2025年CESの最新レポートと未来予測

vol.163

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Text by 徳尾 厚

SPEAKER スピーカー
  • 秋元 陸 (スタイラス ジャパン株式会社)

2025年1月7〜10日(日本時間)に米・ラスベガスで開かれた、世界最大のテクノロジー見本市「CES2025」。年々出展数や来場者が増加し盛り上がりを見せる本イベントでは、消費者の日々の生活をより良いものにしていくAI搭載デバイスや、新しい家電などさまざまなプロダクトがお披露目されました。

今回のウェビナーでは「STYLUS」の秋元陸氏が登壇し、CES2025で見られた多彩なプロダクトを取り上げながら、これからのテクノロジーの動向について考察。今年特に注目したい「AI導入」による各産業のこれからを予測しました。

世界中のテクノロジーが集結する見本市「CES」

CES(Consumer Electronic Show)はアメリカのラスベガスで毎年開催される家電見本市です。2025年は来場者14万人、出展数4,500以上、メディア関係者6,000人以上といずれも2024年を上回り、年々その盛り上がりは増しています。

さまざまな業界の著名人や、テクノロジー企業の代表者などによるキーノート(基調講演)も好評で、例年GAFAMやメジャーな自動車メーカー、航空会社など大手企業からスピーカーが選ばれます。2025年はNVIDAの創設者でありCEOのジェンセン・ホアン氏や、パナソニックHDのグループCEO楠見雄規氏などが登壇しました。

CESは大手企業が出展するイベントですが、展示内容はBtoC、消費者向けのエレクトロニクスデバイスが中心です。最先端のテクノロジーそのものを紹介するのではなく、「テクノロジーを活用した人々の生活を豊かにするソリューション」が並びます。

CESイノベーションアワードで新しい発見を

CESで特に評価の高かったソリューションや、自社の業界に関連するプロダクトを知りたいなら、「CES Innovation Awards®️」の活用が有用です。

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「CES Innovation Awards®️」は、CESを主催するCTA(Consumer Technology Association)が世界的課題に取り組むテクノロジーを表彰するもので、サイト上では受賞したプロダクトをジャンル・カテゴリー別でチェックできます。秋元氏は「自分が携わっている業界で、どのようなテクノロジーが高い評価を受けているかを知ることができる」と語り、テクノロジー活用の新たなソリューションの発見につながると解説しました。

7分野から注目のプロダクトを紹介

今回のウェビナーでは、CES2025から以下の7分野に注目。

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これらの中から、秋元氏はコミュニケーション型AIを活用したプロダクトや、ユーザーの生活を向上させる家電、次世代の自動車を支える技術、新たな美容テクノロジーなどを紹介しました。

人々に寄り添う「AIコンパニオン」

秋元氏が「今年のCESのキーワードの1つになっていると感じた」と紹介するのが「AIコンパニオン」です。AIコンパニオンは、AIを活用した対話型のパートナーやアシスタントで、単なる質問応答だけでなく、ユーザーと継続的な関係を築き、対話やメンタルサポート、健康管理などを提供します。

例えば、中国のエレクトロニクス企業「TCL」によるAIを活用したロボット「AiMe」は、ユーザーと対話しながらホームAIや色々なテクノロジーと連動し、ユーザーの生活を向上してくれます。

日本のMIXIも「Romi」というコミュニケーションに主眼を置いたロボットを開発しています。

ディスプレイに表示される表情バリエーションは150ほどあり、対話内容に応じて表情が変化。高齢者向け住宅や老人ホームなどにも設置され、高齢者の見守りや孤独感の緩和などにも活用されています。

従来のソリューションは、AIを搭載することそのものが評価されていました。しかし、今回のCESではもう一歩進み、「社会課題や世の中で起こっている事象に対して、AIで、これまでできなかったことを可能にするような取り組みが広がっている」と秋元氏は分析します。

このほか、在宅介護向けのアプリ「Guava」は、専門資格を持たない介護者が、被介護者の体調の変化をテキスト入力すると、AIが関連する症状やチェックポイントを提示。これにより、医師に相談すべきかやヘルパーへ連絡すべきかの判断をサポートします。

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出典:Guava

例えば、マウスやキーボード不要で顔の動きや音声で操作できるプラットフォーム「Cephable」は、表情や体の動き、音声コマンドなどを使いデバイスを操作できます。

もともとはハンディキャップを持つ人たちに向けたソリューションですが、先進国で軒並み少子高齢化が進む中、高齢者への活用も期待できます。

生活をより豊かにする家電

ホームエレクトロニクス(家電)でもAI搭載によりAIコンパニオンの役割を果たすものが増えています。

SAMSUNGはAI搭載の冷蔵庫、電子レンジ、洗濯機などの家電を発表。家庭内のデバイスをAIで連携させる「AI for all」というコンセプトを打ち出し、コミュニケーションベースの家庭用AIで人々の生活に変化をもたらそうとしています。

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出典:SAMSUNG

AI搭載はキッチン用家電だけでなく、洗濯機や掃除機にも広がっています。洗濯機内のカメラで洗濯物の状態を読み取り「どう動けば効率的に汚れを落とせるか」を考え稼働したり、自走式掃除機に取り付けたアームが走行の邪魔になる障害物を取り除きながら掃除したりと、「家電がちょっとずつ賢く便利になっていく」と秋元氏は解説しました。

世の中のトレンドを反映した新しい家電

家電ジャンルの中で目立っていたもののひとつが「蓄電池」です。モバイルバッテリーで有名なANKERをはじめとする複数の企業が、蓄電池やバッテリーに関するプロダクトを出展。

昨今、災害による停電や電気代の高騰といった社会課題に対応し、ソーラーパネルを設置する家庭も増えています。しかし、ヨーロッパでは日照時間が短い冬季間だと自家発電で賄いきれないことがあるため、必要に応じて設置できるパラソル型のソーラーパネルや、発電効率が良い夏場に電力を貯めておけるような蓄電池が注目を集めています。

また、ホームヘルスケア(自宅での健康管理)を重視した新しい家電も登場しています。フランスでヘルケアデバイスを展開するWithings(ウィジングス)は「パーソナルヘルスモニタリング」をテーマとしたプロダクト「OMINIA」を出展しました。

センサーが組み込まれた全身鏡のような大型ディスプレイと画像認識AIや体脂肪計、体重計が1つになり、台に乗るだけで体重や体脂肪だけでなく、姿勢の歪みを検知したり、肌質を分析する機能を有しています。

また、自宅で過ごす時間を快適かつ有意義にするためのデバイスも登場。LGがArtlumeとともに開発したディスプレイは、高解像度のデジタルアート作品をスクリーンセーバーのように表示することで、美術作品を自宅内に飾ることができます。

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出典:LG

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次世代の車を支えるテクノロジー

毎年、CESでは自動車関連の展示もなされ、2025年もさまざまな自動車業界を牽引するソリューションが集結しました。CESで経過を発表してきたソニーグループとホンダの合弁会社「Sony Honda Mobility」が開発する電気自動車「AFEELA(アフィーラ)」は、今年ついに年内の発売を発表しました。

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出典:AFEELA Sony Honda Mobility

AFEELAは多数のセンサーやカメラを備え、車内には大型ディスプレイを設置。単なるカーナビにとどまらず、カメラとセンサーが常に周囲の状況を把握して初めて通る道路でも天候や交通状況に合わせて適切な運転支援を行います。

CESでは実機よりも周辺テクノロジーが主役に

CESでは自動車の実機よりも「電気自動車や自動運転の普及を見据えた新しいテクノロジーの見せ方が増えてきている」と秋元氏は語ります。
オランダに本社を構える「HERE Technologies」は地図制作をはじめとした位置情報プラットフォームの老舗で、自動車メーカーなどとパートナーシップを結んで自社の持つデータやテクノロジーを自動運転に活用しようとしています。

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出典:Here Technologies

他にもウェアラブルデバイスメーカーの「Garmin」が自動車周辺テクノロジーに長けた企業と組み、自動運転時に運転席や助手席、後部座席などそれぞれにゾーニングした音声提供をするといった車内の体験価値を高める施策を走らせています。

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出典:GARMIN

また、半導体メーカーのNVIDIAはCES2025のキーノートの中で、自社のAIチップが自動運転やロボット産業を支える主力事業になるだろうと展望を語りました。このように、新しい自動車そのものの形を示すだけではなく、「ドライバーをはじめとしたユーザーの体験価値を高めるために周辺企業が積極的にマーケットに訴えかけていたのが印象的だった」と秋元氏は話します。

ビューティーテックはよりパーソナルに

ビューティー領域では、各ユーザーの状態に合わせてパーソナライズされたアドバイスを提供するプロダクトやサービスが多く見られました。

例えば、資生堂の「Skin Visualizer」は、カメラで撮影した肌の状態を解析し、鏡のようなディスプレイにスキンケアのアドバイスを表示します。

 
 
 
 
 
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美容系アプリなどを展開する台湾のPerfectによる「PerfectGPT」も、AIテクノロジーを搭載した美容のパーソナルアドバイスを提供するソリューションです。

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出典:Perfect

顔写真を撮影してシミやほうれい線など自身が気になる部分を選択すると、悩みに合わせたケアアイテムを提示します。

LEDを駆使したビューティーアイテム

そのほか、ビューティーテック領域で見られたのは、LEDを活用したデバイスです。例えばカナダ発のスマートライトメーカー「Nanoleaf」は、自社が持つLEDの技術を駆使した「LED Light Therapy Face Mask」を開発。マスクで顔全体を覆うと、LEDの高周波の光が肌の中の栄養素を活性化させるといいます。

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出典:Nanoleaf

これらのLEDや画像認識AIはスキンケアだけにとどまらず、CES2025ではLEDや画像認識AIを活用した頭皮ケアのデバイスも多く見られました。

できなかったことができるように。AI活用の深化が見えたCES2025

秋元氏は、CES2025を振り返り、「AIを押し出すのではなく、AIを使って今までできなかったことができるようになったという話題や、AIコンパニオンを発信する企業がとても多かった」と、AIテクノロジーが成長し続けていることを強調しました。

さらに、自動車業界の進化にも言及。自動車産業周辺のテクノロジー開発やアライアンスが積極的に行われている印象だったと話し、「自動運転を見据えた未来とかテクノロジーが、今後、産業として盛んになっていくだろう」と予測しました。

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ロンドンを拠点に活動するSTYLUSは、様々な業界のトレンドを分析し、未来の変化を予測するイノベーションアドバイザリーサービスです。
独自のアプローチで、データと経験を基にしたインサイトを提供し、企業がイノベーションを推進し、市場の変動に対応できるよう支援しています。

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