BtoBは共感の時代へ、スペックよりも伝わる情緒的な表現とは

vol.81

顧客との共感をデザインする BtoBブランディング

Text by Tomoko Sato
Photograph by Naoya Takahashi

企業のあらゆるコミュニケーション課題に向き合い、その解決方法を探る、アマナ主催のイベントが2022年5月25日に開催されました。8つのテーマを切り口に、先進企業の方々をゲストに迎えたトークセッションや講演、マーケットの今と未来をとらえたセミナーを実施。テーマ「顧客との共感をデザインする BtoBブランディング」の回を紹介します。


従来型のプロダクトアウトが届きにくく、ブランディングさえもコモディティ化して他社との差別化がはかりにくくなっています。アマナにて、コーポレートブランディングに携わる児玉秀明と数々のコミュニケーション施策に関わる鈴木陸が、 現場での経験から生まれたブランディング論や事例を交え、共感を生むことに重点を置いたアプローチを紹介しました。

BtoB企業を取り巻く環境の変化

児玉秀明(以下、児玉): BtoB企業が抱える大きな課題として、多様で複雑なステークホルダーへのコミュニケーションがあります。最近はステークホルダーマネジメントがよく言われていますが、多様なステークホルダーに対してどのようなコミュニケーションをしていくのかが非常に重要な時代になっていると思います。

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アマナの児玉秀明

児玉: 環境の変化として、情報収集がオンラインになって購買プロセスが変わり、購入決定者が自分で情報を取りに行く時代になりました。いちばんの変化は、経営者や役員クラスのいわゆる決済責任者が自ら取引先企業のホームページを見るかたちに変わってきていることです。

鈴木陸(以下、鈴木):より決裁権をもつ方が、現場レベルの情報ではなく、もっと大きな観点で企業を見ることだと思いますので、ブランドイメージやブランド力はより重視されるのではないでしょうか。

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アマナの鈴木陸

児玉:どんな意思決定者がいるか、かなり綿密にペルソナを設定することも、もしかしたら必要になってくるのかもしれません。

鈴木:決裁者の心を動かすことを狙いとした情報設計が、 BtoB の Web サイトやコミュニケーションに重要だと改めて思います。

ブランディングにおける感情の重要性

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児玉: Googleの調査にもあらわれていますが、BtoB マーケティングにおいて感性や感情の重要性が問われています。専門的な情報や機能的な価値、スペックだけではなく、情報や感情のつながりが求められ、特にリレーションシップマーケティングが重要になっていることが言えます。感情的に顧客とつながっている割合は、BtoCよりBtoBブランドのほうが非常に高いことが示されています。

鈴木:機能的価値は大前提で大事ではあるものの、それに加えて情緒的価値、感情を動かす視点もすごく大事になっています(機能的価値<情緒的価値)。情報提供だけでなくそれを見て共感して共創までつながる観点が、コミュニケーションを取るうえですごく大事です(情報提供<共感・共創)。

児玉:国際的なカンヌのクリエイティブフェスティバルでも、ここ数年でfor goodからpurposeへとコミュニケーショントレンドが変わり、企業が社会課題にどう向き合うかがより一層、重要になってきています。

鈴木:現場でもよく聞きます。purposeの再定義やpurposeを見つめ直すといったご相談や実際に動いた案件も多くあります。そのなかで、私がブランディングの現場で思うこと、気づいたことをお話しします。

世界はものすごく均質化・コモディティ化していることは今さら言うまでもないと思います。多くの企業がブランディングをして差別化を図っていますが、そのブランディングさえコモディティ化しつつある時代ではないかと思っています。

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鈴木: フレームワークは有効な手段の1つですが、そこに当てはめることが目的になる恐れがあります。言葉を変えて言うと、ブランディングは「HOW=どうつくるか」に意識がいきがちですが、大事なのはそこではなく「WHY=なぜつくるか」です。手段と目的が変わってしまうと、納得のいくアウトプットにたどり着けないと私は思っています。

機能的価値の洗い出しや整理は大前提として必要ですが、それを情緒的価値としてどう表現するか、自分たちのものであるという認識をどうつくるか、どうやったら共感・共創を生めるツールや施策に落とし込めるのか、といった目線を持ってプロジェクトを進めていくことが大切です。

児玉:現場から出てきた鈴木さんのブランディング論ですね。

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鈴木:はい。「From Promotion to Emotion」。プロモーションではなくエモーションをつくり、届ける、動かす。そんな視点を持って取り組んでもらえたらと思っています。

共感を生むブランディング事例

児玉:共感とはどういうことなのか、先ほど鈴木さんが話された機能的価値から情緒的価値というところを含めて事例をいくつか見ていきたいと思います。

1つ目は、ヤマハ発動機さんのリニアコンベアモジュール。ファクトリーオートメーションに使うハードです。YouTube のムービーに登場する片山 学さんはバスケットボール選手ではなくこのハードの設計者です。開発者が自分の言葉でこのモジュールの話をされますが、それをご自身が子供たちに教えているバスケットとうまく掛け合わせ紹介している点が共感性です。

鈴木:次はちょっと違う切り口で、Z世代の若者たちが購入サービスの利用先を選ぶ際に企業のpurposeを重視していることが調査結果としてもあります。この Z世代を 対象にコミュニケーションを取っている事例として、宣伝会議さんとアミューズさんが共催している企画でU25クリエイティブプロジェクトに参画したスリーボンドさんの事例です。これも動画で「絶対にくっついちゃう男」。ボンドのくっつくとスリーボンドさんのメッセージを彼らの目線でどう表現するかがおもしろいと思います。

 

鈴木:BtoBブランディングには、感性に意識を向けたビジュアルが必要という流れで、ビジュアルの話もできたらなと思います。ビジュアルには2つの機能があります。1つは情報を伝えること、もう1つは感性を伝えること。インフォメーションとエモーションと言えると思います。児玉さんの考えは?

児玉:これは脳科学の話で、ストーリー性・情感を司る扁桃体が海馬を刺激することで、より強い記憶につながります。知覚や感性で伝わることが脳の原理とも言えるので、ビジュアルの機能をうまく理解して情報設計するのは本当に必要だろうと思います。

鈴木:ビジュアルが機能して相手に伝わることが BtoB 企業のコミュニケーションの肝だと?

児玉:そうですね。特にグローバルでは、いわゆるノンバーバルのビジュアルの強さが共感を呼ぶと思います。クボタさんが日経広告賞の最優秀賞を受賞されたシリーズです。世界的な課題に挑戦する企業姿勢をうまく表現していると思います。

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児玉:右側は24時間働くトラクターという未来のスマート農業を表現していますが、宇宙をも感じさせる素晴らしい写真ですね。クボタさんは海外の売上が70%超。左の広告は世界の難しい課題に取り組む企業姿勢をアーティスティックに美しく表現しています。このように世界中で起きている課題を製品機能だけではなく、心に響く美しいビジュアルで表現している素晴らしい企業ブランディングだと感じます。

鈴木:地球スケールの無人トラクター自動運転技術が、どう世界に貢献するか。そんな強いメッセージを感じるビジュアルだなと個人的に思いました。

最後に視聴者の方から、「顧客体験全てがブランディングになると思います」との感想をいただきましたが、まさにその通りだと思います。ロゴデザインなどのアウトプットについ意識がいってしまいますが、つくるプロセス、顧客体験、タッチポイント全てがブランディングにつながります。

また、「ブランディングを推進するうえでチームモチベーションをどうやって保てばいいでしょうか」という質問ですが、これも我々の得意分野だと思っています。外部パートナーがいる意味でもありますが、皆さんにとっては当たり前のすごさを、言語化したり可視化するサポートができる点が、我々のユニークポイントだと考えています。

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