広告からオウンドメディア、SNSに至るまで、伝わるコンテンツを制作する上で、写真の活用はとても効果的です。しかし、使い方を間違えると思わぬ権利トラブルのもとにもなりかねません。そこで、連載「写真の権利」では、日ごろビジュアルを取り扱うシーンや被写体のタイプに合わせて、関連する権利にフォーカスし、気をつけるべきポイントや必要な知識を全6回にわけて解説。第1回のテーマは、「人が溢れる街の写真」の使用についてです。
※2020年11月27日更新
この渋谷のスクランブル交差点を撮影した1枚の写真。何気ない街の写真ですが、ビジュアル制作という観点で捉えた場合、どんな権利が潜んでいると思いますか?
まずは手前に写っている雑踏を行き来する人々。当然ここには肖像権の問題が考えられます。そしてビルの上の看板に掲げられた企業のロゴマーク、これには商標権が。もしビル壁面の大型ディスプレイに有名なタレントやアーティストが写っていれば、パブリシティ権に絡む問題が潜んでいるかもしれません。
さて、この写真を、このままのトリミングで広告の背景写真として使用したとします。はたしてどこまでの権利処理が必要でしょうか?
実は、法的な観点で見た場合、ほぼ何の問題もないと言えるのです。この写真はあくまでも渋谷駅前の風景写真であって、手前に写っている人たちや看板を掲げている企業に対して何ら直接的な害を及ぼしているとは考えにくいからです。
しかしながら無用なクレームを避ける、事前のリスクヘッジという意味では、手前の顔写真部分にぼかしやブレを入れるなどの配慮はたいへん重要な気付きと言えるでしょう。
今度は、この写真の看板部分だけを大きくトリミングして使用したらどうなるでしょう。それまでは渋谷の風景だったはずの写真が、その瞬間に特定の企業のロゴマークの写真になってしまいます。そんな写真を仮に他の企業の広告に使用されたとしたら、場合によってはフリーライド※としてクレームや損害賠償につながったりするケースも考えられます。
※フリーライド:他社の築き上げた信用や価値に便乗して利益をあげようとすること(=ただ乗り)
では、どこまでのトリミングが渋谷の風景を捉えた写真で、どこからがロゴマークの写真なのでしょうか。実にやっかいな問題です。このように写真や動画などの画像というものは極めて曖昧なグレーゾーンを含んでいて、そのレイアウトの仕方や表現によって、トラブルの種類やリスクの規模も大きく変わってしまうと言えるでしょう。
合法か違法か?という判断が注目を浴びがちですが、実際はそれ以前の、クレームやトラブルといった事例が80%を占めます。それらを防ぐためには、何気ない1枚の写真にもさまざまな権利が含まれていることを理解し、基本的なリテラシーを身につけることが大切です。加えて、「法的にどうなのか?」だけではなく、「もしかしたら不快に感じる人がいるかもしれない」という、ケア・配慮の視点を持つことが、リスクを減らすことにつながります。
次回からはトラブルになりがちな具体的なケースを取り上げながら、ビジュアルの権利処理に関する注意点やポイントと、トラブルを未然に防ぐためのノウハウをご紹介していきます。
※2020年11月27日更新