2024年は、画像生成AI(ジェネレーティブAI)技術が企業の広告・マーケティング戦略に多大な影響を与えた年でした。画像生成AIの進化により、よりクリエイティブでインパクトのある広告表現が可能になったことで、多くの企業が新技術を活用してターゲットとのコミュニケーションを強化しています。
本記事では、2024年に注目された画像生成AIのトレンドや、広告表現における変化を振り返り、2025年に向けた展望を解説します。
2024年、画像生成AIは精度や多様性の面で大きな進化を遂げました。AIモデルの性能向上により、従来の広告制作手法では実現しづらかったクリエイティブ表現が可能になり、企業の広告戦略における新たな可能性が広がった一年であったと言えます。
主な進化ポイント
・解像度とディテールの向上:高精細なビジュアル生成が可能になり、リアルな質感表現が実現
・スピードとコストの削減:大量のビジュアルを短時間で作成可能になり、制作コストを大幅に削減
・表現の幅の広がり:ファンタジー、抽象表現など、実写では難しいイメージもAIで手軽に生成
これらの進化を活用し、特に短期間で多様なビジュアルを用意することが求められるキャンペーンやプロモーションでの活用が拡大しています。また、「パーソナライズド広告」の分野では、個々のターゲットに合わせてAIが自動的に最適なイメージを生成することが可能になり、広告のエンゲージメント効果を高めています。
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2024年の広告表現において、画像生成AIはユニークな役割を果たしました。以下は特に注目されたトレンドと活用事例です。
AI生成の画像をユーザーがカスタマイズできるインタラクティブな広告は、ブランド体験を強化します。例えば、コカ・コーラ社は、画像生成AIの技術を取り入れた新しいプラットフォーム「Create Real Magic」を開設。ユーザーは、ブランドを象徴するボトルやロゴを含むブランドアセットと生成AIを駆使して、アート作品を制作することが出来ます。
他の事例として、カタール航空は最先端の画像生成AI技術を活用した世界初のインタラクティブな広告キャンペーン「AI Adventure」を展開。ユーザーがアップロードした顔写真を基にAIがキャラクターを生成し、同社が制作したオリジナルの短編映画に登場させてくれるという斬新な体験を可能にしました。
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アパレル業界でも積極的に生成AIが活用されています。最近では、AIを使ってユニークで独創的なファッションデザインを生み出す「The New Black」などのサービスや、AIでデザインされた衣服限定のファッションショー「AI FashionWeek」が注目を集めました。また、ファッション・ライフスタイル誌『VOGUE』のイタリア版では、表紙のファッション撮影に画像生成AIを活用。スーパーモデルと幻想的な背景が融合するビジュアルを提供しました。
これらアパレル業界での生成AI活用は、デザイン段階での利用資源削減、AI×ARを活用したオンラインフィッティングによる返品や物流負担の削減など、サステナビリティやエコの観点からも注目されています。
画像生成AIを広告に活用する際、いくつかのリスクや課題もあります。ここでは、企業の宣伝広告担当者が考慮すべきポイントを解説します。
・著作権と倫理的問題
生成された画像が他のアーティストの作品やデザインと似ている場合、著作権問題が発生する可能性があります。また、AIで生成した誤解を招くような画像を公開してしまった場合、ブランドイメージに悪影響を及ぼすリスクも否定できません。
・信頼性の確保
特にディープフェイク技術との連携によるパーソナライズド広告は、消費者に不信感を抱かせる恐れがあります。そのため、企業は透明性を確保し、AI生成であることをユーザーに明確に伝えることが求められています。
・偏見と差別のリスク
AIが生成する画像には、データバイアスが影響する場合があり、無意識に偏ったイメージが生成されるリスクがあります。特に、広告で使用する場合は、こうした偏見がターゲットにネガティブな印象を与えないよう注意が必要です。
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2025年には、さらに進化した画像生成AIが企業の広告戦略において重要な役割を果たすと予測されます。一方で、「何から始めたらいいんだろう?」と悩まれているマーケティング・広報担当の方もいるかもしれません。ここでは、今後の予測トレンドとそのために企業が準備すべきポイントを解説します。
・リアルタイムでのパーソナライズ
AIは、ユーザーのデータや行動に基づきリアルタイムでビジュアルを生成する能力を持つようになることが予想されています。ターゲットに合わせてスピーディーに広告を生成することが可能になり、個々のユーザーのニーズに応じたインタラクティブなコミュニケーションが強化されます。実際の例として、アドビ社がターゲットオーディエンスに最も響くコンテンツの属性を特定し、今後どんなコンテンツを作成するべきかの情報を提供する「Adobe Experience Cloud」の提供を開始しています。
・クリエイティブプロセスの自動化
AIによるクリエイティブ制作の自動化が進み、広告制作の効率化がさらに加速することも想定されます。一方で、AI活用を本格化するにあたって、これまでのクリエイティブプロセスが最善とは限りません。一例として、John Maeda氏は「DESIGN IN TECH REPORT 2023」の中で、新たな生成AIの活用に特化したデザインプロセスを示しています。企業にとっては、クリエイティブディレクターやデザイナーの役割を再定義し、AIと人間の協働による価値創出を改めて検討する時期が来たと言えます。
・AIガバナンスとエシカルなAIの利用
透明性と信頼性を確保するため、AIガバナンスや倫理的なガイドラインが重要になります。企業は、クリエイティブプロセスのみならず、広告制作の初期段階から倫理性を考慮し、AIが生成したコンテンツが社会的に受け入れられるものかを評価する体制を整えることが不可欠です。アマナにおいても、コンテンツ生成の方法や事例、個人情報保護・著作権侵害・商用利用等に関する知識の習得を認定する「生成AIパスポート試験」の取得を強化しています。
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最後に、画像生成AIを効果的に活用するための具体的なポイントを以下にまとめます。また、経済産業省からも「コンテンツ制作のための 生成 AI 利活用ガイドブック」が公開されていますので、参考にしてみてください。
・戦略的なビジュアル設計
画像生成AIを活用する際は、単にツールとしてではなく、広告戦略全体の一部として位置づけ、ターゲットに最適なビジュアル設計を行うことが大切です。同時に、倫理的なガイドラインを整備し、広告としての透明性と信頼性を高めることも不可欠です。
・迅速なPDCAサイクル
画像生成AIは大量の広告案を瞬時に生成することも可能で、結果として広告案作成→出稿→効果測定→広告案改善という一連のサイクルを飛躍的に加速します。効果測定がしやすいというメリットを活かし、データに基づいたPDCAサイクルを短期間で回し続けることで、最適化を続けることがポイントです。
・社内外の協力体制
AIを使った広告制作には、従来と異なる新しいスキルと知識が求められます。社内のクリエイティブチームのトレーニングやAIの専門家との連携を強化し、最新のトレンドと技術に対応できる体制を整えることが、成功の鍵となります。
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2024年の画像生成AIは、広告・マーケティング業界に大きな影響を与えました。今後も画像生成技術は進化を続け、企業の宣伝広告の在り方を大きく変えると期待されています。
企業の宣伝広告担当者としては、画像生成AIの活用を戦略的に検討し、透明性と信頼性の担保に努めながら、広告表現やターゲットとのコミュニケーションにおいて新しい可能性を探ることが重要です。
文:田中良
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