ビジネスパーソンは要チェック。「百年の編み手たち-流動する日本の近現代美術-」展

展示室B2Fの第10〜14章の展示スペースを担当した、キュレーターの藪前知子さん。個展も担当した、思いの深い作家である、大竹伸朗『ゴミ男』(1987)の前で。

話題の展覧会を見ながら「アートとは何か」について学ぶ企画。今回、取り上げるのは東京都現代美術館で開催中の「百年の編み手たち-流動する日本の近現代美術-」です。ビジネスシーンに必須とされるアートの素養を鍛えてみませんか。

令和の時代が始まる少し前、東京都現代美術館(以下、MOT)は約3年間の休館を経て、2019年3月末にリニューアル・オープンを迎えました。開館当時は東京のはずれのごとく言われた清澄白河も、サードウェーブコーヒーのブームなどもあり、今や話題のエリアです。

リニューアル・オープン記念の展覧会は、時代を振り返るのにぴったりの「百年の編み手たち-流動する日本の近現代美術-」です。1910年代~現代の日本美術を一挙に体感! 「編集」をキーワードにおよそ100年間を再考し、3フロアに600点を超える作品が並んでいます。「ビジュアルシフト」では、特に「平成」の時代に的を絞り、キュレーターの藪前知子さんにおすすめの5作品を選んでいただきました。

東京都現代美術館キュレーター・令和の時代が始まる少し前、東京都現代美術館(以下、MOT)は約3年間の休館を経て、2019年3月末にリニューアル・オープンを迎えました。開館当時は東京のはずれのごとく言われた清澄白河も、サードウェーブコーヒーのブームなどもあり、今や話題のエリアです。 リニューアル・オープン記念の展覧会は、時代を振り返るのにぴったりの「百年の編み手たち-流動する日本の近現代美術-」です。1910年代~現代の日本美術を一挙に体感! 「編集」をキーワードにおよそ100年間を再考し、3フロアに600点を超える作品が並んでいます。「ビジュアルシフト」では、特に「平成」の時代に的を絞り、キュレーターの藪前知子さん

<PROFILE>藪前知子 | Tomoko Yabumae。東京都現代美術館学芸員。企画担当した展覧会に「大竹伸朗 全景 1955-2006」(2006)、「山口小夜子 未来を着る人」(2015)、「おとなもこどもも考える ここはだれの場所?」(2015)など。札幌国際芸術祭2017企画メンバー、αMプロジェクト「東京計画2019」キュレーター。

まず、「平成のアートとは?」と藪前さんに聞いてみました。

「平成の美術史は今後語られていくと思いますが、このMOTが1995年(平成7年)に開館したこともあり、95年が日本社会の一つの分岐点だったと思っています。95年は戦後50年であり、阪神・淡路大震災や地下鉄サリン事件があり、Windows95が発売されたインターネット元年でもありました。グローバリゼーション、バブル経済の崩壊、東日本大震災……そのような社会の変化の流れに、作家がどう抵抗したか……が平成のアートの有り様だった気がします」と藪前さん。そんな平成を鑑みて、「何らかの形で時代が印象づけられた5点」を選んで、解説をしていただきました。制作年代順にご紹介します。

1:小沢剛 『地蔵建立 上九一色村、1995年8月10日』(1995)

小沢剛≪地蔵建立 上九一色村、1995年8月10日≫1995

小沢剛≪地蔵建立 上九一色村、1995年8月10日≫1995

1989年、厳戒令下の北京・天安門広場、オウム真理教の麻原彰晃が逮捕されて3カ月後の上九一色村など、世界的に関心の集まる場所に自ら足を運ぶ。そして、その光景にそっと地蔵を思わせる絵やイメージを加えて撮影する。

「アーティストの日記のような作品で、変わりゆく世界と個人の関係が浮かび上がる。今なら、Instagramで簡単にできるようなことで……インターネット時代の個人のあり方に通じる作品」と藪前さん。同シリーズには、ぱっと見では地蔵がどこにあるかわからない作品もあり、地蔵探しをしながら光景に引き込まれる。

2:会田誠『美しい旗(戦争画RETURNS)』(1995)、『たまゆら(戦争画RETURNS)』(1999)

会田誠《美しい旗(戦争画RETURNS)》1995(右)/《たまゆら(戦争画RETURNS)》1999(左)

会田誠《美しい旗(戦争画RETURNS)》1995(右)/《たまゆら(戦争画RETURNS)》1999(左)

『美しい旗』に描かれる、旗を振る韓国と日本の少女。ナショナリスティックに見えるが、実は何を意味しているかは不明瞭。『たまゆら』に描かれているのはとてもパーフェクトな爆破で、周囲の風景は牧歌的ですらある……。

藪前さんは「第二次世界大戦中に描かれた、いわゆる『戦争画』は、国威掲揚というイデオロギーのもとに描かれたものですが、この絵は一見それらしいけれど実は何も言っていない。そこに戦争と、50年経ったところにいる作家の距離をリアルに感じられるのではないでしょうか。」と言う。現代人気作家の代表作の一つで、ぜひ見ておきたい。

3:Chim↑Pom『BLACK OF DETH』(2007-08)

Chim↑Pom《BLACK OF DEATH》2007-08

Chim↑Pom《BLACK OF DEATH》2007-08

国会議事堂の前で、ファッション雑誌よろしくポーズをとる女性が掲げたものは、なんとカラスの剥製。カラス駆除について物議を醸していた東京で、剥製と拡声器から流すカラスの鳴き声で仲間を集めてみる……という実験的作品である。

「2000年以降、社会問題が起こっている現場に直接身体を介入させ、問題を可視化させるアーティストが世界中で活発に活動していきます。彼らはその代表的な存在」で、「カラスに象徴されるような、異なる価値観を持つ他者との共存」を提議している、と藪前さん。「一連のプロジェクトでは、アーティストはカラスと一緒に密室で過ごし、死んでしまったカラスを最後には食するなど、きれい事だけではない他者との関係、共存の問題を突き詰めていきました」。

4:梅沢和木『とある現実の超風景2018ver.』(2011/2018-19)

梅沢和木≪とある現実の超風景 2018ver.≫2011/2018-19

梅沢和木≪とある現実の超風景 2018ver.≫2011/2018-19 協力:新津保建秀

インターネットのお絵描きサイトに集まる画像や作家自作のキャラクターを細分化しコラージュして作り上げた巨大風景。そのベースにあるのは、2011の東日本大震災の後の被災地の写真であるという、不思議な世界観をもつ作品。

藪前さんによると、「ネット世界に渦巻く欲望を造形的な力として吸い上げつつ、現実世界との摩擦を問うような作品」なのだそうだ。

5:毛利悠子『I/O』(2011-16)

毛利悠子《I/O》2011-16

毛利悠子《I/O》2011-16

国際的に注目を集めるアーティストのインスタレーション。展示環境にある情報を作品が読み取って、作品自体を変化させていく。天井から床へと回っている紙が床の汚れを読み取り、それをセンサーが信号に変換すると、床に置かれた鼓笛隊で見る房(ベルリラ)やブラシが、さてどうなるのでしょうか?

「平成を通じて、作家の存在は、作り手というよりは、この展覧会が「編み手」と呼ぶような媒介者的な存在になっていったと言えるかもしれません。作品は、一作家という個人の限界を超え、作品自体が一つの生態系のように、自ら生まれ変わり続けていきます」と、藪前さん。確かに、未知の生き物との遭遇って、実はこんな風かもしれない……と思えてくる。

泉太郎『Butter』(2010)

泉太郎『Butter』(2010)の前で。

最後に藪前さんに、「令和」について聞いてみました。

「アーティスト本人は元号という記号的なものよりも社会の生の動きに反応し続けていますから、元号が変わっても何も変わらないと思う。むしろオリンピックの盛り上がり以降に、どう社会が変わっていくのかについて注視しているのではないか……と思っています」

東京都現代美術館エントランス

東京都現代美術館では、MOTコレクション第1期『ただいま/はじめまして』展を同時開催中。購入時にその価格が話題になったロイ・リキテンスタインの『リボンの少女』から始まり、修復が終わり元の場所に戻った宮島達男のデジタルカウンターを使った名作で終わる、充実の展覧会もお見逃しなく。

鑑賞後に新しくなったカフェや美術図書室を回っていたら、すぐに半日は過ぎてしまいます。お越しの際は時間に余裕をもってどうぞ。

「百年の編み手たち-流動する日本の近現代美術-」

会期:~2019年6月16日(日)
会場:東京都現代美術館
休館日:月曜
開館時間:10:00〜18:00 *展示室入場は閉館30分前まで
観覧料:一般1300円、大学生・専門学校生・65歳以上 900円、中高生600円、小学生以下無料、団体割引あり。企画展のチケットでコレクション展も観覧可能。

 

撮影:川合穂波(アマナ)

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