グローバルな総合空調専業企業として、170カ国以上で事業を展開しているダイキン工業。環境負荷を減らしながら人や空間が健康で快適な社会を目指し、地球規模の課題にチャレンジし続けています。
ダイキン工業のテクノロジー・イノベーションセンターには多くのインハウスデザイナーが在籍しており、人々の健康と快適を支え、空気と環境の新しい価値のための製品作りを支えています。グローバル化が進む中、さらなる高みを目指すために彼らの「生み出す力」を目覚めさせ、活性化させるにはどうしたらいいのでしょうか。「UI/UXの知見や発想力を鍛えたい」という課題をテーマに、デザイン部所属のメンバーに向けて2025年7月に実施されたamana Creative Campについて、小菅啓靖さん(ダイキン工業/テクノロジー・イノベーションセンター/先端デザイングループ主任技師)と吉川和也(アマナ/プロデューサー)に聞きました。
インハウスの組織は以前からダイキン工業にあり、プロダクトなどのデザインの知見や経験値はすでに実績として確立されていました。さまざまな変化や進歩がある業界において、新しいフェーズに組織としてレベルアップするために、今一度インハウスの可能性を客観的に理解したり、AIの技術を活用して、UI/UXの提案レベルを向上していきたいという思いがあり、amana Creative Campの相談につながりました。
「会社が成長するにしたがって、海外拠点の数やデザインに関わるテーマが増えているものの、すべての拠点と過不足なく連携を取ることができている状態ではありません。デザイナー自身が課題を提示できる、アクションを広げられる、そういう提案型になっていくことで、もっとインハウスのポテンシャルを引き出せるのではないかと。私自身の立場が変わり、グループ全体を考えていく視点を持った時に、あらためてそう感じました」(小菅さん)
小菅啓靖|Kosuge Hiroyasu
ダイキン工業/テクノロジー・イノベーションセンター 先端デザイングループ主任技師
ダイキン工業株式会社に入社後、ベルギー、ドイツの駐在を経て、現在は横断的に国内外のメンバーとデザインの垣根を超えてブランドデザイン開発を行う。
積極性や自主性、創造性など、インハウスデザイナーにとって必要なさまざまなスキルやモチベーションを、もう一段階、上げることができれば、私達はもっと活躍できるのではないか――。そのためにUI/UXの知見を強化すること、さらにAIを活用して実務にすぐ生かせるような人材育成型のamana Creative Campを実施することになったのです。
amana Creative Campの実施内容について注力したのは、「一方通行の勉強的なセミナーではなく、明日からすぐに使える、インハウスデザイナーにとっての武器となるようなスキルが身につく内容にしたい」ということ。全体のテーマを「Creative Confidence」と設定し、主体的に「生み出す力」を呼び覚まし、クリエイティブな自信を育てることを目指しました。
ファシリテーションを務めたアマナの杉山諒。ダイキン工業のテクノロジー・イノベーションセンターにて実施。
前半では、デザインメディア『designing』の編集長・小山和之さんによる「インハウスデザイン組織の可能性」に関するセミナーを実施。最新事例も含めて他社のインハウスデザインの事例を紹介&解説していただきました。
「最新のデザイン事例や考え方を伝えるには、メディアによる発信を行っている小山さんなら、数多くの情報をお持ちのはず。またご自身が担当されているメディア内でもインハウスデザイナーに特化した企画をされており、今回のテーマと親和性が高いと考えて小山さんにオファーしました」(吉川)
「会社の中にいると、外が見えにくくなってしまいます。同じメーカーならまだ想像もつきますが、弊社と業態が違う、たとえば銀行のような企業では、インハウスデザイナーがどういう考えでどんな動きをしたことがアウトプットに結びついているのか、想像もつきません。小山さんの講義のおかげで、他の業態の動き方を学ぶことでより刺激を受け、美意識の活性化につながると気づくことができました」(小菅さん)
講師を務めた小山和之さん。
後半では、デザインとクリエイティブの力で革新を生み出す企業であるnaeの篠原由樹さんが登壇。「AIを活用したUI/UX開発プロジェクトの最前線」と題し、UI/UXにAIを組み合わせた考え方や作り方など最新の情報を伝えたうえで、参加者の皆さんに実際にAIを使ったワークショップを行うという、実践的なプログラムを指南していただきました。
「篠原さんはUI/UXを普段の業務で行われており、さらにはAIの知見もあるので、ご協力をお願いしました。アプリのUIなども取り上げたく、また実務に役立つ内容にしたかったので、適任だと思ってお願いしました」(吉川)
講師を務めた篠原由樹さん。
仮の商品を設定し、ペルソナ設計を行いAIを入れて調査を行うなど、実務で使うワークフローにAIを組み合わせて実際に動かしてみます。複数のAIツールの使い分け、AIを使ってのUI生成やUX検証など、次々と課題をこなすという、密度の濃いワークショップになりました。
「私もワークショップに参加しました。お題がどんどん出てくるので、追いつくのに必死で。とにかく夢中で手を動かして、作業に没頭しました。同じプロンプトを入れてもアウトプットのグラフィックがまったく違って出てくるから、『なぜそうなるのか』とお互いのワークを見せながら参加者同士でも盛り上がったのが楽しかったですね。インハウスデザイナー達が積極的にコミュニケーションを取りながら実務に役立つスキルを学ぶことができ、またさまざまな気づきが得られたと感じました」(小菅さん)
丸一日、amana Creative Campで手と頭を使った皆さんからは、「時短につながるヒントが得られた」「AI活用への自信がついた」「ダイキン工業のデザインはまだ高められることがある!」「あえて人間くさいデザイナーを目指したい」など、モチベーションの高い反応がありました。
「個人的には、アイデアラッシュなど企画の構想段階ではAIを使える場面が多いのだろうと予想していましたが、デザインのリサーチまでできるんだと新しい発見がありました。参加メンバーからは、AIを使えるようになったのでいろいろ試しているという話を聞いています。これまで社内にはChatGPTが実装されていましたが、心理的な抵抗があったのか使わない人もいました。でもamana Creative Campの後はみんながChatGPTを活用し始めて、AIへのハードルが下がったことを実感しました。
事前に、インハウスデザイナー達のAIリテラシーを一段階、上げられるといいなと思っていましたし、それが叶うことになってよかったと感じています」(小菅さん)
AI活用に対する理解の深化を促し、インハウスデザイナーの創造性強化へのきっかけとなった、今回のamana Creative Camp。ポイントとなったのは、AIの活用法を含めて次の日からすぐに使える実践的な構成にしたこと、それが参加者の皆さんにゴールとして体感していただけたことでした。
「アマナの外部パートナーに協力を仰ぐことで、ダイキン工業さんのご希望に沿った内容にカスタマイズできました。クリエイティブの会社として、人材ネットワークの強みが生きたと思います」(吉川)
「AIを使ったらもっと違う次元のものができるのではないかと、漠然と思っていたインハウスデザインの可能性について、大枠を理解することができたし良き一歩になりました」と小菅さんは語ります。
「私達の活動は『DAIKIN design』で伝えていますが、もっと発信力のアップデートをしていけたら。
世界ではますます競争が進んでいます。各国にさまざまな技術を持った会社がたくさんあって、そこに勝っていけるような高いレベルのデザイン性をインハウスデザイナー個人が持ちながら、他の部署と連携してアウトプットに生かせるような体制が作れるといいですね。そのためにも仲間を増やしたいですし、自分の好きなものは自然に伝わるから、そういったことをトリガーにして多くの人を巻き込んで、グローバルと対等に渡り合えるアイデアをいっぱい引き出せるような企画ができたらいいなと思います」(小菅さん)
<スタッフクレジット>
プロデューサー:吉川和也(アマナ)
プロジェクトデザイナー:杉山諒(アマナ)
講師:小山和之(designing編集長)
講師:篠原由樹(nae Inc.)
撮影:田中大介
取材・文:大橋智子
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複雑で先行きの見えない世界においては、 人本来の持つ創造性を解き放ち、主体性を持ち躍動できる人材が求められます。amana Creative Campでは、 再現性を持ったクリエイティブナレッジを提供することで、個の創造性を高めると共に、企業の競争力を高める文化創りへと導きます。