連載「写真の権利」、第6回のテーマは、ストックフォト利用者が知っておくべき、「センシティブ使用」についてです。ロイヤリティフリーのストックフォト(写真素材)だからといって、どんな使い方をしてもいいわけではありません。詳しくみていきましょう。
※2020年11月27日更新
前回の記事「ロイヤリティフリー画像も要注意!モデルの肖像権と使用許諾とは?」では、人物写真を広告などに使用する場合、
● 被写体である人物モデルと肖像権の利用に関してしっかりとした合意をしておくこと
● 口答ではなく書面にて明文化されていること
の重要性をお話しました。
今回はこの合意内容とも関連するもう一つの重要事項として「センシティブ使用」という概念に関して解説します。
「センシティブ使用」とは、文字通り「微妙で慎重を要する使用」ということで、被写体である人物モデル本人、もしくは関係者が不快に感じる可能性がある使用の仕方や表現方法を指します。
不快に感じるかどうかは人それぞれの感覚や感情による部分もあり明確なガイドラインを設けることが困難です。したがって、使用する側がそのことに気付くなり、配慮しなくてはいけません。
ストックフォトとして流通している日本人の人物写真を、ネット広告などに利用する場面を想定してみましょう。
写真素材の提供サイト上では「モデルリリース(肖像権使用同意書):取得済み」となっているとします。
『モデルリリースが取得されている人物写真素材は、どんな使い方をしても問題ない。
ましてやロイヤリティフリーなのだから、全然問題ない』と思っていませんか?
この認識は大きな間違いです。そう思っているあなたは、まさに「トラブル予備軍」のお一人と言えるかもしれません。
まず知っておいていただきたいのが、写真素材を提供するほとんどの会社やサービスサイトにおいて、このセンシティブ使用を禁止行為の一つとして定めていることです。
センシティブ使用に当てはまる使い方をした場合は、”ルールを守っていない不正な使用”ということになりますから、仮にモデル側から激しいクレームや使用の差し止めが行われたとしても、すべて使用者側の責任で対処しなくてはいけないということになります。
前述の通り、使われ方を不快に感じるかどうかは、人それぞれの感じ方によるものなので、なにがセンシティブ使用に該当するのか明確なガイドラインを設けることができません。
そこで、参考までに代表的なセンシティブ使用の例をいくつか挙げてみました。しかしこれに限定されるものではありませんので、その点もご注意ください。
● 痴漢防止ポスターのイメージにサラリーマン男性の写真を使用
● 危険ドラッグの禁止ポスターに笑顔の青年の写真を使用
● 児童虐待をテーマにしたキャンペーンビジュアルに親子の写真を使用
● メタボリックなイメージに中年男性の写真を使用
● 認知症予防のイメージにお年寄りの写真を使用
● 重大疾病や性病患者のイメージとして使用
● 精力剤の愛飲者として中年男性の写真を使用
● 実際には20代の女性モデル写真を40代として広告に掲載
● 葬儀会社のホームページなどで遺影イメージとして使用
● 特定の宗教法人の信者イメージに女性の写真を使用
● 特定の政治団体の会報誌の表紙に笑顔の人々の写真を使用
● 特定の考え方に賛同もしくは否定するモデルとしての写真使用
● 風俗店で働くことを検討している女性のイメージとしての使用
● 従業員イメージとして若い女性の写真を使用
● 婚活サイトの登録者イメージとして男女の写真を使用
これまで私が見聞したセンシティブ使用に起因するトラブルでは、制作した印刷物の回収やモデル側への謝罪など、広告主であるクライアントをも巻き込んだ大変な事態に発展してしまったケースが数多くあります。
表現方法や内容が「センシティブ使用」になっていないか?
これは、人物写真に限ったことではありません。撮影用の小道具や、場合によっては撮影場所に関しても起こる可能性があります。
最近、CMでの表現や遊戯施設のアトラクションに関して、「配慮を欠いている。不快だ。」として、世の中から大きくバッシングをうけてしまった例もいくつかありました。
クリエイティブ制作の現場においては、伝えたいメッセージや表現を追い求めた結果、それに関わるスタッフ全員がこの部分の配慮をおろそかにしてしまう危険性は十分にあります。ぜひ制作プロセスのチェックポイントの一つとして加えてみてはいかがでしょうか。
センシティブ使用でのトラブルは本当に厄介です。くれぐれも、誰かが不快な思いをしないかという客観的な視点を忘れず、世の中があっと驚く斬新なクリエイティブを追求したいものですね。
※2020年11月27日更新