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連載「写真の権利」、第三回のテーマは、広告業界で最も扱いがやっかいといわれている「建物」の写真についてです。建物写真の何がやっかいなの?と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、長年に渡って写真素材の流通に係わってきたアマナにおいて、これまで最も多くのトラブルを引き起こす原因となった被写体が、実は「建物」なのです。詳しく見ていきましょう。
※2020年11月27日更新
具体的にどのようなトラブルが多いかというと、商品広告などに建物が写った写真を使った際に、「うちのビルの写真を勝手に使ってもらっては困る」といった内容のクレームが、直接広告主側に行ってしまって大騒ぎになるというパターンがほとんどです。クレームをしてきた理由を聞くと、「うちのビルの肖像権を侵害している」などという滅茶苦茶な理由(肖像権は人間だけがもつ権利)や、「使用する場合は、事前に申請をしてもらうことになっている」などという一方的な理由を述べてくる相手も少なくありません。さらには「許可料を支払ってもらう」といった、かなり強行な権利主張をしてくる相手もいたりします。
この問題については、以前から広告業界において撮影用小道具なども含む「モノのパブリシティ問題」、略して「モノパブ問題」というテーマで長年議論されてきた「目の上のたんこぶ」の一つです。
そもそも建物の著作権は法的にどのように保護されるべきで、建物を撮影した写真はどのように扱うのが正しい判断なのでしょうか。
実は著作権法に、大変重要な条文があります。
美術の著作物でその原作品が前条第二項に規定する屋外の場所に恒常的に設置されているもの又は建築の著作物は、次に掲げる場合を除き、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。
禁止行為として定められているのは、全く同じ意匠の建築物をつくる行為と、土産物のような複製物を作って、公衆に提供する行為だと明記されています。つまりこれ以外の目的であれば、自由な利用が著作権法で認められていて、写真を撮影することも、その写真を広告に使用することも、実は何ら問題ないということなのです。
このことを知っていれば、仮にビルの管理者側からクレームがきてしまった場合でも、対処がかなり違ってくるのではないでしょうか。相手側の主張は何の法的な論拠も無い、単なる「いちゃもん」に過ぎないのですから、本来全く相手にする必要はないということになります。
ただ、いくつか確認や注意をしなくてはいけないポイントもあります。
それは、その写真が建物所有者の敷地の中で撮影されていないか?いう点です。敷地内部での撮影であった場合は、建物所有者の「施設管理権」が優先される場合があるので、ここは要注意です。また、写っている建物の著名度に、ただ乗りするような使い方(フリーライド)も問題になる可能性がありますので、あわせて注意が必要です。
少なくとも町並みとして撮影されたような、複数の建物が並列に写っているような写真に関しては、何の問題もなく使用することができると思っていただいて良いでしょう。
さて、法的には問題がなくても、クレームはいつでも容赦なくやってきます。
実は各地のランドマークとなっているような有名なタワーや商業ビル、美術館や記念館、学校などの公共施設や大型のアミューズメント施設などのほとんどは、残念ながら自由な写真の使用を認めるスタンスには「ない」と言ってよいかもしれません。京都や奈良に代表される神社仏閣も、事前の使用許可にうるさいことで有名です。
これが冒頭でお話した、もっともやっかいな被写体である理由です。
どの建物や施設の管理者が、過去実際にクレームをしてきたかという情報は、なかなか入手しにくいものですが、アマナの運営サイトamanaimages などは、作品詳細画面(プレビュー画面)に注意事項として記載されている物件もありますので、ぜひ参考にしてみてください。
一方で、先ほど述べたような敷地の内部で撮影した写真や、施設の内観を撮影した写真、あるいは、法的にも事前の使用許諾が必要な物件があるのも事実です。
海外の例では、夜間照明が点灯しているパリのエッフェル塔の写真などがあげられます。こちらは、照明デザインが著作権保護の対象になっているため、しかるべき許可申請が必要な物件です。
使用したいと思っている建物の写真が、はたして事前の申請が必要なものなのかどうか、ぜひ一度、写真の提供元(販売元)などを通じて確認してみてください。
最近はアマチュアカメラマンが数多く参加している「投稿型」の画像販売サイトや、フリー素材としてアップされているサイトが増えてきました。その結果、商業目的での撮影が一切禁止されている物件の写真も数多くネット流通してしまっています。トラブルを回避するには、安全だという思い込みを一旦リセットして、面倒でも確認をとる以外ないかもしれません。
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