

コンスタンス:いまは調べ物ひとつとってもAIを使う時代で、デジタル広告やマーケティングは、人間が見る想定ではなく「AIが見る想定」で、AIに選ばれるかどうかを前提につくられ始めています。それを踏まえて印象的だったのが、The Coca-Cola CompanyのVP of Global Design、ラファ・アブレウ(Rapha Abreu)氏の話でした。

コカ・コーラは社内にデザインシステムを構築し、AIを活用した広告制作にも取り組んでいます。彼が言っていたのは、「デジタルはデジタルで、AIに向けた広告をつくっている。でも、企業として最終的に考えなければいけないのは、商品のエンドユーザーは結局、人間だ」ということです。

世の中にあらゆるものが溢れて、アテンションを奪うこと自体が難しくなっている。だから「伝える」だけでは、そもそも届かない。ブランドの世界観をしっかりとつくり込み、ユーザーが「このブランドの世界観に巻き込まれたい」と思うようなーー彼の言葉では“Liveable”=「住み込みたくなる(没入できる)」ような世界観をつくる体験設計に力を入れている、と話していました。ゆくゆくは日本も、そうなっていくと思います。

ラファ・アブレウ氏のセッションでは、AIを活用した広告における人間の役割、係わり方について語られた

ラファ・アブレウ氏のセッションでは、AIを活用した広告における人間の役割、関わり方について語られた

「AIを使っていません」に、拍手が起きた

ーーカンファレンス以外では、ムービー作品もご覧になったそうですね。こちらもやはりAI一色だったのでしょうか。

関口:SXSW Londonの映画部門は、展示会場ではなく街の中のシアターで上映されていました。インディーズの短編が中心で、少人数のチームで自主制作しているような作品が多い。日本でいえば、フィルムフェスティバルに近い雰囲気でしたね。

コンスタンス:面白かったのは、カンファレンスがほぼAIの話一色だったのに対して、映像や音楽はフェス寄りの立ち位置で、むしろ「あえてAIを使わない」ことが良しとされる空気があったことです。上映前に「この映像はAIを使っていません」とアナウンスされると、客席から拍手が起きるのです。

AI作品のカテゴリーもあるのですが、「このツールでこういう表現ができるから、こういうストーリーにしました」というツールファーストの作品が多くて、何のためにつくったのか、心が入っていないと感じるものが少なくありませんでした。だからこそ、作品性のあるものが次に来るべきだ、という風潮を感じました。

スクリーンフェスティバルではトークも行われた

スクリーンフェスティバルではトークも行われた

米国は「競争」、欧州は「人間性」、日本は「リスク」

ーーここからは、視察全体を通して感じたことをうかがいます。日本やアメリカで語られるAIと、ロンドンでのAIに違いはありましたか。

コンスタンス:アメリカは「新しいサービスは自社(自国)が一番だ」という、勝つべき競争としてAIが語られている印象があります。一方でロンドンのカンファレンスでは「人間とは何なのか」「人間性を取り戻すためには」というテーマが本当に多かった。AIそのものではなく、「AIがあるからこそ、人間をどう捉え直すか」にフォーカスしているのです。

日本の場合は、よりAIを実務に落とし込むことを優先しているように感じます。アメリカは勝つべき競争として、ロンドンは人間性を取り戻す問いとして、日本は業務推進において管理すべきリスクとして語られるーーそんな違いを感じました。

関口:日本ではAIが業務効率化や課題解決に対する対症療法的な「処方箋」のようになってしまっている、ということですよね。それだと効果は一時的なものにしかならない。

コンスタンス:そうなんです。新しいものが出たらキャッチアップして、また出たらキャッチアップしてーーの繰り返しになってしまう。

もうひとつ強く感じたのは、クリエイティブの未来もAIの未来も、英語圏・欧州の枠組みで語られているということです。登壇者も、引用される事例も、語られる市場も、ほとんどが米国と欧州でした。日本は、声としても資料としても、サンプルとしてすら出てきませんでした。

本当に考えるべきは「AI観」の違いというより、その物語をずっと輸入して受け取っている私たちの立ち位置をどうするか、だと思います。自分たちの視点から発信する側に回らないと、海外から輸入したものをそのまま使い続けるだけでは、いずれアイデンティティを失うのではないかという危機感があります。

関口:いまの話は、国民性にも関わると思っていて。日本は昔から、隣の人に合わせる同調・協調の感覚が強いですよね。何かを不便だと思っても「周りもこれでやっているから、これでやりましょう」となってしまう。ここ最近、日本でイノベーションが起きにくくなっている一因だと思います。欧州や米国では、不便なら自分でアプリをつくってみんなの課題を解決しよう、という発想に至る人の割合が多い。不便を不便なままで終わらせない、「違和感を持つ大切さ」は、今回ロンドンに行って強く感じたところです。

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クラフトマンシップは「どうつくるか」・アートは「いつ止めるか」

ーー毎日のようにAIと向き合いながらクリエイティブ制作に携わるコンスタンスさんは、「つくる人」はAIとどう向き合うべきだと感じましたか。

コンスタンス:現地で聞いたセッションの中に、印象的な言葉が2つありました。ひとつは、Picsart社のプロダクト担当、ゲヴォルグ・カザリャン(Gevorg Kazaryan)氏によるセッションで語っていた「AIは違う角度を見せてくれるだけで、テイストは決めてくれない」という話。もうひとつは、世界的DJ・音楽プロデューサーのレイドバック・ルーク(Laidback Luke)氏が登壇したセッションでの「直すべきところがひとつも残っていない、と体で感じた瞬間が完成」という言葉です。

つまり、クラフトマンシップとは「どうつくるか」を知っていること。そしてアートとは「いつ止めるか」を知っていること。この“止め時”の判断は、AIにはできません。手を動かす部分がどんどんAIに置き換わっていく中で、人間の役割は、意図や判断、そして「これでいい」と止めきることになっていくはずです。

ただ、注意が必要なのは、その判断や意図といったスキルは、実際に自分の手でつくることでしか磨かれない、ということです。つくる機会そのものがAIに置き換わって減っているいま、最初から全部AI任せの人は、どこかで頭打ちになるのではないかと思います。自分の体でつくることを忘れて、審美眼や意図、判断までAIに委ねてしまうと、それはもう“洗脳”されているのと変わらないのではないでしょうか。

Picsart社ゲヴォルグ・カザリャン氏によるセッションはCreative AI Agentsがテーマ

Picsart社ゲヴォルグ・カザリャン氏によるセッションはCreative AI Agentsがテーマ

日本におけるクリエイティブは、どこへ向かうべきか

ーー最後に、日本の広告宣伝・広報・マーケティングの担当者が学ぶべきことがあれば教えてください。

コンスタンス:SNSやデジタル広告はすでに世の中に溢れていて、量で戦っても勝てません。だからこそ海外では、デジタル広告をあえて減らして、リアルの場で体験してもらうーー五感に訴える方向への揺り戻しが起きています。みんなスクリーンに向き合いすぎて、脳も目も疲れてしまっている。だからいま、コンサートのようなリアルの場がすごく盛り上がっているし、リアルのポップアップイベントも増えていますよね。

関口:日本企業ではいま、あらゆる話の主語が「AI」になっていて、新しい領域に触れることに精神的に疲れている人や、日々の業務に忙殺されている人も多いと思います。だからこそこれからは、インプットや体験に価値が出てくるはずです。サウナやデジタルデトックスが話題になるのも根は同じで、体験が重要になっていくのだと思います。

ーーそうした潮流の中で、アマナとしてはAIとどう向き合っていきますか。

関口:私は撮影の現場に立つことも多いのですが、食べ物や飲料のような、人が五感で感じるものーー特に口に入れるものの表現には、職人技、クラフトマンシップが凝縮されていると感じます。アマナはそういう撮影を積み重ねてきた会社で、私自身、そのクリエイティブの力に魅力を感じていますし、捨てるべきではないと思っています。

一方で、たとえば自動車のように機密性が高く外に持ち出せない場合があります。アマナのCGチームcroobi(クロオビ)」では、これまでのCM・映像制作で培ってきたCG背景素材のストックをAIに読み込ませて活用する、といった取り組みをすでに行っています。

クリエイティブの力に、AIという武器を追加する。実際にクライアントからの評価にも手応えを感じています。コアになるイメージはフォトグラファーがきちんと撮影し、そこからの展開バリエーションにAIを活用するなど、AIとの融合を推進しています。

コンスタンス:AIは、量産が必要な場面では速いし安いし、補える部分がすごく多いのです。ただ、AIでつくれるものには限界があって、「これがいいのか悪いのか」を判断できる人がいなければ、必ずどこかで壁にぶつかります。その限界に達して「じゃあ、どこに頼もうか・相談しようか」となったとき、頭に浮かぶ存在でいられるかどうか。AIができることの、その上に立てるかどうかーーこれからのクリエイティブには、「判断する力」がより求められるのではないでしょうか。

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コンスタンス・リカ(左)、関口拓真(右)

 

AIの祭典で2人が持ち帰ったのは、逆説的にも「人間」というキーワードでした。常識の一歩先を行く発想を持つこと。違和感を手放さないこと。自分の手でつくり、審美眼を磨き、「いつ止めるか」を判断できること。AIが日常になった時代のクリエイティブの価値は、その人間の側にこそ宿るーーSXSW Londonの現地から見えた、確かな兆しです。

 

取材・文:桑原勲
撮影:関口拓真(アマナ)

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A³|amana AI Architectsは、「AIの進化を、美意識の進化へ」というビジョンのもと、生成AIを“ブランドに最適化する”ソリューション「AI Creative Architecture」を核に、企業のブランド表現を次世代の制作基準へアップデートするプロフェッショナル集団です。

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